231 自由人
「――という訳で、白竜宮に来てくれませんか?」
シュゼル皇子は、帰還の挨拶もソコソコに、厨房にいた莉奈を見つけてそう言った。
「はぁ」
厨房にいた莉奈は、瞠目したまま固まっていた。
急に食堂に現れたと思えば、厨房にいた莉奈を見つけ、真珠姫と宿舎の話である。なんなら莉奈は今、手にはボウルを持っている状態だ。色々あり過ぎて頭が追い付かない。
「何を作っていたのですか?」
「……はぁ」
真珠姫の事を話し終えたシュゼル皇子が、今度はボウルを見て何を作っているのかマイペースに訊いた。竜の話から料理の話まで、話が飛び過ぎである。
莉奈は、何から答えていいのか呆然としていた。
「マジで、話ブッ飛び過ぎ。フェル兄には報告したのかよ?」
いつもの様に一緒にいたエギエディルス皇子は、一応だが念のため訊いてみた。報告もなしに飛んで来たなら、ここは地獄になる。
「勿論しましたよ。あっ、リナお腹が空きました。ご飯を下さい」
当然、兄フェリクスには白竜宮に向かう前に報告済みだ。
シュゼル皇子は厨房で作っていた料理の匂いを嗅ぎ、お腹が減った様である。お腹を軽く擦り、「よろしくお願いしますね?」とマイペースに食堂に向かって行ったのだった。
有無を言わせない微笑みの魔術師、その名もシュゼル。
――自由過ぎる!!
―――真珠姫は、どうなったんだよ!!
莉奈は、そう叫びたかった。
突然、食堂に現れたシュゼル皇子は、莉奈を見つけるや否やニコニコ。そして、厨房に来たかと思うと真珠姫と宿舎の話。
今は、食事の話。訳が分からなかった。真珠姫は良いのだろうか?
ちなみにだが、莉奈がちょいちょい食事の事を "ご飯" と言うので、この王宮でも自然と定着している。
◇◇◇
「ロックバードで作った、チキンカツサンドセットです」
莉奈は精神的に、非常に疲れたので出来合いのモノを差し出した。
元の世界ならあり得ないが、魔法鞄のおかけで何時でも何処でも出来立てだ。シュゼル皇子は初見な食べ物だし、イイかなと自己判断した。
「チキンカツサンド?」
「ロックバードの肉を揚げて、パンに挟んであるんだよ」
「セットというのは?」
「オニオンリングかフライドポテト、後は飲み物が付いたのをセットって言うんだぜ?」
エギエディルス皇子が、シュゼル皇子の向かいに座り、自慢気に説明した。
ん? エドくんや。その説明、あながち間違ってはいないんだけど……それだと、何でもその2つが付けば、セットになっちゃいますけど?
例えば、何かをサンドしたパンではなく、焼き芋とかにでもその2つを付けたら。
"焼き芋セット" になる訳で……まぁ、可愛いからいっか。
「んふぅ。やっぱり、リナの作るご飯は美味しいですね。ん? このサクサクしているのは?」
「パン粉といって、パンを削って作ったものです」
自分の作るものを美味しいと、言ってくれるのは良いのだけど……のんびりしていてイイのかな?
「なるほど、パンを……。このタルタル? 酸味があって面白いソースですね。あ~パンもふわふわで美味しい」
シュゼル皇子は、ゆっくり味わう様にチキンカツサンドを食べていた。
ジャンクフードを食べているのに、ものスゴい優雅だ。何を食べていても気品があった。
「はぁ~っ。リナのおかげで生き返りました」
チキンカツサンドを食べ終わり、アイスティーを飲むシュゼル皇子。お腹が満たされて、実に満足の様子である。
「シュゼ兄。向こうでちゃんと飯食ってたのか?」
10歳程のエギエディルス皇子が兄を心配する姿は、まるで母親の様だ。普通は逆である。
「食べる訳がないでしょう?」
さも当然の様に、サラッと言ったシュゼル皇子。
「「は?」」
エギエディルス皇子と莉奈は、ほぼ同時に声を出していた。
……何? 食べる訳がないって。
そこは普通「食べるに決まっているでしょう」じゃないの?
「シュゼ兄。もう1度訊くけど、本っっ当にアッチで何も食ってないのかよ?」
「冗談ですよ。何かしらは口にしていましたよ?」
弟に訝しい目を向けられ、少しだけ言い換えたシュゼル皇子。
「……何を?」
「リナ。食後のデザートを下さい」
「まさか……また、ポーション……じゃねぇよな?」
「……リナ。アイスクリームを下さい」
「「……」」
今、絶対に微妙な間があった。それで2人は悟った。この人、またポーション生活をしていた……と。
気のせいかとも思ったが、顔がホッソリしている。行く前よりも少し痩せているのだ。
以前の仙人こと、シュゼル皇子に逆戻りである。
「アイスクリームを出す前に、1つお約束して頂けますか?」
「何をでしょう?」
「食事はしっかり摂って下さい」
20歳過ぎた大人に、言うセリフではないのは百も承知だ。
だが、そうでも言わないと、この人。また、すぐにポーション生活に戻るに違いない。
「……」
微笑んで誤魔化そうとするシュゼル皇子。
召喚されて間もない莉奈なら、それは効いたかもしれない。しかし、もう惑わされたりしない。
「では、アイスクリームは――」
「とっ、遠くへ出張の時は、リナを連れて行くか、食事を持参する事にします」
アイスクリームを出さないと言われ、焦ったシュゼル皇子は仕方がないとばかりに、代案を出した。
「……持参して下さい」
自分を連れて行かれるのは御免である。
何故たかが一般人の私が、皇子の公務や出張に付いていかなければならないのか。オカシ過ぎるよね。
大体、ご飯持参って遠足か――い!!
「……はぁぁぁっ」
そんな兄に、弟皇子は深い深いため息を吐くのであった。




