195 炊事長官
白竜宮の方に戻ってると、エギエディルス皇子が広場で空を仰いでいた。莉奈がフェリクス王に、竜の宿舎の説明してもらっていた間、ずっとああしていたみたいだった。
莉奈が番を持った事で、メラメラとした闘志に燃えている。
近衛師団の女性達も、気持ちは一緒なのか同じ様に空を仰いでいた。
「結局のところ、竜って何を基準に番を選ぶんですか?」
自分はナゼか選ばれたが、何処かの誰かさんのせいで、そんな事を訊く前に番は飛んでいったし。
「しらねぇ」
全く興味なさそうである。
一生懸命な弟を、苦笑いしながらフェリクス王は見ていた。だが、その視線はとても穏やかで優しい。
「ちなみに、陛下が王竜を番にもった経緯は?」
そんな優しい瞳に、莉奈はなんだか胸が温かくなりつつも、気になったので訊いてみた。
「あ゛? 確か……魔堕ちした竜の討伐をしていた時に、アレが見ていて……相手してやったら、しらねぇ間に番になりやがった」
と、至極どうでも良さげに話してくれた。
……は? 番になりやがった?
弟のエドくんはあんなに必死なのに?
大体、どういう状況な訳?
ん~と? 要は、王竜がフェリクス王と他の竜の戦いを、どっかで見学していて、王がなんか強そうだったからフラッと乱入。「オイ! お前ちょっと強いじゃねぇか、イイから顔貸せ」……みたいな感じ?
……え? なんだソレ? 不良か任侠の世界?
「えっと……ちなみにシュゼル殿下は?」
さっぱり理解出来ないので、弟の宰相様の事を訊くことにした。
だって、強さに惚れたから番にしてやる……なら分かるけど、ナゼにそこから戦うのかね? 分からない世界が広がっていた。
逆に弟のシュゼル皇子は、そんなバトルを繰り広げるイメージはまったく湧かない。ほのほの。ほのぼの、のほほ~んとしているイメージである。
「……花だか果実だかを摘む場所が、あの白いのと同じで気が合ったとかなんとか……」
フェリクス王は話しながら、アホくせぇ……って表情をしていた。
うっわ……メルヘンだ……メルヘン過ぎる。
外国の映画のワンシーンかってくらい、メルヘン。乙女チックともいう。アハハ、うふふの世界だ。
真逆過ぎる出会い方に、莉奈は遠い目をしていた。
かたや竜とガチバトル。かたや竜とお花畑なノリ。ナニこのギャップ。
エドくん。ガチバトルだけはヤメてね?
頑張って番を探しているエギエディルス皇子を、莉奈は祈る様な気持ちで見ていたのだった。
◇◇◇
「おぉ、リナ戻って来たか」
エギエディルス皇子を見ていたら、近くにいたゲオルグ師団長がこちらに気が付いた。
とっくに白竜宮に戻ったと思っていたが、そうではなかったらしい。
「どうしたんですか?」
なんだか待っていたみたいなので訊いてみた。
「ロックバードの解体が終わったから、肉を持って行くだろう?」
「あ~。そんな事、すっかり忘れてました」
言われなかったら、普通に帰ってたよ。竜が番になったり逃げたり、色々あり過ぎて頭から抜けてたし。
もう精神的に大ダメージを受けたので、部屋に戻ってゆっくりしたい気分だった。気力を回復してくれる薬はないのかな。
「忘れないでくれ。皆が楽しみにしているんだ」
ゲオルグ師団長は苦笑いしていた。
ロックバードを口にする事が出来なかった者達は、今か今かと待ちわびているのだ。今日の夕食に出なかったら、ちょっとした騒ぎになるだろう。
「はぁ。楽しみにはイイですけど、え? ナニかな? コノ……私が作る感じ」
皆の視線や空気、雰囲気がそうだ……と醸し出していた。
昨日食べたニンニクのチキンソテーを、勝手に作って食べれば良くない?
昨日はなんか作る予定だったけど、今はそんな気分じゃないっていうか……。面倒ともいう。
「「「炊事長官以外に誰が作るんだ!!」」」
「誰が炊事長官なんだよ!!」
莉奈は間髪入れずにツッコんだ。
自分がボヤいていたら、ゲオルグ師団長だけでなく、アメリア達も熱く言ってきたからだ。
"炊事長官" が浸透しそうで怖いんだけど? ヤメてもらっていいかな?
「炊事長官。俺、からあげが食いたい」
とりあえず竜はもういいのか、エギエディルス皇子が歩み寄って来た。
確かにロックバードのからあげは、絶品だったけど。君、口を開けば "からあげ" だね。
「炊事長官とか言うな。エボリューション隊長」
炊事長官が浸透したら困るから、冗談でもヤメて。
それと鳥料理は、からあげ以外にも色々あるのだよ? エギエディルス皇子や。
「エボ……隊長……」
もはや敬称もない名前も違う。ツッコミ処満載の莉奈に、エギエディルス皇子は笑っていた。
「からあげにエールか……」
フェリクス王が、顎を撫でながら呟いていた。
先日食べたからあげを想像している様である。兄弟揃って "からあげ" かい。
弟と莉奈のやり取りは、もうこれが通常なのでどうでもイイらしい。
そして……酒ありきで、考えるのヤメて貰えますかね?
「ぁ~……そうだ、チキンカツでもイイな」
莉奈は、フェリクス王のエールという呟きを耳にして、父を思い出していた。
ウスターソースとタルタルソースをたっぷりつけて、ものスゴくご機嫌で食べていたな……と。
ウスターソースは作るのは面倒だけど、タルタルソースなら割りと簡単だしイイな。想像すると莉奈の口の中は、チキンカツモードになり始めていた。
エール (ビール)といえば、やっぱり揚げ物。お父さんは、カツやからあげと合わせて良く食べていた。まぁ、鉄板は "からあげ" だったけど。
「「「チキンカツって?」」」
エギエディルス皇子やゲオルグ師団長達が訊いていた様だ。
「……はぁ」
莉奈はため息が漏れた。
この国の人達は皆、耳がイイのか私の呟きが大きいのかは知らないけど……ほっとかないよね。
「鶏肉にパン粉を付けて揚げた物」
ザックリ言うと、そんな感じでいいハズ。
「 "パン粉" ってなんだ?」
ゲオルグ師団長が皆の代表として、声に出していた。
「パンの粉?」
クズではないし、説明が難しい。
「「「粉?」」」
その説明ではやっぱり分からないのか、皆は首を傾げていた。
莉奈はどう説明したものかと、考えていく内にチキンカツの世界に入ってしまっていた。
「あ~。粉チーズをパン粉に混ぜてもイイな」
チーズの風味がついて衣にコクも出る。さっぱりしたササミを揚げる時なんかは入れた方が好き。
「チーズを挟んでも美味しいよね」
むね肉は横幅があるから、コクのあるチーズを挟んで揚げればパサパサ感が気にならない。逆にモモ肉よりチーズと合う。
「パセリとかバジルを合わせても……」
莉奈はさっきまで作るのが面倒だったが、すでに口がチキンカツを求めていた。どんなチキンカツにしようか悩む。
そう……疑問を浮かべている皆を、完全に忘れておいてけぼりである。
「お~い?」
1人チキンカツの世界に入ってしまった莉奈に、エギエディルス皇子が苦笑いしていた。先程までやる気がなさそうだったから余計である。
だが、莉奈は何も聞こえていないのか、ブツブツ言いながら白竜宮に向かい歩き出した。そんな彼女を見ていたエギエディルス皇子達は、小さく笑うのであった。




