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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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230 真珠姫吠える



 壁には1つ絵画が飾ってある。その昔、どこかの絵師が描いたという風景画だ。描かれた花々は、莉奈の番と同じ綺麗な空色系統の色使いの絵だった。

 さすがに部屋に扉はない、開けるより破壊した方が早いし、開ける習慣がないからである。

 だが、入り口とは真逆の位置に小窓が付けられていた。ガラスも填めてあり横に滑らせるスライド式ではなく、外に向かって小窓の下を押す開閉式になっている。窓の脇には竜に必要はないが、可愛いカーテンまで設置してあった。


 圧巻といえば天井だろう。わざわざ作ったのか、明りとりとして小さな天窓まで付いている。そのおかげで、薄暗さを感じていた部屋が明るい。そう……端ではないこの部屋が一番明るかったのだ。


 そして梁や壁には、莉奈が恥ずかしくて使わなくなった、レースの天蓋が設置されていた。お嬢様のベッドには、もれなく付いてくるあの天蓋である。


 本来はベッドを囲む様にある木の枠から、レースを垂らしたのが天蓋なのだが、ここには簡易的に梁や天井から吊るしてあるのだ。

 もちろん、竜がなるべく引っ掛からない様に配慮して、真ん中部分はふわりと壁にリボンで結んであった。

 色は竜が自分の鱗の色を好むという話なので、莉奈の竜と同じ青を基調にしている。派手さはないが控えめでオシャレだった。


 家具はさすがに必要がないから置いてはいない。しかし、首をあまり下げなくても良い様な位置に、台が設置されていた。果物や水が置け、口に出来る様にである。

 その台の横には、人が登れる様に階段まで設置してある。竜のご飯を台に置きやすい様にであった。


 その部屋は竜の存在を知らぬ者が見たら、お嬢様の部屋と見間違えてもおかしくはない。ただ、床にはベッド代わりの藁があるというだけ。シーツは爪を引っ掻ける恐れもあり、竜の安全のために敷いてないのだった。

 

 だが、何の意味があるのか分からないクッションは数個程ある。もはや、ここは竜の部屋なのだろうか?

 

 

「はぁぁ……スゴいですねぇ」

 莉奈の竜の部屋を今初めて見たシュゼル皇子は、ポカンとしている様に見えた。

 口こそ下品に開けてはいないものの、明らかに目は見開いていた。確かつい先日までは空き部屋だったのだが、今はどこぞのお嬢様の部屋と遜色がない……そう、竜の部屋がだ。



「スゴいとかスゴくないとか、そうではないのです!! 新参者がこの様な部屋を持ち、この私の部屋がブタ小屋なんてあり得ません!! 早急にどうにかなさい!!」

 帰還早々に莉奈の竜の部屋を見て、唖然と驚愕で身体が震えていた。そして、何もない自分の部屋との余りの落差に、真珠姫は大衝撃を受け半狂乱になっていた。

 それほどの衝撃があったのだろう。自分達がそれで良いと、今まで住んでいた部屋。だが、比べてしまうと余りにも酷く、ブタ小屋の様に見えてしまったのだろう。


「ブタ……あなた、ブタは本来とても綺麗好きなんで―――」

「論点はそこではありません!!」

「はぁ。契約した時に、何か必要ですか? と聞いた時―――」

「状況は日々変化するのです!! 男が過去の事をウダウダウダウダと……っ! そうです! 竜を喰らう娘!! 魔物を喰らう娘をここに呼びなさい!!」

 挙げ句、莉奈を呼べと噛みつかんばかりである。

 雨風を避ける壁と、寝床にする藁だけでイイのは昔からだった。シュゼル皇子が、本当にそれだけで良いかと訊いた時には、藁さえ替えてくれれば問題ないと、言っていたハズである。

 なのに、この変わり様にシュゼル皇子も、呆れて言葉が出ない。

 

 何を言っても一向に動かないシュゼル皇子に、キレ気味の真珠姫はギャワギャワと騒ぎ、イイから早く莉奈を呼ぶように訴えた。

 シュゼル皇子がダメでも、作った莉奈に頼めば良いのだと。



「真珠姫。彼女も、暇では――」

「お黙りなさい。あなたが行かないのなら私が行きます!!」

 もう、何を言っても聞く耳を持たない真珠姫は、宿舎の外にドスドスと歩き出していた。シュゼル皇子ではダメと、判断した様である。

 そして、莉奈のいるだろう王宮に向かうべく、羽ばたき始めていた。

「「「……」」」

 ゲオルグ師団長以下、色々な意味で唖然呆然である。

 空色の竜の部屋を気に入り過ぎだとか、怖いくらい食い付き過ぎとか、莉奈に対して酷い異名が増えているとか……すべてだ。


 部屋は確かに莉奈の言った様に、綺麗に飾り付けはしたものの、竜はこれを嫌い破壊すると思っていたのだ。なのに、実際は真逆だった。

 怯えてさえ見せた莉奈の竜は、戻って来た途端にこの部屋を一目で気に入り、莉奈にガッツリ懐きに懐いていた。

 莉奈がウザイと言うまで、上機嫌でクルクルと喉を鳴らし、引っ付いていたくらいである。


 そして―――その部屋を見た、他の竜達も部屋を改善しろ……と言い出し、今や竜の宿舎では、ちょっとした一大リノベーションブームとなっている。それに、真珠姫も乗っかるのか。


 メスの竜を番に持つ竜騎士達は大変である。竜関連の費用は、一部は国が負担してくれる。……とはいえ、飾り付けは今だかつてない話である。なので、現状の費用は竜騎士達の懐から出ている。

 安くない飾りに、竜騎士達は頬がヒクヒクしていた。

 

 オスの竜達だけは、興味がないのか今は呆れ静観しているが……いつやれと言われても可笑しくはない状況であった。

 明日は我が身かと、何とも言えない竜騎士達である。



「分かりましたよ。真珠姫。私がリナの所に行って来ますから」

 仕方がないと諦めたシュゼル皇子は、飛ぼうとしている真珠姫を呆れながら抑えた。

 いくら竜に怯えない莉奈だとしても、真珠姫が突然現れれば驚くだろうし、周りの人間は気絶か失神するに決まっている。

 それが分かっていて、真珠姫を行かせる訳には行かなかった。

「5分で連れて来るのですよ?」

「ハイハイ、真珠姫。なるべく早く連れて来ますから、大人しくしているのですよ?」

 5分で連れて来られる訳がない。説明もなしに莉奈を取っ捕まえて、有無を言わさず連れて来るならともかく。

 ものスゴい無茶ぶりに、シュゼル皇子は盛大なため息を吐き、その場から瞬間移動テレポートしたのであった。




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