257 焼き鳥パーティー
「さて、焼き鳥の前に食前酒をどうぞ」
フェリクス王とイベールの前に食前酒として、まずは1つカクテルをコトンと置いた。ブラックオリーブの入ったカクテルだ。
途端にフェリクス王の瞳が、キラリと光った気がした。
「リナ、私は―――」
職務中、あるいは後でと言おうとしたイベール。だがフェリクス王に
「俺が許す」
と言われ、思わず生唾を飲んでいた。イベールもカクテルを飲みたかった様だ。
「殿下は、食前ジュースをどうぞ」
口を小さく尖らしたエギエディルス皇子には、ミックスドリンクを渡した。
もちろん、カクテルグラスに入れてオシャレにしてある。
オリーブの代わりに、ククベリーをフォークに刺して、カクテル風に見せたからね。
「すっっげぇ!! マジでカクテルみたいだし!!」
オリーブに似せたククベリーを入れたおかげで、カクテルと遜色がなくなった。
エギエディルス皇子は、それが堪らなく嬉しいらしい。気分だけは、大人の仲間入りだ。
「殿下。何を混ぜているか、御賞味下さい」
ノンアルコールのカクテルだけど、ただのジュースと違って色々と混ぜてあるからね。カクテルではないけど、楽しんで欲しい。
「俺への挑戦だな?」
「そうかもね?」
別に挑戦でも何でもなかったけど、エギエディルス皇子が楽しそうなので乗ってあげた。何コレ。マジで可愛い。
妙な気合いを入れて、カクテルもどきを飲み始めた弟の隣で、フェリクス王達もカクテルに口を付けた。
「……っ! ホワイト・ラムか」
ゆっくりと口に含んだフェリクス王の眉が、ピクリと動いた。
「さすがです。こちら "ブラックデビル" というカクテルです」
感服しかないよね。よくホワイト・ラムが入っているのが分かる。
このカクテル、フェリクス王が好きなマティーニに、ひけをとらないくらいキレがあるカクテル……らしい。ブラックオリーブが入っていて、マティーニ同様に高級感が漂う。
「へぇ。黒い悪魔か……面白ぇな」
フェリクス王はニヤリと笑っていた。
ネーミングにも満足している様子である。イベールは無表情だから、良く分からないけど。
しかし、知れば知る程この世界、面白いよね。
言語については、各国々がほぼ共通みたいだけど、大昔の名残なのか "方言" として多種多様の言語が混じっている。
アッチの世界でいう、英語やフランス語みたいな言語が、入り交じっているのだ。だから、地方によっても言い方が違う事もあるらしい。
ブラック=黒。というのも、その名残。
「なるほど……マティーニの "ホワイト・ラム" バージョンか」
ほのかに舌に香る見知った酒を感じ、フェリクス王は満足気にもう1口含む。
マティーニの、なんて言っている辺り、ホワイト・ラムと何が混ざっているのか完璧に分かっている。2種類だけではバレちゃうらしい。
「殿下は、何か分かりましたか?」
エギエディルス皇子も一生懸命に、カクテルもどきと格闘していた。
「バカにするなよ? ククベリーとシャインブドウ……後は」
甘酸っぱさの中に、それを引き締める爽やかな風味を感じ、エギエディルス皇子はピンとくる。
「後は?」
「レモンだろ?」
そう言って、兄王ソックリの笑みを浮かべた。
ますます似てきた気がするよ、エドくん。
「さすがですね? 殿下」
自信あり気に言うから、思わず笑っちゃったよ。
「さて、カクテルは各々御賞味しながら、メインの焼き鳥、鶏肉のモモからどうぞ。右が普通の鶏肉。左がロックバードの肉となっております」
せっかく2種類の鶏肉があるのだから、同じ部位を食べ比べしてもらおうと用意した。
この方が、断然違いが分かるからね。
「なるほど、食べ比べか」
面白い……とフェリクス王は口端を上げた。
「なんか棒に刺さってんのな」
まずはと、普通の鶏モモを手に取った皇子。持ちやすくて楽しそうだ。
「 "棒" じゃなくて "串" って言うんだよ、エド」
「へぇ "串" 」
「先が尖ってるから、気を付けてね」
莉奈は一応注意をしてから、次の準備に取り掛かった。
「んっ~! 食べ比べると全っ然味が違う!!」
1口ずつ交互に口に頬張ったエギエディルス皇子が、目を丸くさせていた。
基本どちらも美味しいが、食べ比べると同じ "鶏肉" なのにまったく味が違うのだ。
「ロックバードの方が、弾力があって味が濃いな」
フェリクス王も味の違いに、目を見張っている様だった。
「普通の鶏の方は、脂がさっぱりしている様に感じますね」
イベールも一瞬時を止めていたから、それなりに驚いているとみた。
「ムネ肉もどうぞ」
莉奈は焼き立ての鶏ムネ肉の串を、空になりつつある皆の皿に乗せた。
食べ終えた串は、長めのグラスに挿して貰う事も忘れないよ。
「ん!? ムネ肉の方が全然味が違うな!」
エギエディルス皇子が1番に声を上げた。
そうなのだ。普通の鶏のムネ肉はパサつくんだけど、ロックバードのムネ肉は程よく脂がのっていて、しっとりしている。
比べると本当に良く分かる。
「正直。ムネ肉は好きではありませんでしたが……からあげやこの調理方法だと美味しいですね」
お酒のせいか、美味しい焼き鳥のせいか、普段あまり話さないイベールも実に饒舌である。
「確かに」
王も納得していた。
―――って、ムネ肉好きじゃなかったのかよ。
皆さん意外と好き嫌いあったのね。
莉奈は苦笑していた。今まで簡単な調理方法だったから、確かに美味しさ半減な料理もあった。
それを言える立場の王族なのに、作ってくれている料理人達に、配慮して言わなかったのかもしれない。この国の王族、優しすぎだよ。
この国に喚ばれて良かったな……と改めて思う莉奈だった。




