229 あの方の御帰還
―――平和なひとときが、数日間流れていた。
莉奈も大人しく? 実に平穏であった。
だが、そんな平穏な白竜宮の空に、雲に混じり白い竜が飛来した。
そう……あの御方が番の竜に乗って帰還したのだ。
途端に軍部【白竜宮】は慌ただしくなった。宰相シュゼル皇子の御帰還である。早急に出迎えねばと、バタバタと慌ただしく走る音が響いた。
「「「殿下!! ご無事の御帰還お待ちしておりました!!」」」
シュゼル皇子が番、真珠姫からひらりと舞う様に降りると、先に着いた近衛師団兵が、右胸に手を添え頭を深々と下げて出迎えた。
「ゲオルグ。変わりは?」
「リナが、番を迎えました」
いち早く着いたゲオルグ師団長は、顔を上げそれに答えた。
王竜の事、そして竜が番に莉奈を選んだ事を、まず先にと報告する。
「そのようですね。先日、真珠姫から聞きました」
王竜の咆哮は、遠征をしていた真珠姫の耳にも届いていた。詳しくは、他の竜達を介してシュゼル皇子の耳にも入っていたのだ。
「空色の竜だとか――」
宿舎は? と言うまでもなく……莉奈の竜が宿舎からノシノシとやって来た。
白い竜。真珠姫とシュゼル皇子に挨拶に来たのだろう。
「リナを番に選んだそうですね?」
挨拶もそこそこに、シュゼル皇子は莉奈の竜に訊ねた。
王竜がいくら女性を番に持つ事を許可したとはいえ、こんなにも早く女性が竜の番を持つとは思わなかった。
それも、あの莉奈である。真珠姫から聞いた時、驚いたのも確かだったが、何故か納得する自分もいた。
莉奈ならあり得る……と。
「あの者には、不思議な感覚を覚えましたので」
空色の竜は、ご満悦の様だった。初めこそ怯えて見せたあの竜が、今や莉奈に懐きまくっていた。
事情を知る者達からは、苦笑いが漏れていた。ゲンキンな竜だな……と。
「真珠姫と同じ宿舎ですか?」
チラリとだったが、この竜は真珠姫と同じ宿舎から出て来た様に見えた。珍しいなと興味が湧く。
王竜、真珠姫の宿舎は、遠慮しているのか畏れ多いのか、他の竜はほとんど使わないからだ。
「はい、2つ隣に」
そう言って真珠姫を見た、空色の竜。
「そうですか。仲良くしてやって下さいね?」
シュゼル皇子は、真珠姫の鼻先を撫で、ほのほのと微笑んだ。
どういう理由があるのか、ないのかは知らないが、同じ宿舎にやっと真珠姫以外が入って来たのだ。楽しくやって欲しいと願う。
「シュゼル。私は喉が渇きました。何か果物を」
どういうやり取りがあったのか、いつの間にか名前を呼び合う様になった1人と1頭。
皆が不思議に思う中、真珠姫はシュゼル皇子に果物を要求した。
人を乗せ、空を飛んでいたので疲れたのだろう。
「えぇ。あなたのおかげで、色々な食材が手に入りました。ありがとうございます真珠姫。少しゲオルグと話があります。先に宿舎に戻っていて下さい」
持って行きますからね。とシュゼル皇子が言うと、真珠姫は頷きノシノシと宿舎に帰って行った。
莉奈の竜も、その後を追う様にゆっくり付いて行く。白色と空色。お互いに引き立て合い、並ぶと実に綺麗であった。
――ギュワギュワ。
シュゼル皇子が、ゲオルグ師団長に報告していると、にわかに真珠姫の宿舎が騒がしくなっていた。
微かに竜の声が聞こえる。声の質からして、先程戻って行った、真珠姫と空色の竜の様である。
シュゼル皇子達がそれに気付き、宿舎に足を向けた瞬間――
―――ギュワ~ッ!!
と竜の声がハッキリ聞こえた。
咆哮でもなく、悲鳴な感じでもない。驚きの様な憤りの様な、なんとも表現のしようのない声であった。
人の言葉ではないため、何を言っているのかは分からない。ただ、少しだけ揉めている様子にも感じた。
「シュゼル――――ッ!!」
もはや念話など使わずに、真珠姫の呼ぶ声がした。
そして、その宿舎からは、慌てる様にバタバタと真珠姫が出て来た。
シュゼル皇子同様、優美なイメージしかない真珠姫からしたら、珍しい事である。それだけ、驚く様な何かを見たか、早く伝えたい事でもあったらしい。
「どうしました? 真珠姫」
何をそんなに慌てているのか。シュゼル皇子にはサッパリである。
「どうしたもこうしたもありませんよ!! 何故、女王とも云えるこの私の部屋が、この者より劣るのですか!! 早急に相応しい部屋にしなさい!!」
真珠姫は、シュゼル皇子を捲し立てる様にグワグワと文句を言ってきた。息が荒いのか真珠姫の起こす風で、皆の髪や服がヒラヒラとなびいていた。
そんな中でもシュゼル皇子は、微笑みながらも首を傾げる。
質問をしたのに、何の答えにもなっていないので、サッパリである。
「暢気にボケボケしているのではありません!! 部屋を私に相応しい物に変えなさい!!」
「急にどうしました?」
「イイから、この者以上にするのです!!」
「「「……」」」
ピシリと空色の竜を、片翼を広げ示した。この "者" とはつまり、莉奈の竜の事だった。
シュゼル皇子の首がますます傾き始めた中、ゲオルグ師団長達は心当たりがあり過ぎて顔がひきつっていた。




