197 茄子のウォッカ蒸し
フライヤーはさておき、莉奈は揚げ浸しの材料を取りに酒倉に向かい、あるお酒を持って来た。
「んん!? リナ。カクテルも作るのか!?」
莉奈が、酒倉から酒を持ち出した事で、厨房がにわかにざわめく。
「作らないよ」
酒=カクテルではないのだ。莉奈は瞳をキラキラさせた皆には、呆れしかなかった。
この国 "最強のボス" を筆頭に、本当にお酒好きが多い。酒豪が多いといってもいい。お国柄なのかな?
「でも "ウォッカ" だよね? それ」
マテウス副料理長が、なんだか嬉しそうに訊く。
酒好きにとってお酒が使われている料理、ってだけで嬉しいのかもしれない。
「ウォッカだね~」
でも、残念だけどカクテルは作らんよ。
「何に使うんだ?」
リック料理長が代表者の様に疑問を投げ掛けた。
「揚げ浸しに使うよ?」
莉奈はそう言いながら、香草を用意し微塵切りにしていた。
香草は好みだから何でもいいけど、今回はパセリ、ディル、セルフィユの3種類にする。
「香草も?」
「香草も」
香草嫌いの人には、嫌がらせの様な味になる。だって、香草の香りが引き立つ料理だし。
好き嫌いがハッキリ二分する味になるのである。
莉奈はウォッカをバットに注ぎ、切った香草を入れて浸し準備しておいた。
「ん? 一応訊くけど。このナス……出来たら味見とかしたい感じ?」
莉奈は、一応念のために訊いておく。
揚げ浸しだから、揚げてから数時間は浸したい。なんなら1日くらい。
でも、そんな雰囲気は一切ない。飢えた獣の目をした皆様がいたからだ。
「「「「「イエッサー!!!!」」」」」
莉奈が振り返れば、手足を揃え一同キレイに敬礼してくれた。
「…………」
莉奈は、アハハと渇いた笑いしか出なかった。
ダメだこりゃ。これは……別の方法に変えよう。暢気に浸している場合ではなかった。
「本来、揚げ浸しだから……香草に数時間か1日は浸けるのだけど……」
待てが出来ない様子なので、違う方法にする。味の染み方が違うけど、仕方がない。
「炒めて、蒸し焼きに変更する」
「蒸し焼き……でも、本来は浸けるんだな?」
真面目なリック料理長は、本来のやり方も知りたい様だった。
「そうだね。その方が味が染みてしっとりとする」
そう、味が馴染んで落ち着くのだ。調味液のトゲトゲしい感じがなくなりまろやかになる。
「次回はそうしよう」
細かく説明すると、リック料理長は大きく頷いた。
さすがに、彼もこの雰囲気では "今" とは言えないらしい。
「とりあえず。浸けた香草はほっといて、ナスをたっぷりの油で焼く」
莉奈はフライパンに油をヒタヒタに入れると、刻んだニンニクを入れた。それから、フライパンの油を火で温める。でないとニンニクがあっという間に焦げるからだ。
「あ~ニンニクの良い香り~」
誰かが鼻をスンスンさせてポソリと言う。
ニンニク好きには堪らない、良い香りが厨房に広がったからだ。
「ニンニクの匂い堪らないよね~」
莉奈は笑いながら、ナスをフライパンに投入させた。
ナスと油のコンビネーションは最強。スポンジが吸うように、ナスがドンドン油を吸収していく。
ナスは程よく油を吸うと、柔らかくて美味しくなるのだ。味噌汁やカレーライス、スープに入れる時も、この揚げ焼きにしてから入れるとワンランク上がる。
ホント一手間ってスゴい大事。やるとやらないでは大違いである。面倒だから、あまりやらないけど……ね。
「ナスに火が通って柔らかくなったら、さっき作ったウォッカの香草浸けを入れる。アルコールが飛んだらコンソメスープを投入」
ウォッカの香草浸けを入れた途端に、ジュッっと油を弾く音がしてお酒の香りが充満する。飲んべえ共がゴクリと喉を鳴らした。
「コンソメスープを入れるのか」
リック料理長がフンフンと大きく頷いていた。
「味のメインはコンソメ。香草とウォッカは香りづけかな?」
以前作った家庭で作る簡単なんちゃってコンソメなら、塩気は少ないから塩を入れた方がイイ。だけど、これは本来のコンソメスープ。
だから塩は入れなくても別に構わない。他国には豚や牛が少なからずいるのか、廃棄する骨なんかはタダ同然で貰える様だった。だから、牛を使ったビーフブイヨンもそのうち作れる様になると思う。
そうそう、エギエディルス皇子とお酒の苦手な人達には、香草のみかコンソメスープのみにして別に作っておかないと。
いくらアルコールが飛ぶといっても、香りはあるからね。苦手な人達には、飲んべえとは違った意味で堪らないハズ。
「で、彩りも兼ねてミニトマトを最後に入れて、蓋をすること2・3分で出来上がり」
ミニトマトがあった時には少し驚いたけど。
先程訊いたら作る地域の特徴もあって、野菜や果物もやたら大きい物も小さい物もあるとか。
お化けカボチャとかお化けニンジンとかもあるらしい。とにかく大きいのはもれなく "お化け" が付くみたいだった。
小さいのは "ミニ" とか "マイクロ" とか付くのかな?
向こうの世界でも似たのがあったけど、異世界もスゴい面白い。
「味見だ~っ!!」
出来上がりと言ったものだから、料理人の1人が拳を高々と挙げた。食べる気満々である。
「「「お――――っ!!」」」
同じ様に拳を掲げ、追随する皆。メインでもないのに、スゴい盛り上がりである。
王宮の皆様は、大人しい方だったみたいである。
莉奈は、なんだか楽しそうな皆に笑うのであった。




