159 白竜宮
ラナ女官長達に「いってきます」と挨拶をしたら、頭上から "パチン" と音がした。
その次の瞬間、空間がグニャリと歪み、目眩の様な感覚にフラッとしていたら、すでに何処かの部屋の一室にいた。
……え?
一体何が起きたのか? と首を傾げる。話の流れからして【白竜宮】の何処かに違いないとは思うが。
……まさか!?
今のが瞬間移動!?
「……大丈夫かよ?」
急過ぎたか? とフェリクス王は心配気に莉奈を見たが、その表情を見て心配無用だと笑った。
【白竜宮】に行くのに歩けば30分以上は掛かる、馬もあるが用意をしていない。面倒だからと王は始めから、莉奈と末の弟を連れて【白竜宮】に瞬間移動する事にしていたからだ。
あまり知られてはいないが、初めてこの魔法で移動すると、空間の歪みにより目眩を起こす者もいる。
だから心配をしたのだが、そんな心配は杞憂だった。初めての瞬間移動に興奮している様である。
「……瞬・間・移・動!!」
はぁ~これが瞬間移動ですか! と莉奈は、噛み締めていた。
そうなのだ、頭上で鳴った音はフェリクス王が鳴らした指の音。魔法を発動させた合図だったのだ。エギエディルス皇子に以前聞いた話だと、瞬間移動をするための【転送の間】という部屋があるって聞いていたのに、そこは使わないのか……。
なんのための部屋なんだよ? と思わなくもない。
後で聞いた話だと、いきなり王達が目の前に現れたら、驚き腰を抜かす人もいるので、なるべく着地点はそこにするのだそう。魔力の軽減にも使えるらしかった。
しかし、心の準備もあったものではない。ちょっとぐらい "行くぞ" 的な前置きが欲しい気もするが、それは王なので仕方がない。
それより、瞬間移動の魔法は、召喚された時の変な浮遊感とは違って、空間が一瞬歪む感じだった。遊園地のアトラクションみたいで、超楽しい!! 【門の紋章】超便利!!
「お前……楽しそうな?」
エギエディルス皇子が、呆れ笑いをしていた。
初めは大概怖がるものなのに、楽しむヤツがいるとは思わなかったのだ。いつも飄々としている莉奈が、小さい子供の様に興奮しているのが見てとれる。
「帰りもコレかな!?」
ワクワクしているのが、一目瞭然である。莉奈は楽しくて仕方がなかったのだ。
「……じゃね?」
チラリと兄を見たエギエディルス皇子。ここまで期待されて裏切ったら可哀想だ。自分がやってもいいが一応兄にお伺いをたてる。
「さて……どうするかな?」
と意地悪そうに薄笑いを浮かべ、部屋の扉を開けた。
「え~~っ!!」
莉奈は頬をぷくりと膨らませブーイングしながら、その後を付いて行く。
兄王は絶対からかってるな……とエギエディルス皇子は笑っていた。
◇◇◇
「うっわ~~っ!!」
王が開けた扉から後を追って出ると、通路を挟み眼下には竜のいる平地があった。竜の広場と言ってもいい。広さは遊園地なんかスッポリ入るくらいはありそうだ。
すご―――っい広―――っい!!
こんな広い敷地が、まだ王宮にあったのも驚きだった。
遊園地くらいはあるその平地に、軽い木の柵こそあるが色とりどりの竜が数匹……いや十数頭寛いでいるのがバッチリ見えた。
想像以上にその姿は優美で雄大……カッコイイ。ゲームに出てくるボス的なモンスターのドラゴンとはまったく違って少し細め、いわゆる "飛竜" という類いである。
だが、飛竜とも違いシルエットが竜よりで美しい。これはまさに "ドラゴンナイト" 竜騎士が乗るためのドラゴンだ。
"竜" という言葉がスゴく似合う。空を翔ぶために線が細いのだろう。
「エド……竜だよ竜!!」
幻想でしかない竜を見た莉奈は大興奮で、エギエディルス皇子の肩や背中をバシンバシンと叩いていた。
「わかったわかった! 痛ぇよ!」
よろめきながらその手から逃げる、エギエディルス皇子。叩かれた所をさすっていた。
「あっ!! ……陛下の竜だ」
一番奥に、周りの竜より少し大きな竜を見つけ、莉奈は迷う事なく指差した。
「……よくわかったな」
フェリクス王が驚いていた。
十数頭もいる中で一目見ただけで、よくその個体が自分の"番"だとわかったな……と素直に驚いていた。
「えっ? だって……」
「だって?」
なんだ? と王は促した。
……フェリクス王と同じく……漆黒だし。
"暗・黒・竜" !! って感じなんだもん。
「…………」
莉奈は、心の声をゴクリと飲み込んだ。
そんな事を素直に言ったら……不敬極まりないと判断する。
「強そう……だから?」
無難な答えを代わりに言ってみた。バカ正直に言う必要はない。
「…………」
王が目を細めた。これ絶対疑っているヤツだ。
「……い……色んな色の竜がいるのですね?」
莉奈は冷や汗を掻きながら、平然と笑ってみせる。こういう時は、自然に話題を逸らすに限る。
何か不納得な王が口を開けた瞬間――
「「「フェリクス陛下!!」」」
と王の姿に慌てたように来た軍部の人が、一斉に片膝を折っていた。どうやら軍部の人は左胸に右手を添えるのが主流らしい。
"心" "命" を捧げている表れだとか。
最近訊いて分かったけど、片膝は軍部が多く、両膝はそれ以外の人がやるみたいだ。ただ、この間みたいに謝罪する時とか……個人的に敬服度を示したい人は、如何なる時も両膝を折る様だった。
まぁ、フェリクス王は軽く御辞儀さえすれば、基本は何も言わないとか。その者を尊敬していれば、自然と頭が下がるだろう……と相手任せの様だ。
皆敬服しているのか、怖いのかは知らないけど……軽い会釈で済ます強者はこの王宮にはいない。(莉奈以外)
「ご視察でありますか!」
フェリクス王が手で起立の合図をすれば、立ち上がった1人が興奮した様に訊いた。王が来たという緊張からか歓喜か、少し高揚している。
「ああ……黒いのを見に……な」
と黒い竜をチラリと見た。
向こうもフェリクス王が来ているのに気付いたのか、ノシノシと優美にやって来た。
フェリクス王は莉奈に人指し指でチョイチョイと、付いてくる様に合図し柵に向かって歩き出した。莉奈は竜を近くで見られる……と、ワクワクしながら後に付く。
ちなみに、あの柵、竜のためではなく人のため。関係者以外がズカズカと竜の敷地に入らない様にだとか。
「あの少女は?」
「異世界から飛ばされてきた子じゃないか?」
「あっ! 料理の上手い子か!?」
フェリクス王の連れている、莉奈の姿を見た人達は、ボソボソと話をしていた。
ここに来る事はあっても、女性を伴って来る事はまずない。だからこそ目立つし、その者が誰だか気になるのだ。
王が来たことはすぐに広まり、次第に人だかりになるのだが莉奈は、まだ気付いていなかった。




