222 メレンゲでクッキーを作ろう!
「卵白……泡立てたよ。……これくらいで……どう?」
リック料理長が、息をきらせている。
卵白を泡立てていた莉奈達は、ぜぇぜぇと苦しそうな息を上げていた。それぞれの想いが、このメレンゲにたくさん詰まっている。
そう言うと……実に壮大だ。
「完璧」
リック料理長が、見せるために持ち上げた泡立て器は、ものスゴい固く泡立った卵白が、こんもりとついていた。
ツノは立ち過ぎなくらい立っている。泡立て器どころか、ボウルを逆さまにしても、メレンゲは落ちないに違いない。
「この卵白が泡立った状態を "メレンゲ" っていう」
「「「へぇ~っ」」」
皆が大きく頷いた。卵白を泡立てると名称が変わるのかと。
「で、このメレンゲを使って "メレンゲクッキー" と "ラング・ド・シャ" っていうお菓子を作るよ」
「「「いやっほ~っ!!」」」
待ってました! とばかりに、マテウス副料理長達が歓喜の声を上げた。リック料理長は疲れきっているけれど。
「メレンゲクッキーは、超簡単。メレンゲに砂糖をざっくり混ぜて、オーブンで焼くだけ」
「え? 材料はこれだけ?」
「そっ。超簡単でしょ?」
メレンゲを作るのは面倒だけど、材料は少ないし混ぜるだけだし簡単だ。
莉奈は簡単に説明しながら、リック料理長とマテウス副料理長にやらせてみた。
実際作ってみた方が、感覚が分かるからね。
2人はふむふむと頷きながら、ヘラを使ってメレンゲと砂糖をざっくりと混ぜていた。
混ぜ過ぎると、せっかく泡立てた卵白が萎むから、あくまでもざっくりでイイ。
「本当は絞り袋に入れてやるんだけど、ないからスプーンを使って鉄板に落とす」
「なるほど。スプーンを2つ使って落とすんだな?」
ふわふわしたメレンゲ生地は、そのままではスプーンにへばりついて落とせないから、少し湿らせたもう1つのスプーンで鉄板に落とす。
もちろん鉄板には、くっつかない様に薄く油をひいてある。クッキングシートがあればベストだけど、代用で油紙を敷いてもイイ。
「んじゃ。メレンゲクッキーは焼ければ出来上がり。次は "ラング・ド・シャ" を作ろう」
「「「オー!!」」」
余熱しておいたオーブンに、並べたメレンゲクッキー生地を入れてスイッチをONにした。これでヨシ。後は、焼けるのを待つだけ。その間に別のお菓子を作る。
「 "ラング・ド・シャ" も意外と簡単。材料はメレンゲ、バター、砂糖、薄力粉を混ぜて作る」
分量はレシピ本によって違うけど。面倒くさいから、メレンゲと薄力粉は1:1で混ぜて作る。これなら簡単だからね。
「バターは、砂糖と一緒にグリグリ混ぜて」
「こうか?」
これは、軍部のサイルにもやらせる。
リック料理長とマテウス副料理長と3人だ。リリアンとアンナは大雑把過ぎるから、やらせない。ガシャガシャ混ぜられたらメレンゲが萎んじゃうから。
「白っぽくクリーム状になったら、メレンゲを入れてなるべく泡を潰さない様に……上手い上手い。さすが、料理人」
口だけの説明なのに、リック料理長達3人は理解出来たのか、キレイに混ぜてくれた。
「お菓子作り……面白いな。ハマりそうだよ」
リック料理長が、楽しそうに呟いた。クリームを混ぜたりするのが、今までの料理にはない感覚で面白いみたいだ。
「混ぜるのって、なんか楽しいよね~」
莉奈もそれには頷き笑った。
お菓子作りって、手間しかないけど。スゴく楽しいのだ。
料理番組でお菓子を作っているのを観るのは、とくに好きだった。テレビ番組は必ずチェックして、予約していたくらいである。
