161 もはや莉奈の独壇場
「……で、声帯どうなってます?」
莉奈は、改めて漆黒の竜に訊いてみた。鳥のそれなのか、人に近いのか。
「おぬしは、我に初めて会って訊く事がそれなのか?」
漆黒の竜は、表情がよく分からないが呆れていた。そんな質問をする人間は、初めてである。他にもっと訊くべき事があるのでは?
「え? なら御歳は?」
「おぬし……変わった娘だな」
「……は?」
失礼じゃない? と眉を寄せたが、初めて会った竜に年齢を訊く方が失礼かと思い直した。
「竜に年齢訊くとか、マジでねぇから」
隣にいたエギエディルス皇子が、どこをどうツッコんだらいいのか悩んでいた。
「んじゃ、何を訊くのよ? あっ! お触りオーケーですか?」
と莉奈は挙手をした。
訊き方がおかしくもないが、興味しかない莉奈は本能の赴くままに漆黒の竜に訊いたのだ。フェリクス王の話を聞く限り、許可さえ出れば触れるのだろう……と判断した。
言葉が通じるのだから、本人……本竜? に訊けばいい。
「娘よ」
「あっ…… "リナ" って言います黒き竜さん」
どこまでもマイペースな莉奈は、呆れ気味の竜にペコリとお辞儀し自己紹介をした。
「お主……メンタルはどうなっている?」
漆黒の竜は瞠目すると、眉を寄せポソリと言った。
「……は?」
莉奈も思わず眉を寄せた。
ナゼ……竜にまで、メンタルの心配をされなくてはいけないのだ?
「面白ぇだろ?」
そのやり取りを見ていたフェリクス王は、実に愉快そうにニヤニヤしていた。
莉奈が普通の少女なら、絶対に連れては来なかった。コイツだからこそ、どういう反応をするのかが気になり連れて来たのだ。
莉奈が竜を見たらどうするのか、自分の竜がこの女を見たらどういう反応をするのか。
想像以上、斜め上のやり取りに可笑しくて仕方がなかった。
「嫁にするのか?」
口元に小さな笑みを見せた、漆黒の竜。自分に見せに来た……紹介したという事はそういう事だろうと。
竜的にはギャーギャー叫ばない女なら、誰でも良かった。気に入らなければ、近付けさせなければいい話だからだ。だが、この王が選ぶ妃にも興味がある。だからこそ、訊いてみたのだった。
「嫁……ねぇ」
別にそんなつもりは1mmもないのだが、さらに愉快そうに莉奈を見た。どうくるのか……と。
女として意識した事はないが、コイツが嫁なら面白いと思わなくもない。
「そもそも……コイツ話を聞いてもいねぇし」
エギエディルス皇子は呆れ笑いをしていた。
そう……莉奈の興味は竜にしかなく、隣でしゃがみ込んでいた。何をしているのかというと、竜の爪をマジマジと見ている。竜と王の会話など眼中にないらしい。
王は一瞬呆気にとられたものの、くつくつと笑っていた。予想を斜め上にいく莉奈の反応が、面白くて仕方がなかったのである。
「なぁ……んなもん見て面白いのかよ?」
エギエディルス皇子にはサッパリだ。その雄大な姿を見て感動するのは分かる、だが足元をこんなにも、じっくり見る人間はそうはいない。
「カッコイイ!!」
莉奈はさらに目をキラキラと輝かせていた。幻想でしかない竜をこんなに間近で、しかもじっくり観察出来る眼福、至福の時である。
大きなトカゲに、コウモリの羽根を生やした様な生き物……と表現した小説を読んだ事があるが、活字で読むのと見るのでは全然違う、異世界最高である。
「むっ……そうか……カッコイイのは爪だけか?」
莉奈に褒められ、満更ではない漆黒の竜は、他にはないのか角度を変えたりしながら訊く。
「瞳は黒くてキラキラしててキレイだし、鱗も艶々していてカッコイイ」
「そうだろう……そうだろう」
莉奈の純粋な誉め言葉を、上機嫌でウンウンと頷く竜。
「翼はどうだ?」
と言えば漆黒の竜は、その大きくて黒い翼をバサリと広げて見せた。誇らしげである。
その大きな翼は、同じ黒でもコウモリの羽根とはまったく違っていた。
「……スゴい優雅で……立派な翼!!」
莉奈は、テンションがさらに上がった。両手を広げた竜の翼は、軽く10mは超えていた。陽が微かに透けるその翼は、優美であった。
「触らせて下さい!!」
莉奈はその姿に我慢が出来ず、ダメ元で頭を下げてお願いしてみた。ダメならダメで仕方がないし、頼むだけならタダだ。
「ふむ……イイだろう」
そこまで褒め称えてもらった事がない竜は、実に機嫌が良くなり快諾してくれた。
「やった~~!!」
莉奈は両手を上げ、ジャンプして喜んでいた。王がなんと言おうが竜が快諾したのだ、これで文句はないだろう。
「「「「「…………」」」」」
王も含め全員絶句、唖然呆然である。
契約した番以外に触れさせる事などまずないのだ。竜の宿舎を掃除する、近衛師団の人間でさえ配慮する程だ。たまたま触れたくらいならまだしも、好奇で邪な心で触れた日には……。
それくらい、気難しいのが竜なのだ。牙・爪はもちろん肉や内臓に至るまで、竜は素材として売買される。だから気を許せば命取りになり兼ねないのだ。
人間がそうそう敵う相手ではないのだが、その貴重な素材を求め挑んでくる。だから毛嫌いしているのだが、この国は祖先が乱獲されていた竜を救った経歴があり、今の今までイイ関係を結んでいた。
「失礼しま~す」
莉奈は、皆が唖然呆然としているなか、柵の中に躊躇もせずにズカズカと入っていった。もはや莉奈は、なんでもアリ状態である。
その行動を止められる者など、もはやこの国には誰もいないのかもしれない。




