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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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252 黒い悪魔 



「レモンで砂糖を……ん。中々難しいな」

 渡したカクテルをさっそく飲もうとしている軍部の人。グラスに乗ったレモンで砂糖を挟むのが、意外に難しいらしい。ちょっとばかり苦戦している。

「これ、なんて名のカクテルなんだ?」

 ゲオルグもなんとか完成させ、満足そうにしている。

 ひょっとしたら、奥さんにあげた時の反応を想像しているのかも。

「ニコラシカ」

 シュゼル皇子用にもと、莉奈はいそいそ作っていた。

 オレンジとかライムとかを、同じ様に輪切りにしても楽しめると思う。

「ニコラシカ……か」

 自分で作ったカクテルを持ち、ゲオルグは反芻させ呟いていた。

「ん~っ!! な~にコレ。口の中で色んな味が混ざって面白っ!!」

 莉奈に貰ったニコラシカを、たった1人だけで堪能している軍部の人。

「美味しいのか?」

 ゲオルグが部下に訊いていた。

 奥さんにあげる前に、しっかりとリサーチしたい様子。

「旨いっス。初めは酸っぱいけど……スゴい面白い」

 口の中で混ざり合うお酒とレモンが、なんだか面白くて楽しかった。レモンを肴にブランデーを楽しむ様な、不思議な感覚だった。

「そうか、そうか」

 ゲオルグは感想を聞いて、実に満足そうに笑った。

 奥さんの喜ぶ顔でも想像したに違いない。愛されてるんだな……と莉奈の顔も綻んだ。




「さて、次はゲオルグさんに貰ったホワイト・ラムで作りますか」

 本命はコッチだ。ニコラシカはどう考えてもフェリクス王向きではないからね。砂糖が乗ってる時点でアウトである。

「何を混ぜるんだ?」

 ワクワクしている料理人が訊いてきた。

「ドライ・ジ……って、ブラックオリーブがあるじゃん」

 料理人達が先程用意してくれていた中に、塩漬けのブラックオリーブがあった。

 以前マティーニを作った時は、グリーンオリーブを使ったけど、熟した実のブラックオリーブがある。使わない手はないだろう。

 ちなみに、このオリーブを漬けた汁を使ったカクテルもあるんだけど……面倒だから今日はイイや。

「マティーニみたいに使うのか?」

 ゲオルグが興味深げに訊いた。

 マティーニの時の様に飾りで入れると、想像したらしい。

「うん。んじゃ先に、ブラックオリーブを使って "ブラックデビル" ってカクテルを作ろっか」

「「「ブラックデビル!?」」」

 皆はその怪しいネーミングに、少しだけ驚いたものの、すぐに興味津々な表情に変わった。

 だって "黒い悪魔" だもんね。



「辛口か? 辛口なんだろ?」

 悪魔と聞いたゲオルグが、さらに前のめりになっていた。

「辛口だね。このカクテルは超簡単だから、後で皆も作れば?」

「マジか、簡単ならイイな」

「「「難しくても作るけどな!!」」」

 莉奈がそう言えば、料理人達は楽しそうに笑った。どうやら難しくても作る気満々みたいである。



「よしよし。グラスは何にする?」

 ゲオルグが1番作る気満々だけどね。

「カクテルグラスでいいかな」

 持ち手の長い逆三角の、良くあるカクテルグラスを選んだ。さっきはシェリーグラスだったし、変化があった方が面白い。

「さて、混ぜて作るから大きめのグラス……って、ミキシング・グラスがあるしっ!!」

 色んなグラスの中に混じる様に、ビーカーに似た形のミキシング・グラスがあったのだ。ビックリである。

「だってカクテル作るには必要だろ?」

「必要だろって……あなた達、寸胴で作るよね?」

 スープでも作りますか? って感じで寸胴にジャバジャバ入れて、スープを注ぐ大きなお玉、レードルで混ぜる。最後は魔法で一気に冷やして作ってるのだ。

 ここは家じゃないし工程を見せる必要もないし、1人や2人分しか作れないミキシング・グラスは王宮に必要だとは思えない。

「だけど、リナは寸胴で作ってくれないだろ?」

「あのねぇ。私ありきで話をするの、ヤメてもらってイイかな?」

 確かにあれば便利だけど、私が作る事前提で道具を用意するのはヤメてくれるかな? 何だか素直に喜べない莉奈だった。



「まぁ……イイや。とにかくミキシング・グラスに氷を適当に入れる」

 もう、反論するのは諦め作業に戻る莉奈。確かにそれを作る専用の道具で作るのは楽しいからね。このカラカラと、カクテルを混ぜる工程は理科の実験みたいで面白いし。

「そこにホワイト・ラムとドライ・ベルモットを2:1で注ぐ。んで、軽く混ぜてグラスに注げば出来上がり」

 カクテルピンはさすがになかったから、フルーツ用の小さなフォークにブラックオリーブを刺し、カクテルグラスに先に入れる。

 そこに混ぜた、お酒を注げは "ブラックデビル" の出来上がりである。

 ホワイト・ラムが入っているから、少し白濁した色のカクテル。普通のグラスに入っていれば、レモン水に見える。器と飾りって本当に大事だよね。

 


「2:1で混ぜるのか。確かに簡単だな」

「だけど……そもそも、ホワイト・ラムってそんなにあったっけ?」

「ドライ・ベルモットだって、マティーニ作るのに使っちゃっててそんなにねぇんじゃ……」

 ただでさえ、酒を飲む軍部 "白竜宮" 。カクテルを知り、さらにお酒の消費量が増えていた。はたして、今、新しいカクテルを知ったところで、皆の口に入るのか算段しているらしい。



「そんな悩んでる皆様に、朗報です」

 莉奈は、皆のちょっとした不幸? を知りほくそ笑む。

「何? 朗報って」

「次に作るカクテルには、もれなくドライ・ジンを使います」

 とドライ・ジンの酒ビンをドスンと、作業台に置いた。

 そうなのだ。ブラックオリーブを見つけて思わず違うのを作ってしまったが、初めに作ろうとしたのはドライ・ジンを使ったカクテルである。

「げっ、マジかよ!!」

「ドライ・ジンもねぇよ!」

「てか。両方ともマティーニで使っちまってて、少ししかねぇ~!!」

「「「全然朗報じゃないし!!」」」

 それを聞いた料理人達は、嘆き叫んでいた。

 だって、以前作ったマティーニってカクテル。ドライ・ジンとドライ・ベルモットを混ぜて作るカクテルだ。

 しかも材料はそれと、オリーブだけ。簡単に出来るから良く作ってたみたいで、両方とも在庫量が少ないみたいだ。

 本気で衝撃を受けている軍部の人達に、莉奈は笑っていた。

 それこそ、悪魔の様に……。

 





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