198 ふっふっふっ
「美味しい!!」
「ナスに味が染みてウマイ!!」
「トマトが甘~い」
味見をし始めると、あちらこちらと声が上がった。
良かった。火の通ったトマトは意外と好評みたいだ。火が通ったトマトが苦手な人もいるから、内心ドキドキしていたけど、大丈夫そうだな。
まぁ……元からダメな人は避けてるけど。だって、味がダメな人はどうにもならないよね。コレまんまだし。
トマトソースやケチャップなら大丈夫なのかな?
ちなみに、お母さんは生のトマトは苦手だったけど、ベーコンを巻いて焼いたミニトマトは好きだったんだよね。訳がわからん。
ナスは……あれ? あれだけ騒いでて皆美味しいって食べてる。
ん~? 調理方法次第で、意外と食べられるのかもしれない。
「なんか身体がポカポカしてきた」
リック料理長が、ぽやぽやと呟いた。
そうなのだ。肉厚のナスに、酸味の効いたトマトがアクセントになって、とても美味しい……が、アルコールを飛ばしているとはいえ、お酒が使われているから、食べると身体がポカポカと温まる。
「お酒を使っているからね?」
そう笑いながら莉奈は、ウォッカなしの方を味見する。
う~ん、美味しいには美味しいけど……味の染み具合がイマイチだ。もっと浸けておきたい。
「はぁ。酒が飲みたい」
マテウス副料理長が、ボソリと呟いた。
身体がポカポカしてきて、なんだか気分が良い様だ。疑似的にも酔っているのかもしれない。
……ん?
あれ? アルコール、飛ばすのが弱かったのかな?
莉奈は首を傾げた。味見をした訳ではないので、しっかりアルコールが飛んだのかはさっぱり分からない。
「後は、ウォッカでなんのカクテルを作るんだ?」
「は? 作らんし」
嬉々として訊いてきた料理人は、もれなくブッタ切る。
何を言ってくるのかな?
「……チッ」
料理人は舌打ちをした。間違って莉奈が、ノッてくると思ったらしい。そんなアホな手にノッたりしないぞ?
「……ぁ」
アホな事を言い出す人達が増える前に、作業に取り掛からねば。そう思いナスやコンソメスープを見た時、ふと面白い事を思い付いた。
「カクテル飲みたい人~!!」
莉奈は、内心ほくそ笑みながら挙手を求める。
誰かに1度、飲ませてみたいカクテルがあったのだ。お酒の飲めない自分では味見が出来ないから、美味しいのかどうか是非とも試飲して頂きたい。
お父さん、お母さんは、自分で作って飲んで「ないわ~」ってボヤいていたけどね。
そんな企みを知らない皆は……。
「「「「「はいはいはい!!」」」」
挙手したもん勝ちだと、謂わんばかりに一斉に手を挙げた。
よしよし。予定通り皆の手が挙がったな。どうなるのか考えただけでも超楽しい。
「では、カクテルを作るので……皆さん一旦厨房の外へ出て行って下さ~い」
と廊下に出る扉へと促した。
「「「……え?」」」
何故? という顔の皆。自分達を追い出す意味が分からない。
「皆さんには、ウォッカと何を混ぜたカクテルかを、当てて頂きたいと思います!!」
それらしい事を言って、皆を追い出しにかかった莉奈。
作る工程を見られたら、絶対渋るのは分かっているし、面白くないのでいて欲しくないのが本音なのだ。
「面白ぇ!」
「楽しそうね」
「分かった~!!」
皆は莉奈に言われるがまま、実に楽しそうに廊下に出て行った。
知らないって怖いね~? おほほほほ。
莉奈は、皆が出て行ったのを見送りながら、ニヤニヤとした笑いが溢れていた。
扉のガラス窓からも見ていない事も、しっかりと確かめる。覗かれたら、これからやる事がバレちゃうしね?
「リナ……何をするんだ?」
「おわぁっ!!」
背後に人がいたのに全く気付かなかった莉奈は、思わず半歩飛び跳ねた。何故か2人だけここに残っていた様だ。
「驚き過ぎじゃない?」
料理人の女性が笑っていた。
想像以上に莉奈が驚いたからだ。
「あれ? アッチに行かないの?」
冷静さを取り戻しながら、莉奈は皆が出た廊下を見て訊いた。
まさか、残る人物がいるとは思わなかった。
「だって、お酒飲めないも~ん」
「なぁ?」
2人は仲良く顔を見合わせ、ねぇ? と首を傾げた。
どうやらこの男女2人だけは、お酒を全く飲めないらしい。だから、莉奈の作る工程を見る方が面白そうだと残った様だった。
「まぁ……いいけど。これから作るカクテル……特殊だから、バラさないでね?」
莉奈は2人に、コソリと口止めをした。
騒いでバレてしまっては、皆を追い出した意味がない。
「「ほ~~い」」
2人は楽しそうに頷いた。
莉奈は2人の言質をとったので、廊下にはバレない様にコソコソと作り始めた。
「え? そんなの入れるの!?」
「いやいやいや。それ絶対遊んでるだろ?」
莉奈が作り始めると、一瞬だけ2人は唖然とした後、苦笑いしていた。
莉奈が混ぜているお酒やらを見て、カクテル作りではなく遊んでいると思った様である。
「いやいや、マジだから」
そう笑いながら、手は休めずさくさくと混ぜる。2種類のモノを混ぜるだけなので、このカクテルも簡単に出来上がった。
早速、おちょこみたいな小さなグラスに、味見程度に皆の分を注ぐ。
「それ、本当にカクテル?」
「遊んでない?」
にわかに信じがたい料理人は、苦笑いなのか面白いのか、複雑そうな表情で訊いてくる。
どう考えてもカクテルには思えないらしい。でも、自分が口にする訳ではないから、面白さの方が勝っている様子である。
「カクテル、カクテル」
莉奈は、意地悪そうな笑みが溢れた。
特殊ではあるが、本当にあるカクテルなのだ。別に遊んでいる訳では……ないよ?
今から皆が飲んだら、どんな反応するのかが楽しみで仕方がない。
―――フッフッフッフッ。
莉奈の手伝いをかって出た2人は、莉奈の不気味な笑みに若干引いていた。そして、お酒が飲めなくて良かったと心底思うのであった。
そんな2人の心情を知らない莉奈は、ふとフェリクス王にこれを飲ませたらどうなるのかな? と頭の端をチラリとよぎった。
―――ブルッ。
想像しただけなのに身体が震えた。




