187 アメリアと竜
ゲオルグ師団長の執務室を出ると、竜のいる広場に向かった。
竜を見るのはこれで2度目になる訳だけど、やっぱりスゴいワクワクする。
「リナは……竜が怖くないんだな」
アメリアが驚きを隠せないでいた。
竜に憧れを持つ自分でさえ、実際に会った時は恐怖を感じたのに、莉奈には一切ないのが見てとれたからだ。
「だって、知能が高い竜だもん。全然怖くないよ?」
これが、魔堕ちした魔竜だったら別なのだろうけど。怖い怖くない以前に、幻想の竜が自分の目で、しかも間近で見られる高揚感の方が上回っていた。
話が通じるなら、全く怖くはない。むしろ、話の通じない人間の方が、何をするか分からないので怖いくらいだ。
「そういう所が、竜達に好かれるのかもしれないな」
アメリアは羨ましそうに呟いていた。
「アメリアは、番は?」
苺バターをあげた辺りから、年齢も近いし敬称付けはイイと言われ "さん" 等はお互いにしない事にしている。
「……」
その途端にアメリアは、ものスゴく悲しそうな表情をした。いらぬ事を訊いたらしい。
「女は番になれねぇんだよ」
項垂れた様なアメリアに代わって、エギエディルス皇子が答えてくれた。
「え? なんで?」
何その、男女差別的な発言。聞き捨てならないぞ?
「しらねぇ」
とエギエディルス皇子は、そっけなく言った。
そもそもが、自分も番を持ってはいないし、そんな事はどうでもイイ。まずは自分の番の方が大事なのだろう。
「しらねぇって……お兄ちゃんズは?」
知らないの? と訊いてみる。あの2人ならさすがに知っているだろう……と。
「言わねぇよ。理由は自分で確かめろってスタンス」
「あ~そう」
そういう感じですか。疑問は自分で解決しろって事。楽するなって事ね。
莉奈は、兄王達らしい返答に苦笑いも出なかった。
「アメリアは訊いた事あるの?」
自分より竜に接する機会がある彼女なら、事情を知っているのでは? と思った。
「訊いた事はあるが……答えはなかった」
あちゃ~、ますます、項垂れてしまった。
彼女だけではなく、近衛師団にいる女性は必ず差し掛かる疑問。だから皆一様に思い、尋ね撃沈している様だった。
そもそもが気難しい竜だから、男が女とか以前に、話掛けても返答がない事が普通らしい。莉奈が初っぱなからガンガン話せて、バシバシ触っていたのが、異様……異例な事だとか。
「リナ!」
アメリアは何かを決心した様に、莉奈の右手を両手で握った。
「ん?」
「頼む!! 理由が知りたいんだ。訊いてみてくれないか!」
今までずっと感じ、思い続けてきた切実な声を、莉奈に託そうとしていた。
自分ではいくら頑張っても、答えは見つけられずどうしてイイのか分からなかった。だが、今は違う。竜に好かれた少女がいる。
彼女、莉奈ならば……その答えを訊く事が出来るかもしれない……と。
「……えっと」
「お願いだ!!」
必死で急な頼みに驚いていると、アメリアはさらに力強く右手を握り絞めてきた。
訊いたところで、答えるのかな? と思わなくもないが……
「分かりました?」
と苦笑いする。訊くのはタダだし、竜がそんな質問で怒るとも思わないから快諾する。
「ありがとう!!」
まだ答えが分かった訳でもないのに、泣きそうな笑顔を見せた。
女というだけで番を持てず、ずっと辛い思いをしていたのかもしれなかった。
それほどにも彼女は、竜騎士になりたいのだろう。確かに訳も分からず、就きたい仕事に就けないのは悲しいし辛い事だ。
莉奈は、彼女のためにも訊けるなら訊いてみてあげようと思ったのであった。




