176 また人が増えた
「ん~っ! 甘くて美味しいですね~」
弟から掠め捕った苺バターのパンを、シュゼル皇子が嬉しそうにぱくりと食べていた。
コクのあるバターの味に、ハチミツの甘さと苺の酸味がほどよくマッチしていて、とても美味しいのだ。
「ガーリックバター旨っ!」
仕方なくガーリックバターの方を食べたエギエディルス皇子は、ガツンとくるニンニクの香りと味に、食欲をさらに促進させられていた。
「……」
そんな2人を微動だにせず、無表情で見ているイベール。
そして、その3人を小窓からチラリと見た莉奈は、小さく笑いつつ作業を進めていた。
「なぁなぁ! リナそれ!」
莉奈が皇子達の分を用意し始めると、横から興奮した様な声が上がった。
「え? 何?」
莉奈はキョトンとした。皇子のを作るにあたって不満でもあるのか? と。
「すげぇ、豪華なんだけど!?」
皇子達にも、ただ焼いたパンにガーリックバターを塗って提供するものだと思っていた料理人達は、莉奈の作業に釘付けだった。
茹でたじゃがいもを皿に盛り、その上に炒めたベーコンと玉ねぎ、ガーリックバターをのせる。そして仕上げに、チーズをたっぷりと乗せオーブンに入れたのだ。
莉奈のさらなる手が加わり、自分達の食べた ただのパンやじゃがいもとは全く違って、豪華で贅沢な料理に変身していた。
「皇子様のだからね?」
莉奈の作る料理に誰かが何かを言えば、王族だから当たり前だと返してあげた。
提供する相手は皇子2人と、賄賂をあげておいた方がいい氷の執事様だ。必然と料理も豪華になるって話だ。
「えっと……食べたいの?」
あまりにも自分の作業を、ジッと見るものだから莉奈は訊いた。
ベーコン以外は特別な材料は使ってないから、誰にでも作れるハズなのだが、どうしても作って貰いたいらしい。
「「「食べた――っい!!」」」
皆は嬉しそうに挙手をした。
「……っていうか、さらに人が増えたね。この厨房」
挙手をした人達を見て莉奈は驚いた。
ベーコン入りのを、何人かには作ってあげようと辺りを見渡して見たものの、また知らない顔が増えたな……と思ったのだ。
「以前より料理の質が上がったからね。人手が必要になったんだよ」
とリック料理長は楽しそうに笑った。
"質が上がった" なんて言い方しているが、要はそれに伴って手間が増えたのだから大変に違いない。それで、今までの人数で廻せなくなってきたのだろう。
「ふぅ~~ん?」
莉奈は正直複雑であった。
ご飯が美味しくなったのはイイけど、リック料理長達の仕事を増やしてしまった様な気がして、なんか恐縮してしまう。
「リナのおかげで毎日が楽しいんだから、そういう表情をすんなよ」
マテウス副料理長が、莉奈の頭をポンポンと優しく叩いた。
どうやら、表情に出ていたらしい。
「でも、面倒くさくない?」
美味しいご飯は食べるのは良いが、作るのはクソが付くほど面倒である。作る莉奈だからこそ良く分かる。
「それが私達の仕事だから」
リック料理長達が晴れやかに笑っていた。
以前に比べ遥かに毎日大変ではあるが、美味しい美味しいと食べてくれる人達を見るのは格別だったのだ。
「そっか……そうだよね? よし!! 面倒な事はすべてリックさん達に任せればいいんだ!!」
そうなのだ。忘れていたが、自分はここで作ってはいるが仕事ではない。好きにやればいい!!
リック料理長達に面倒事はすべてを任せればイイんだ……と莉奈はパンと手を大きく叩くと力強く頷いた。
「「「いやいやいや!? なんか違うからね!? お手柔らかに頼みますよ?」」」
何をやらせるつもりなんだと、リック料理長達は、手や顔を大きく振るのであった。




