214 確率と理論
―――コトン。
程なくして、莉奈がエギエディルス皇子にアイスクリームを出すと、その場の時間が一瞬止まった。
「「「…………」」」
チキンカツサンドを食べ終わったタール長官を含め、全員がエギエディルス皇子の目の前にあるアイスクリームに釘付けだったのだ。
「うっまっ! ククベリーはブラックベリーよりサッパリしてるけど、ウマイな」
味の濃いブラックベリーより、酸味も控えめなククベリーは甘くて美味しい。エギエディルス皇子はご満悦な表情を見せていた。
滑らかなアイスクリームを舌で転がす様にして、口溶けを楽しんでいるみたいだ。
エギエディルス皇子も、次兄に負けず劣らず甘味が好きだよね?
「ククベリーのアイスクリームは……ミルクのアイスクリームと違いますか?」
タール長官はゴクリと唾を飲み込んだ。
チキンカツサンドで、お腹は満たされてはいる。だが、あの時食べたミルクアイスとは、また違うアイスクリームを見れば、ついつい生唾が出る。あれとは、どう違うのかと。
「全然違う。俺はミルクよりコッチの方が好き」
「タールさんも食べますか?」
タール長官に訊いてみた。莉奈に目線を移し、目がモノを言っていたからだ。
「はい!!」
タール長官は、実に良い笑顔で返事を返してきた。
「右がククベリー、左がブラックベリーです。ミルクアイスにはお好みで濃い紅茶かベリーソースをかけてお召し上がり下さい」
莉奈は寸胴からアイスクリームを掬うと、1つの大皿に3種類のアイスクリームをのせた。濃い紅茶とベリーソースは、よく珈琲や紅茶に付いている、小さいミルクピッチャーに入れてある。後かけ出来る様にだ。
ミルクのアイスクリーム作りは、タール長官も関わっているしタップリのせたよ。お世話になっているから、お返しも兼ねている。
「……むっふ」
ククベリーのだけだと思っていたので、タール長官は目を瞬かせ口元を緩めた。アイスクリームはあのミルクしか知らなかった。
なのに、自分の知らない間に種類が増えていた。そしてそれを賞味出来るなんて、気分も躍る。
部下がそこにいるのも完全に忘れて、アイスクリームを堪能し始めた。
「はぁぁっ~。実はあれからずっと食べたかったのですよ。しかし……機会がないというか、なんというか……あぁ、この奇跡の様な舌触り……ん~夢心地」
タール長官は、まずはミルクのアイスクリームをそのまま口に入れて楽しんでいた。
フェリクス王と作った、あの恐怖は今も忘れてはいない……が、その後に食べたアイスクリームは最高であったのだ。
夢にも出るくらい、あの感動は忘れられなかった。
「……あ……あの」
莉奈や皇子、タール長官がソファに座りアイスクリームを堪能している中、魔導師達は立ったままである。
なんだったら、チキンカツサンドセットも貰っていなかった。
くれる様な話ではなかったのだろうか……?
「……あのっ!!」
魔導師は、莉奈達が存在を完全に消去している様なので、声を少しだけ張り上げた。忘れないで下さい……と。
◇◇◇
チキンカツサンドは後であげるとして、アイスクリームにも興味津々そうなので1人くらいは良いかな……とある事を提案する事にした。
「この木の箱に、5本の棒が入ってるんだけど。赤い印の付いた棒を引いた人に、デザートにアイスクリームを付けてあげる」
魔法鞄から、くじ引き用の木箱を取り出した。そして、赤い印のついた棒を見せて確認させると、カシャカシャと混ぜた。
そうなのだ。莉奈は、軍部 〈白竜宮〉 でやろうとした事をしようと考えたのだ。あれから、アチラではどうなったのやら。
「5分の1……」
莉奈がやろうとしている事を、瞬時に理解した魔導師達は呟いた。
この中の1人だけが、シュゼル皇子垂涎のアイスクリームが口に出来る。
「では。手始めに1番の年長者である私が……」
莉奈の持つ木箱に、1人が手を伸ばした……瞬間に皆の変なスイッチが入った。
「年長とか年少とか、ここでは関係はないのでは?」
「長官のお側に付いてから長いのはこの私。まずは私が」
「いやいやいや。こういうモノを年少に譲ってこそ、年長組の資質が問われるというもの。ここは1番年若い私がまず」
「それを言うなら、あなたは年こそ若いが、魔法省に入ったのは私が1番遅い」
「年長者に譲ってなんぼでしょう?」
そして、モメる。この国オカシイ。
「皆で同時に引くんだから、後でも先でも良くない?」
莉奈は思わず呆れて言ってしまった。
誰から引こうが大差はないと思うからだ。先に引いたその人が当たれば、ハズレしか残らないが、同時なら同じ。
「「「良くない!!」」」
全員から即答が返ってきた。
「1番初めに引くのを決めた者が、1番確率がある!!」
「先に選んだ者が当たりを引いてしまったら、外れしかないではないですか!!」
「大体、同時に棒を選べばカブる事もある!」
「同じ棒を選んだら譲れと?」
「譲った棒が当たりだったら、どうするんですか!?」
なんだか知らないが、怒られた莉奈。実に理不尽過ぎる。
要は、例え同時に棒を上げるにしても、結局選ぶ事になる。先に選んだ者の、残りから選ぶのがイヤみたいである。
まぁ。でも考え方じゃないかな? 初めは5分の1。その人が当たらなければ、次の人は4分の1だ。
1番の人が、5分1で当たれば終わりだけどね。
「わかった……なら、こうしよう」
莉奈は皆の頭を、ブン殴りたい衝動を抑え提案する。
「1人1回ずつ、棒を引いてもらう。これなら確率は常に5分の1」
だが、もちろん誰も当たらない確率もある。
「……ふむ。それならいいかもしれませんね」
「異論なし」
「その提案、賛成です」
常に一定の確率で引ける事で、納得した魔導師5人は莉奈から木箱を受け取り1人ずつ、運命の時を迎えた。
皆は気合いで棒を引いた。
―――そして。誰も、当たらなかった。




