228 誰かスライスして?
「はぁ~腹へった~。あっ! なんか食ってる」
「あぁっ!! からあげじゃん。俺達にもくれよ」
ドヤドヤと軍部の人達が食堂に入って来ると、途端に揚げ物の匂いに導かれ、ゲオルグ師団長達のテーブルにあるからあげを見つけた。
料理人達は事情を知っているから、静観しているが、後から来た人達は知らない。
ただ莉奈に作って貰ったと思ったみたいである。
「やらねぇよ」
「なんでだよ? いっぱいあるじゃんか」
「少しよこせよ!」
「「「リナの手伝いをした、ご褒美だからやらねぇよ!!」」」
クレクレ言う軍部の人達を、近衛師団の人達は皆が皆、自分の分のからあげは渡さんとばかりに振り払っていた。
ゲオルグ師団長は、そんな様子も気にもせず、落ちない吸引力でからあげを飲み込んでいた。掃除機メーカーも真っ青である。
「手伝いってなんだよ?」
「リナの竜の――って師団長!! ちょっと、コッチの皿にまで手を出さないでくれます!?」
「コッチは俺達の領域ですってば!!」
「そんなの誰が決めた? 早い者勝ちだろう」
「違~っう!! そんな訳――だぁー減るーっ!!」
「「「誰か師団長を止めろ――っ!!」」」
近衛師団兵は後から来た人達より、ゲオルグ師団長の吸引力を止める方に必死である。相手をしている時間ももったいなかった。
「リナ! 手伝いをすればアレを作って貰えるのか!?」
アレとはからあげの事だろう。食べてる人達の話を途中まで聞き、莉奈の手伝いをしたから貰えたと、理解した様だ。
作って貰えばイイのに……と思わなくもない。だが、ここは社食や学食みたいなモノであって、レストランではない。
だから通常、朝昼夜のメニューが決まっている。あれが欲しいなんて言っても、作って出しては貰えないのだ。
家でも店でもない。頼めば出てくるシステムではないのである。
今、からあげが食べたいのなら、今日のメニューがからあげか、莉奈に作って貰えなければ食べられないのだ。
そんなの関係ないとばかり、好き放題やらせて貰っている莉奈は、大好物のからあげをパクリ。あ~美味しい。
「リナ~。なんか手伝うから、からあげ作ってくれ!!」
「なっ? リナ様!!」
両手を合わせお願いポーズの軍部の人達。
タールさんもやってたけど、コッチの神様にも、手を合わせる習慣があるのかな? と莉奈はジッと見ていた。
「「「リ~ナ~」」」
どうしても食べたい皆は、一生懸命にお願いしていた。莉奈が意外と押しに弱いと、噂があったからだ。
そんな噂を知らない莉奈は、ふとある事を思い付いた。
「からあげ作るなら、何か手伝ってくれるの?」
「もちのロンよ!!」
「イエッサーリナ!!」
莉奈が重い腰を上げたと、軍部の人達は喜んだ。やっぱり押しに弱い! これで、からあげが食べられる……と。
だが、喜んだのも束の間、莉奈が「んじゃ、これ。スライスしてきて」と魔法鞄から取り出したモノを見て全員絶句した。
莉奈が取り出したのは、ステンレスのバットに入った青紫のナニかだった。
「えっ? キッモ!!」
「ナンだよそれ。うぇっ」
「気持ち悪ぃ~~っ」
一斉に莉奈から距離を取ったかと思えば、口を押さえてえずいたり、鳥肌が立った腕を擦っていた。
「俺がからあげ食ってんのに、ンなもん出すな――っ!!」
エギエディルス皇子は眉間に深いシワを寄せ、テーブルをドンと叩いた。
からあげの美味しい余韻が台無しだと、いわんばかりに抗議している。
「そうは言うけど、スライスしないとなんも出来ないもん」
「ヴィルにスライスして貰っとけば良かっただろ!?」
「あ~。そこまで考えなかった」
「気持ち悪いから、サッサとしまえ!!」
エギエディルス皇子はさらに猛抗議である。食事中に見るモノではないと、ブツブツ言っている。
「リナ……それ」
口を押さえて青ざめていた近衛師団兵が、何かに気付いた様だ。あの時にいた人なのだろう。
青紫の物体。血管の様な管があるモノ。
「うん。キャリーの心臓」
そう、コレ。タール長官に調理よろしく、と言われた例の芋虫の心臓である。青紫で何か管が見えていて、何度見ても気持ちが悪い。
触りたくないから、スライスだけでもして貰おうかと考えたのだ。スライスした後なら、箸かトングで掴めるからね。
「キャリオン・クローラーを "キャリー" とか言うんじゃねぇ!!」
エギエディルス皇子は、可愛らしく呼ぼうが気持ち悪いと叫んでいた。あの気持ち悪い芋虫に、名前を付けるなと。
「……リ……リナ。まさか、食べるのか?」
ゲオルグ師団長が、頬をひきつらせながら恐る恐る莉奈に聞いた。まさかとは思うが、ロックバードを1番に食べた莉奈だ。
気持ち悪いと言いながらも、鑑定で食用と出て、興味が湧いたのかと思ったのだ。
「まっさか~食べる訳ないじゃん。私じゃなくて、タールさんだよ」
私だと思われるのは、実に心外である。
「「「あぁ」」」
タール長官の名を聞いた途端に、皆が大きく納得した様な声がした。
どうやら彼は、王宮ではゲテモノ、変わりモノ好きで有名みたいだった。
「早く。スライスして来てよ」
そう言って莉奈は、からあげをお願いしてきた人達に、心臓の入ったステンレスのバットをグイグイ押し付けた。
「「「えぇっ!?」」」
「いや。なんて言うか……」
「触りたく……いや、その」
「腹が! そうだ。俺、腹の調子が悪かったんだ!」
「おっ俺も、下痢!! 下痢だった!!」
「トイレが俺を呼んでいる!!」
「「「じゃ。またなリナ!!」」」
いくら魔物を解体出来るとはいえ、これはあの毒の芋虫。触りたくない様である。
青紫の心臓をもう1度見るとブルリと身体を震わせ、苦しい言い訳をしながら、慌ただしく消えて行ったのである。逃げたともいう。
―――後日。
タール長官に、コレのスライスを頼む莉奈の姿が、魔法省にあったのはいうまでもない。




