196 瞬間移動酔い
作る気分じゃなかったのに、気付けば何故か作るモードになってしまった。莉奈はどうしてこうなった? と1人大きく首を傾げていた。
肉を貰って、王宮で作るつもりだったのだけど、ゲオルグ師団長達がコッチで作って行け……と言うので今は白竜宮の厨房にいる。
私が王宮に戻ったら皆に教えたりした後なので、こちらが後回しになるから嫌なのだろう。
「リックさん、マテウスさん大丈夫?」
白竜宮に呼び出された、リック料理長とマテウス副料理長がクラクラしていた。
フェリクス王兄弟が王宮に戻る時、エギエディルス皇子が後でまた教えるのは二度手間だろうと、気を利かせてコッチに呼んでくれたのだ。
しかも馬では時間が掛かるとの事で、瞬間移動を使って呼んでくれた。なので、瞬間移動酔いしているみたいだった。
エギエディルス皇子は、後で迎えに来てくれると言っていた。
……けど、この調子ではリック料理長達は、帰りは馬か徒歩かな?
「大丈夫ではない」
「ムリ」
ウプウプ言いながら、口を押さえスライムのゴミ箱に向かって行った。慣れないと大概はこうなるとか。
2人揃ってゲーゲー吐いている。悪酔いしたのだ。災難である。
まぁ……それをただ受け止めるしかないスライムも、災難といえば災難だけど……。なんかゴボゴボいってるし。
「リンゴジュースでも飲む?」
莉奈はリンゴジュースをサクッと作り2人に勧めた。
気持ちが悪い時は、酸味のある物を飲めば多少は落ち着くからだ。
「「ありがたい」」
口を漱いだ2人は、莉奈からリンゴジュースを受け取ると、ゴクゴクと勢い良く飲んでいた。
リンゴを生搾りした後、蜂蜜と水で味を整えただけの簡単なジュースだけど、意外に美味しいのだ。
もっと甘みの強いリンゴなら、蜂蜜もいらないのだろうけど。
「ぷは~生き返った」
マテウス副料理長が、ホッとした様な声を出していた。
気分も落ち着いたみたいだ。
「さて、どうしようかね~」
そんな2人を横目に、莉奈は腰に手をあてた。
チキンカツは決定してはいるけど、なんかもう1品作りたい気分であった。
だけど、難しいのはパスしたい。では何にするか?
「チキンカツとかいうのじゃないのか?」
少し元気になったリック料理長が訊いた。
確かそんな話をしていたハズだった。
「それは作るけど……なんかもう1品作りた―――あっ、ナスがあるじゃん」
冷蔵庫やら食料庫を開けていたら、ナスが大量にあった。
日本のナスより少し長い。黒々としていて張りがあり実に美味しそうである。
「ナスねぇ。俺は正直あんま好きじゃない」
副料理長のマテウスが渋い顔をした。味を思い出したみたいだ。
「スープに入れても、味は染みないしな」
「油で焼くとベシャベシャするし」
ナスと聞いて厨房にいる苦手な料理人達が、ブツブツ言い始めた。
どうやら、苦手な人が多いらしい様だ。味や食感自体が嫌いな人もいるけれど、話を聞く限り調理方法にも問題がありそう。
ただ、スープに入れただけでは味が染みにくい。焼いただけでは淡白過ぎる。揚げ焼きにしただけでは、ベシャベシャになる。素材を生かしきれてないのかも。
「ふ~ん。鶏の油で焼いたりすればコク旨だし、トマトと合わせてグラタンやスパゲティーに……あ~、揚げ浸しにしよう」
そんな料理人達をよそに、莉奈は思い付き手をポンと叩いた。
グラタンは面倒くさいし、スパゲティーにしたら麺から作るハメになる。まず論外である。なら、簡単で美味しい揚げ浸しにしようと考えた。苦手なら食べなければイイ事だしね。
「揚げ浸し? 揚げてから、何かに浸すのかい?」
リック料理長が訊いてきた。
そのままだから、安易に想像出来た様である。
「だね~」
莉奈は冷蔵庫や棚から、必要な材料や調理器具を用意する。
何度見ようが残念過ぎる事に醤油や味醂がない。魔法でどうにかならないのか!! と莉奈は思ったが、ない物は仕方がないので洋風の揚げ浸しにする。
「とりあえず。ナスはヘタを取って半分に切る。で、格子状に切り込みを入れて、食べやすい大きさにする」
莉奈は、ナスに深さ数ミリ程度の切り目を、縦横と格子状に入れ下処理を始めた。いつも通りに見本用に先に作って見せるためだ。
「格子状に?」
そんな事は普段しないのか、疑問の声が上がる。
「飾り包丁といって、こうすると良く味が染みる」
と1つ摘まんで皆に見せた。
これをやっておくと、切り目から油が入り火の通りも早い。見た目も良くなるし良いことずくめだ。家庭じゃ面倒くさいから滅多にやらないけど。やるの料理人達だしやらせる。
「「「へぇ~」」」
感心した声が小さく上がった。
"へぇ" なんて感心しているけど、何百とこれをやるのは地獄しかないと思うよ?
「ナスは……」
鍋に油を入れて……と言おうとしたら、片隅にある調理器具に目を奪われた。
マジか。フライヤーがある!!
揚げ物を1度に大量に揚げられる、フライヤーだ。以前見た時には無かった気がする。莉奈は思わず2度見していた。
それは紛れもなく、揚げ物をやるお店にはもれなくある、フライヤーであった。
「からあげのために、用意したんだよ」
ここの料理人サイルが、ニコニコ嬉しそうに笑った。
どこでもからあげは大人気なのか、大量に作るそうだ。だが、鍋で揚げるには限界もある。何か方法がないかと編み出したらしい。
「すごっ」
からあげのためって! 食べ物への執着のおかげで、色々な調理器具を作り出す皆には感心と尊敬の念を抱く。もれなく呆れもついてはくるけど。
「温度調節も出来るよ?」
とサイルは楽しそうに説明をしてくれた。
オーブンもそうだけど、火の魔石を何個か使う事によって、火力調節が可能になっているらしい。
何この便利魔法。莉奈はマジマジと見ていた。
「リナ。フライヤーはイイからナスは?」
マテウス副料理長が笑っていた。
莉奈が調理も忘れ、フライヤーに釘付けになっているからだ。
「フライヤー!!」
名称も日本と変わらないとか、何この異世界!!
莉奈は別の感心、感動に浸っていた。
王宮の方にも、今朝搬入したらしい事を知り、莉奈がさらに感心するのは後の話である。




