212 和解
【黒狼宮】は【白竜宮】とは違ってマッチョは見かけなかった。すれ違う人すれ違う人、皆スラリとしている。
服装としては法衣が多い。魔法を使う人は好んで法衣を着るのだろうか。
匂いは薬草の匂いなのか、時折葉っぱの匂いがした。それに混じってお香の様な匂いもする。白竜宮とは匂いからして全然違う。
女性も割りといる。だが、ぽっちゃりはいない……育て甲斐がありますな。ふふっ。
「お前……ロクな事考えてないだろう?」
莉奈がキョロキョロしながら、妙な笑みを浮かべていたからだ。
「え? 失礼じゃない? ズンドコ皇子」
「ズンドコ……もはや何一つ合わせる気がねぇとか」
敬称がないのは今さらだが、頭文字すら合わせる気のない莉奈に、呆れを通り越して笑うしかない。どっちが失礼なんだ。
「ん? 今さらだけど、先触れ的なモノは必要だったかな?」
「すっげぇ、今さら」
「まっ。いっか」
アポイントをとってはなかったけど、エギエディルス皇子が一緒にいるし、良しと判断した。ダメな時はダメで仕方がない。出直せばイイ。
「……」
本当は良くはないんだぞ? とエギエディルス皇子は複雑な表情をした。異世界から飛ばされて来た彼女だからこそ、同情もあり皆が優しいのだ。
……が、莉奈に関してはそれだけではない気がする。
莉奈はふと気付いたら、心の隙間にヒョイと入っていて、他人な気が全然しない。そう感じるのはたぶん自分だけではないハズ。
異世界の人間が皆そうなのか、莉奈がそうなのか比べる事は出来ないが……。コイツが特別な様な気がしていた。
エギエディルス皇子はそんな事を考えながら、楽しそうにしている莉奈を見て小さく笑っていたのであった。
◇◇◇
「不便はありませんか? リナ」
魔法省長官の執務室に入ると、長官タールが優しい笑みを浮かべ出迎えてくれた。
この世界に来てから、タール長官はものスゴく気遣ってくれる。自分の部下が仕出かした事だから、というのもあるのかもしれない。
「お気遣いありがとうございます。でも、タールさんをはじめ皆さんが、支えてくれてますので大丈夫です」
「なら、いいのですが。もし何かあったら、遠慮しないで言って下さいね? 1人で抱えない様に」
タール長官は、そう言うと莉奈の頭を優しく撫でた。
シュゼル皇子にも撫でられた事もあったけど、あれは背筋がゾワリとした。だけど、タール長官に優しく撫でられると、なんだかこそばゆい。
それはそうと、先程から部屋の端に立つ人達が気になっていた。
顔に見覚えがあるのだ。この人達……もしかしなくても、エギエディルス皇子と一緒に自分を【召喚】した人達だ。
「「「わ……私達も、お力になる事があれば言って下さい!!」」」
どうしたらいいのか分からず思わずジッと、見てしまったので "魔導師" 達が先に口を開いた。
どうした態度をとったら良いのか、そう感じているのは莉奈よりも "魔導師達" なのかもしれない。
「なら。マヨビームを開発して下さい」
「「「は?」」」
自分達の犯した重罪に猛省し、償える事なら出来る限りの事はするつもりではいた……が。"マヨビーム" とはなんなのだろうか。
「お前……マジで一旦マヨネーズから離れろ」
半ば真面目に言った莉奈に、エギエディルス皇子が呆れ返っていた。
◇◇◇
莉奈のいう "マヨビーム" はともかくとして、マヨネーズがなんなのか説明をタール長官達は聞いた。そして、応接用のテーブルの上には今、マヨネーズの入った小皿が置いてある。
「これが、マヨネーズですか」
マヨネーズを初めて見たタール長官が、興味深く小皿を見ていた。この薄黄色いクリームがマヨネーズかと。
「じゃがいもに付けて食べると、すげぇウマイ」
エギエディルス皇子が、瞳をキラキラとさせていた。
味を思い出したのだろう。余程気に入ったみたいだ。
「じゃがいもに付けて食べてみて下さい」
タール長官がチラリと見たので、莉奈は茹でたじゃがいもをマヨネーズの横に出した。
「皆さんも、是非」
魔導師5人にも勧めた。
わだかまりが残るかな……と思っていたが、実際こうやって会ってみれば、憎めなかった。反省しているのは目にも明らかだったし、私のために何かしたいという気持ちも伝わっていた。
それに、エギエディルス皇子を許しているのに、彼等を許さないなんてオカシイ話だしね。
「「「いっ……いいのですか!?」」」
お伺いを立ててはいるが、表情は明らかに嬉しそうだ。
「どうぞ」
そんな5人に莉奈は、笑顔が自然と漏れた。
イヤミの1つでも言ってやろうと、以前の自分なら思っていたかもしれない。だけど、今の彼等の態度をみたら、そんな事をする気持ちにはなれなかった。
それだけ、今過ごしているこの王宮が、充実しているからなのだろう。




