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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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162 王竜



 莉奈はご満悦状態だった。口元が緩みっぱなしである。まずは広げてくれている翼に触れた。柔らかくしなやか、しっとりとしていてなんとも言えない。牛革とも違うし、布地とも違う。初めての触感だった。


 鱗は黒々としていてキレイだが、少し汚れている。外にいるのだから当然だろう。だが、磨けば光沢が出て艶やかに輝くに違いない。

 触った感触は魚の鱗より断然固い、トカゲの鱗とも違う、プラスチックや鉄とも違う、黒曜石に似ているが……初めての質感だった。


 ゲームで【竜の盾】というのがあるが、実物の鱗を見て納得する。形も大きさも加工すれば、盾として最良の素材となるだろう。乱獲も頷ける。

 爪や牙もしっかりして装飾品や武器などに、重宝されるに違いない。さながら金の成る木ならぬ、金の成る生き物なのだろう。



「はぁ……」

 莉奈は念願が叶って、惚けていた。生きた竜を見る事も触る事も出来たなんて、スゴい至福である。漆黒の竜にベタリと張り付いていた。

 鱗が冷たくて気持ちがイイ……トカゲが大好きだった弟の分も、いっぱい触っておかなくては。

 不躾とは分かりつつペタペタ触る、やめられない止まらない……のであった。


「「「…………」」」

 遠巻きに見ていた軍部の人達は、その莉奈の姿に愕然としていた。ただでさえ、竜に触れるのが禁忌と言っても過言ではないのに、この漆黒の竜……実は【王竜】と呼ばれ、その名の通り竜の頂点にいるのだ。

 その王竜がこんなにも人に心を許し、あまつさえ大人しく身体に触れさせている。ありえない事実を目の当たりにし体が膠着していた。

 王竜が許す……認めたという事は、すべての竜が認めたと言ってもいい。



「満足かよ?」

 柵ごしに見ていたフェリクス王が、呆れていた。竜マニアかよ……ってくらい、うっとりしているからだ。

 正直面白半分で、莉奈を連れて来ただけなのに、こんなに竜に気に入られ、身体に触れる許可まで貰えるなど想定外だった。莉奈の規格外のポテンシャルを、完全に舐めていた。

「超絶満足です!!」

 莉奈は、満面の笑みを浮かべていた。鼻歌さえ出そうな表情である。フェリクス王は子供の様にはしゃぐ莉奈を、優しく見守るのであった。




 ◇◇◇




「はぁぁっ……竜がいねぇ」

 そんなご満悦な莉奈とは対照的に、エギエディルス皇子は項垂れていた。ここにいる竜のほとんどが、誰かしらの契約している竜だからだ。なぜ分かるのか……エギエディルス皇子は毎回来ているので、竜騎士団の竜の個体をすべて把握していた。

 ロックバードを討伐しに行っているのは30程度、ここにいる10数頭……上空に飛来しているのが数頭といったところ、自分に興味を示す竜はいなかった。


「エド、焦らなくてもいいんじゃない? 相性だってあるんだろうし」

 テクテクと戻り、ガックリしているエギエディルス皇子に、柵越しに話し掛ける。犬や猫でさえ相性があるのに相手は竜だ、そんな簡単には番は見つからないだろう。

「初見で "王竜" に触れたお前には、わかんねぇよ」

 エギエディルス皇子は、プイッと顔を反らし完全にふて腐れていた。サクッと触れた莉奈に対して、悔しさもあるのだろう。

「何……王竜って?」

 竜にも王がいるのか、と莉奈はビックリしていた。

「竜も群れる以上親玉がいる」

 ショボくれ始めた弟に代わって、フェリクス王が答えてくれた。




 ……親玉って……悪の組織かよ。




「頂点がコイツ "黒"。その下が "白"……次が紫・蒼・緑・黄の順に強い。元々野生の竜や瘴気に感化され、"魔堕ちした" 竜もいる。まとめて魔竜と呼んでいるが、ソイツらにも色がある。灰・赤・茶の順で強い」

 内心ツッコミを入れていた莉奈に、王は細かく説明してくれた。

 黒>白>紫>蒼>緑>黄。

 野生や魔堕ちした竜は魔竜といい、灰>赤>茶。

 色によって強さが変わる様だった。竜さえも瘴気でおかしくなるのか……と思うとゾッとする。

 そして灰色の魔竜はフェリクス王でも、倒すのは骨が折れるとぼやいていた。



 そもそも……人間が1人で竜を倒せるのが、おかしい気がする。



「白の竜ってあれですか?」

 上空には先程までいなかった、白く輝く綺麗な竜が飛来していた。青い空に綺麗な白色が溶け込んで、まるで動く絵画の様。

「そうだ……あれがシュゼルの竜」

 フェリクス王もチラリと空を見上げれば、白き竜はゆっくり旋回をしながら降りてきた。こちらの視線に気付いたのか、たまたまかは分からないが……近くで見れるのかと莉奈は、ワクワクしていた。


 白がシュゼル皇子の竜と聞き、莉奈は大きく納得する。フェリクス王が黒のイメージなら、シュゼル皇子は白のイメージだったからだ。エギエディルス皇子は青が合いそうだけど、こればっかりは分からない。

「……きれ~い」

 莉奈は音も静かに、王竜の近くに降下して来た白い竜に見惚れていた。

 鱗に陽の光りが反射して、なんだか真珠の様に複雑な色をして見えたのだ。

「なんだ……我はキレイではないと?」

 先程まで自分を誉めちぎっていた莉奈が、白い竜を誉めているので若干不機嫌気味である。

「王竜様は勇ましくカッコイイけど、白い竜は優雅で美しい。比べるものではないですよ?」

 莉奈は、言い訳の様に説明しながら、苦笑していた。

 そうか……感情があるのだから嫉妬もあるのか。

「……だが……気に入らん」

 エギエディルス皇子ではないが、眉間にシワを寄せふて腐れる。

 それを見ていたフェリクス王は、くだらなすぎて完全に呆れていた。

「……その娘は?」

 白の竜は真っ先に、フェリクス王の近くにいる莉奈を見た。王がこの場所に、女性を連れている事が珍しい上に、柵の中にいるのだ。気にならない訳がない。

「リナです、白き竜様」

 フェリクス王がチラリと見たので、自分から自己紹介をしてみた。

「そこの王の妃ですか?」

「……は?」

「妃かと訊いているのです」

 白の竜の突拍子もない爆弾発言に、莉奈は石の様に固まった。

 




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