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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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164 いらぬ呟き



「……ぷっ……姫」

 白の竜こと真珠姫がご機嫌にしている横で、失笑する声が聞こえた。誰かと思えば王竜である。莉奈の付けた呼び名が、可笑しい様だった。

「……なんですか? 黒いの」

 その失笑で一気に空気が凍りついた。癇に障った真珠姫は、他の竜が王と呼ぶ中、王竜をわざと揶揄して黒いのと言い返す。

「貴様が……"姫" とか……笑える」

 バカにした様に首を伸ばすと、見下ろして笑ってみせた。"姫"など似合わないと、わざわざ言わなくてイイ言葉を、王竜が放ったのだ。

 その瞬間、ブワリと真珠姫の首周りの鱗が逆立ち、白くキレイだった鱗も首元から胸元まで一気に黒く変色する。まさに逆鱗である。



 コレ……あかんヤツだ。



 莉奈はゾッとした。竜の逆鱗など目の前で体験するモノではない。バーチャルなら楽しそうだが、現実はゴメンである。莉奈はいそいそと柵の外に戻った。

 こういう時こそ、世界一安全なフェリクス王の側にいるのが一番である。


 真珠姫は誰の目にも明らかに怒っていた。ガチギレってヤツだ。自分の気に入った呼び名を、鼻で笑われたのだ。当然といえば当然だが……余所でやって欲しい。


「何が……笑える……と?」

 もう一度言ってみなさい……と真珠姫の目が細くなり、次第に前傾姿勢になり始めた。そして、王竜との間合いを取る様にゆっくり……ゆっくりと後退する。

 まさかの戦闘態勢に、フェリクス王以外は竜を刺激しない様、足を1歩また1歩と動かしていた。


 それは、他の竜も同じ様だった。竜のNO.1・2がケンカを始めようとしているのだ。とばっちりが……いや大惨事が起きる。竜達も危険を察知し、2頭をなるべく刺激しない様に後ずさりしていた。



「貴様が "姫" とか笑えると言ったのだ」

 と、さらにブフッっと鼻で笑った王竜。言わなくてもイイ言葉を何故にもう一度言うかな。煽らないで頂きたい。

「そう……です……か」

 再び言われたその瞬間、真珠姫の目がキラリと光った気がした。まさに戦いの火蓋が切られた……。




 キイ――――ン。




 その瞬間……この凍てつく空気、静まり返ったこの場所に、何処からともなく金属音が一つ響き渡った。

 竜も人も皆、時が止まりヒュッと息を飲む。



「……誰の国で、やろうとしている?」

 そうフェリクス王その人である。莉奈の身長程はある長い剣を、魔法鞄マジックバッグから抜き出し地に刺していたのだ。

 目の前でやり合おうとしている竜に対して、牽制をしたのである。

「「………………。」」

 王竜、真珠姫、互いに無言だった。逃げようとしていた竜達も、その場で固まっていた。足が凍り付いた様に動かないのだ。

 動いたらまとめてヤられる様な気がして、足が竦んでいた。


 しかし他の竜はともかく、この王竜と真珠姫の気性からして、たかが人間のそんな一言だけで、収まるとは思えない。

 だが、徐々に……真珠姫の首周りの逆鱗が戻っていった。竜の怒りが人間の王のひと睨みで収まる……そちらの方が恐怖である。


「…………」

 フェリクス王も無言で、2頭の竜を見ていた。やり合おうものなら、たとえ自分の番だとしても、その長剣で容赦なくバッサリとやるのだろう。

 誰もが動けないでいた。動いたらフェリクス王に斬られるのでは? という異様な緊張感、緊迫感が流れていたからだ。



 その凄まじい緊迫の中、強靭なメンタルを備えた少女の呟きが1つ。

「……そういえば……竜の肉って美味しいのかな……?」



 小説では竜の肉は、絶品だとか謳っている物もある。人を乗せる飛竜については知らないが、美味しいのかな……と素直な疑問が口を滑らせる。

 ロックバードが食べれたのだから、竜も食べれるのかもしれない……と。こんな緊迫した空気の中、莉奈は1人疑問を口にしていた。



「「「「「………………っ!?」」」」」

 その場にいた全員、竜も人も目を見開き、妙な恐怖でヒュッと息を飲む音がする。

 顔面蒼白あるいは、驚愕した表情を皆がしていた。

 竜達はフェリクス王とは、違う恐怖を感じ(おののき自然と半歩後ずさりする。

 軍部の人達は、耳を疑っていた。竜と人が今まさに睨み合っているこの空気の中、ものスゴい言葉を放った者がいなかったか……と。

 そして、その言葉を放ったであろう少女を、皆が戦々恐々として見ていた。



「お……お、お前……何言ってるんだよ――――っ!?」

 兄の後ろにいたエギエディルス皇子が、震える様な声で聞き返した。絶叫ともいう。聞き間違いであって欲しいと、願わなくもなかった。



 お前はどういう状況の中で、そんな恐ろしい言葉を放つんだよ! 言うにしたって "時と場所" を考えろ!! と。



「……え?」

「お……お前は、竜まで喰う気かよ!?」

「…………」

 エギエディルス皇子に言われ、莉奈は思っていた事がポロッと口から漏れていた事に今気付いた。

「あれ?」

 と慌てて口を押さえたが、後の祭である。静まり返っていたのだ、全員に丸聞こえである。



 ――――あれ?



 莉奈は何故、口から言葉が出てしまったのかと首を傾げていた。



「黒いの……聞いたか?」

 瞠目したまま、口を半開きの状態で固まっている王竜に、フェリクス王が面白そうに話し掛けた。

「その娘は……(ワレ)を喰らうのか!?」

 自分達を素材や薬として狩る人間は数多くいたが、血肉を喰らおうと考えている人間を初めて見たのだ。恐怖を通り越して驚愕していた。


「へっ? いやいやいや……食べませんよ!?」

 王竜までがおののいていたので、莉奈は身振り手振りで慌てて否定する。

 小説は小説だし、目の前で話までした竜を食べようなんて考えてもいない。ただ、そう本に書いてあったな……と思わず口から出ただけなのだ。

「「「…………」」」

 信じられないのか信じないのか、一生懸命否定しているのに、ナゼか竜達がゆっくりと1歩また1歩と下がって行く。

「えぇ!? ちょっと……誤解ですってば!!」

 せっかく仲良くなったのに、潮が引くかの如く一斉に莉奈の周りから竜がいなくなる。その様子に莉奈は慌てて竜を追いかける様にガバッと柵に入った。

 その途端に「恐怖の大魔王が入って来たー!!」と言わんばかりに竜達は、ギャワギャワと飛ぶのも忘れ半ばパニック状態であっちこっちと逃げ回る。阿鼻叫喚という言葉があるが、まさにこの事だろう。



「「「…………」」」

 かつてない様子を目の当たりにし、呆然自失で見ている軍部の人達。魔物の中でも冷静沈着な竜が、パニックを起こすその姿は……まさにカオスであったのだ。



 ……あれ~?



 その後、莉奈が王竜や真珠姫達の誤解を解くのに……時間が掛かったのは云うまでもなかった。





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