170 芋虫
莉奈達が王宮に戻ってから、小1時間後――――。
ゲオルグ師団長率いる竜騎士団が帰還した。王命がなければ近衛師団兵な訳で、ものスゴくややこしい。
そんな事を考えながら、フェリクス王達に呼ばれた莉奈は、慌ただしく王宮の裏庭に向かっていた。
裏庭とはいえ、手を抜いたりする事がないらしい。いつ見ても手入れが行き届いてあり、草花がキレイで雑草がまったくない。
この間、ここで拾った藁的な草は、鳥でも運んで来たのかもしれない。
莉奈が裏庭に着くと、フェリクス王も含め全員が待っていた。
「…………」
王より後に到着とか……いくらチタン合金のメンタルの莉奈でも、複雑な心境であった。いや……別に待ち合わせしていた訳ではないし、なんだったら何時に来いと言われていた訳でもない。
だけど、自分以外が揃っていて、後から来た自分を全員が見る。この視線がなんだか痛い。
「お待たせ致しまして、大変申し訳ありません」
一応王達が見えた辺りから小走りに向かうと、深々と頭を下げた。正直走りたくはなかったけど、皆が一斉に "来たな" って表情で自分を見ているのに、ゆったり歩いて行ったら……お前何様だよ? となるに違いない。
そんな事をしても許されるのは、ここにいる人達より身分の高い者だけ……要はいないという事だ。
「こちらこそ、お忙しいのにお呼びだてして」
シュゼル皇子がほのほのとしている横で、王がアイツが忙しい訳ないだろう? って表情をしている。
ム・カ・つ・く!! あのニヤついた顔を殴りたい。
「ロックバードの件ですよね?」
殴りたい気持ちを微塵も出さずに、莉奈は笑顔で訊いた。ゲオルグ師団長もいるのだから、そういう事なのだろうと察する。
「あなたの【鑑定】を信じていない訳ではありませんが、確認も兼ねてお願いします」
シュゼル皇子は軽く頭を下げてきた。市民にも普及していくのだ、何度も確認するのは当たり前。莉奈は改めてお願いする、シュゼル皇子には頭が下がった。
「ゲオルグ」
シュゼル皇子がそう声を掛けると、ゲオルグ師団長は頷き、魔法鞄からロックバードをドスンと取り出した。相変わらずデカイ鳥である。
皆の注目する中、ロックバードを【鑑定】すると、やはりモモ肉・ムネ肉のみ食べられる様だった。これで、安心してこの国の人達に普及、配給出来るだろう。
「ものはついでだから、これも【鑑定】してくれ」
と言うとゲオルグ師団長は、魔法鞄から新たな魔物をドスンと取り出した。
……え?
……ええ――っ!?
――――うっわ……キモッ!!
キモイんですけど――!?
莉奈は思いっきり顔をしかめた。そして、自然と腕を擦っていた。鳥肌が立つとは、まさにこの事だった。鳥肌なんて人生に1度あったかなかったかくらいだ。本当にゾワリと、立つものなんだなと感心する。
何が気持ち悪いかって?
だってこれ……芋虫でしょ!! イ・モ・ム・シ!!
胴回りは2・3メートルあるだろう、イ・モ・ム・シ!!
大きなゲオルグ師団長でさえ、丸飲みするだろう大きさの芋虫だ。なんでこんな物捕ってくるのかな? 何に使えるのよ【芋虫】の魔物なんか。莉奈は口にこそ出さないが、ブツブツと心の中で文句を垂れていた。
芋虫と違うと云えば、体には数本の触手。その先には太く尖った爪が生えている。この触手で地をガッシリ掴んだりして、歩く? 這うのかもしれない。
よく見るとうっすら開いた口には、小さい歯がいっぱい生えていた。人間と違い2・3列に生えているのだ。そして、その口周りには無数の触手。
草食系では無さそうである。とにかく気持ちが悪いの一言に尽きる。
「鑑定するのは構いませんけど……【食用】と出たら "コレ" 食べるんですか?」
と全員をまんべんなく見てみる。この芋虫を鑑定する意味を知りたい。食用と出たら出たでどうするのかな? 私は絶っっっ対に食べないからね?
「……いやいやいや」
ゲオルグ師団長が、手を力強く左右に振っていた。そういうつもりで【鑑定】をしてもらおうとしていた訳ではない様だ。そして、食べる事を想像して気持ちが悪くなったのか、ブルリとその大きな身体を震わせた。
近衛師団の人達も見たら、首を大きくブンブンと横に振り、鳥肌でも立ったのか腕を擦っていた。皆、食べる気ではないらしい。
「この魔物……爪とかに毒があるのだが、詳しく鑑定する機会がないから、今後の参考に出来ればと……」
莉奈が怪訝そうに見たものだから、ゲオルグ師団長は慌てて否定し本来の目的を教えてくれた。
鑑定士が少ないので、イチイチ鑑定には回さない。鑑定士も鑑定する以外の仕事も持っていて暇ではないからだ。
だから、過去の軍部の人達が調査したり経験した記述を、そのまま信じる余地しかないのが現状みたいだ。
「ふ~ん?」
食べたければ食べればいいんじゃないかな? と思いつつ莉奈はこの芋虫を鑑定して視る事にした。
【キャリオン・クローラー】
湿気のある処を好む性質の魔物。
触手に生えた爪は、岩場をも突き刺し天井や壁をもよじ登る。
〈用途〉
口周りの触手、触手の先に生えた爪には、強い神経毒がある。
武器に塗布すれば麻痺毒としても使用可。服毒すれば強い麻痺毒により死に至る事もある。
〈その他〉
食用ではない……が心臓は食用可。
血はポーションと混ぜると解毒薬として使用可能。
「…………」
莉奈は絶句した。まさかの【食用可】。
……え? キモッ! 食べられるの!?
誰がなんの為に食べるんだよ!!
……芋虫……超怖――――いっ!!