作る作らないはともかく、人が作っている工程が好きだった。
「混ざったら、ザルでふるった薄力粉を入れて、これもざっくり混ぜる」
「なんで、薄力粉をザルでふるうの?」
リリアンが不思議そうに訊いた。
そのまま入れるのでは、いけないのかと気になるらしい。
「ダマになるから」
「なるほどね。確かにキメが細かい」
「繊細なんだな」
リック料理長とマテウス副料理長が、混ぜながら納得していた。
ザルでふるった薄力粉は、サラッとしていて細かい。ふるう前は、ところどころダマ、塊がある。
「混ざったら、さっきみたいに鉄板に並べてオーブンで焼く」
「「分かった」」
2人は頷いて、先程と同じ様に鉄板に並べてオーブンに入れた。
チョコレートがあれば、出来上がったラング・ド・シャに浸けるとさらに美味しい……がない。
シュゼル皇子に話せば、何がなんでも探してきそうだが……チョコレートを作る工程が面倒だ。
言わないに越した事はないな……と、口を引き締めた。
ちなみに、焼き上がったラング・ド・シャをアイスクリームにトッピングすると絶品だ。シュゼル皇子が戻って来たら、忘れずに献上しよう。
だって……怖いから!!
◇◇◇
厨房には、クッキーの焼き上がる甘い甘い香りが充満し始めた。この甘~い匂いって、ものスゴく堪らない。
クッキー店の前を通ると、いつも誘惑に負けて買ってしまいそうになる。家で焼いていれば、弟は自分の部屋からスッ飛んで来た。
「何を作っているんだ!?」
ほら。こんな風に……。
「エド。勉強はサボり?」
様子を見に来たエギエディルス皇子が、小窓からぴょんぴょんしていた。相変わらず可愛い皇子だ。
「違う!! さっきまで、フェル兄に無茶苦茶、殺されかけてたし!!」
そう慌ててエギエディルス皇子が言ってきたが、実に物騒な言い方である。フェリクス王兄弟の関係性を知らなければ、権力争いで襲われていた様に聞こえる。
多分だけど、剣の稽古でもしてもらっていたのだろう。頬に擦り傷がある。多少のケガは、治療薬のポーションは使わないみたいだ。
――チン。
オーブンから、軽やかな焼き上がりの合図がした。
「あっ。クッキーが焼き上がったから、オヤツにしよっか」
「うん!!」
エギエディルス皇子は超可愛い。もう莉奈はメロメロである。
食堂で待っていてもらって、ついでに彼の好きな甘い飲み物を作る事にする。
「先に食べてもイイ!?」
甘い匂いに負けたアンナとリリアンが、皇子みたいにぴょんぴょん跳ねていた。
うん。ものスゴく可愛いくない!!
「ダメに決まってるでしょ!!」
アンナとリリアンをおとなしくさせた。2人はシュンとしたけど……可愛いくない!!
「それに、ラング・ド・シャは冷まさないと食べられないよ?」
「「……? どうして?」」
リック料理長とマテウス副料理長が訊いてきた。出来立てが1番ではないのかと、気になる様だ。
「ラング・ド・シャは熱いままだと、ふにゃっとしていて美味しくない。冷やしてやっとサクサクして美味しくなる」
そうなのだ。ラング・ド・シャは焼き立てはふにゃふにゃである。冷ますと水分が揮発してサクサクになるのだ。
冷ますのは10分くらいで充分だけど。
皇子に飲み物を作っている間に、ちょうどイイくらいに冷めるだろう。
「「へぇ。焼き立てが1番でもないのか」」
食べ物によっては、冷ました方が良い物もあるのかと、感心した様である。しかし皆の目線は、甘い匂いが香るクッキーに釘付けだ。
エギエディルス皇子も待っているから、さくっと飲み物を作っちゃおう。




