199 意外な美味しさ? ブル・ショット
「皆さ~ん。お待たせしました~」
莉奈が声を上げれば、皆わいわいガヤガヤと楽しそうに戻って来た。
何も知らないって、面白いよね? 莉奈はほくそ笑んでいた。
「うっわ。少なっ」
カクテルの入ったグラスを見た1人が、不満そうな声を上げた。
一口二口分しかないからだろう。
「これだけの人数だし、まだ仕事中でしょ?」
それに、たっぷり飲める美味しさが、このカクテルにあるのだろうか?
「まぁ……うん。そうだよね」
「仕方ないか」
正論を言われ、皆は諦める様にぼやいた。
ガッツリ飲めると思っていた辺り甘いよね?
「では、皆さん。ウオッカと何を混ぜたカクテルか当てて下さい」
莉奈は、ニヤニヤしそうな頬をグッと抑え勧めた。
まだ飲ませてもないのに、皆の反応を想像すると笑いが込み上げてくる。
「リナ。ナニその笑い」
不気味な笑みが溢れてしまっていたのか、リック料理長が苦笑いしながら訊いてきた。
「皆……お酒好きなんだなぁ~って?」
莉奈は慌てて顔を引き締め、今度はニコリと笑っておく。
ヤバイヤバイ。面白過ぎて隠しきれてなかった……。
「好きだね~。リナにカクテルを教えて貰ってから、さらに飲む量が増えたしね」
リック料理長が嬉しそうに答えた。
なんでも、奥さんのラナ女官長と、毎晩の様に晩酌を楽しんでいるらしい。ラナも何気に酒豪だよね。
「ふ~ん? 二日酔い―――」
―――ぶふっ。
二日酔いとかは大丈夫なの? って訊こうとしたら、話しながらカクテルを口にしたリック料理長が噴き出した。
「……げっほっ……ごほっ」
噎せている。カクテルの味が想像していた味とまったく違い、不意打ち過ぎて噎せてた様だ。
「ぶふーっ」
カクテルを口にした何人かも、もれなく同じ様に噴き出していた。
あははははは!! ナニコレ超面白い~!!
莉奈はお腹を抱えて笑った。皆のリアクションが面白過ぎるのだ。
噴き出したり、噎せてたり、二度見したり、唸ったり……。
どんな味がするか知らないけど、美味しい物ではない様である。
「な……なんだコレ!?」
マテウス副料理長が、目を丸くしながらグラスを二度見していた。
「リ~ナ~? お前ナニ入れたんだよ!?」
そして眉をひそめ、莉奈を問い詰めた。
莉奈の作ってくれるカクテルは、今までどれも美味しかった。だから、何一つ不審がる事はなく口にしてきた。
きっと今回も美味しいだろうと、疑う事もなかった……のだが、ナニかが違った。確かにお酒だが……オカシイのだ。
アハハ……マジで面白い。
莉奈はお腹を抱えて笑うだけでなく、目から涙まで出していた。お腹が捩れる~!!
そんな莉奈の様子を見て、皆は確信した。絶対ナニかしでかしてくれた……と。
「「「「「リ~~ナ~~!!」」」」」
全員から訝しげな目で見られ、追及されたのは云うまでもない。
◇◇◇
「ナニ入れたんだよ?」
笑って済まされる訳もなく。皆からは逃げられない様に囲まれ、尋問されるのである。
「ナニって、それを当てるのがゲームでしょ?」
と、言ってみれば―――
「 "ゲーム" って何だよ?」
と返ってくる。
「遊び?」
莉奈は首を傾げたものの、口からは笑いが込み上げる。
「「「楽しんでるのお前だけだろう!?」」」
皆は苦笑いしながらも、正論を返してきた。
確かに、現時点では誰も楽しんではいない。
「まぁ……不味くはないけど」
ダレかが、そのカクテルを味わって呟いた。全員が全員不評という訳ではない様だ。
「ウマイかマズイかは、ともかく」
「「「ともかく!?」」」
莉奈がそう言えば、ともかくって何だよ? って表情の皆である。飲まされた人からしたら、ともかくではないらしい。
「それ。マジで一応カクテル。"ブル・ショット" っていうんだよ」
アレンジはしてあるけど、本当にあるカクテルなのだ。
「「「ブル・ショット?」」」
莉奈に本当にあるカクテルと聞き、皆はグラスに残っていたカクテルを再び口にした。
莉奈が苦し紛れで、デタラメを返した様には思えなかったからだ。
「ねぇ。なんか……この味……飲んだ事がない?」
と味わってみた誰かが、ボソッと言った。
飲んだ事がない味ではないのだ。なんなら馴染みがある味がする。
「ん? 本当だ。なんだろ……これ」
「ニオイは……酒が強いけど」
「あれ? なんか……今朝……飲んだなこの味」
色は琥珀色。ベースはウォッカ。眉間にシワを寄せながら、各々記憶を頼りに味を探している様である。味わえば味わう程、どこかで飲んだ事がある味だった。
「なんか……浮いてないか?」
「……え? うそ!? 油!?」
「なんで、酒に油なんか入っ……鶏?」
カクテルに入った何かに、うっすら気付き始めた様だ。莉奈は一緒に作った料理人と目が合い笑った。
案外分かるものなんだな……と。
「リナ……これ、まさか……」
リック料理長が正解にたどり着いた様である。
「鶏のコンソメスープで~す」
莉奈は笑いながら正解を言った。
「「「「「コンソメスープ――――っ!?」」」」」
答えを言えば、薄々感づいた人も驚愕していた。
まさか……とは思いながらも、やっぱり信じられないみたいである。お酒とお酒、あるいは果汁を混ぜた飲み物がカクテルと、聞いていたから余計みたいだ。
お酒とスープなんかを混ぜた飲み物を、見ても飲んでも頭が全然理解してくれない。
莉奈は眉を寄せまくっている皆を見て、再び笑った。
「さっきも言ったけど、それ "ブル・ショット" って言って本当にあるカクテルなんだよ。お好みで胡椒とかタバスコっていう辛い調味料を入れたりもする」
「「「はぁ~~?」」」
皆はさらに目を丸くさせていた。
本来なら "ブル" という名の通り、ビーフブイヨンで割るのが正式な作り方。だけど、牛から作ったブイヨンがここにはない。
だから、鶏のコンソメスープで代用してみた。
ちなみにお父さんは、とんこつ味のインスタントラーメンを食べた後、残り汁で割り "ブル・ショット" ならぬ「ピッグ・ショット」とか勝手に命名して飲んで……。「くそマズッ」って盛大に噴き出していた。
みじん切りのネギが浮いたカクテルが、ナゼ美味しいと思ったかな? お母さんと弟と一緒に呆れた覚えがある。
「まぁ……これはコレでありか?」
とマテウス副料理長が首を傾げながらも呟き、タバスコがあるのか棚から出し数滴落として飲んでいた。
そんな彼を見て、皆が瞠目したのは云うまでもなかったのである。




