158 いざゆかん!
しばらくして、フェリクス王が部屋にやってきた。
「……お前には……すげぇ似合わねぇ部屋だな」
部屋をチラリと見渡すと、出迎えた莉奈に開口一番そんな事を言ってきた。
装飾品にピンクや赤系がない訳ではないが、主張しない淡い落ち着いた色合いの女性らしい部屋だった。女性らしさとは、程遠い莉奈にこの部屋はピンとこない。
当たり前の事なのだが、自分にも臆さない莉奈が、改めて女だと妙な感じであったのだ。
「では、私に似合う部屋を下さい」
失礼極まりないなと思いつつ、莉奈は腰に手をあて堂々と言い返した。
だって用意したのは、シュゼル皇子であって私ではないのだ。そんな事を言われる筋合いはない。逆に私に似合う部屋が、どんな部屋なのか訊きたいくらいだ。
それを聞いていたラナ女官長・モニカが、背後で慌てる様に謝っていた。
「お前は……」
フェリクス王は怒る事もなく困った様に笑い、くしゃりと莉奈の頭を乱暴に撫でた。こういうところが本当に、自分の知る女とは全く違うのだ。自分を知らない市井の娘にしても、こうはこない。
「あ~っ! もぉ、せっかくセットしたのに!」
莉奈はクシャクシャと大きな手で撫でられ、なんだかドキドキして顔が火照りそうだった。だから、わざと大袈裟に文句を言っていた。
王はそんな事情など知る訳もなく、ブツブツ文句まで言ってみせる莉奈に笑っていた。
「「「…………」」」
そんなフェリクス王を見て、エギエディルス皇子達は絶句していた。かつてないくらい、フェリクス王の優しい笑みを、見た気がしたのだ。
莉奈が、妙に気に入られているのには気付いていたが、あのフェリクス王の事だ、一時的なものか弟の事もあってとりわけ優しくしているのかと思っていた。
だが、違うと今ハッキリと分かった。弟の事を差し置いても、自身が気に入っているのだと、ラナ女官長・モニカは確信に変えたのであった。
◇◇◇
竜は軍部【白竜宮】〈ハクリュウキュウ〉にいる。
学校の校舎ほどの大きさの "白竜宮" の隣には、所属している皆の宿舎があり、その前に校庭の10数倍はある平地に竜はいるらしい。そして、その先に竜のいる宿舎があるとか。
契約した竜はそこで寝たり、その平地・広場で寛いだりしているらしい。まぁ……空を翔んでいない時もあるみたいだけど。
1番驚いたのが……実はこの王宮、低いとはいえ山の天辺にあったって事だ。竜の宿舎の先、200m先は崖になっていて、竜が簡単に飛来出来る様になっているとか。
高い塀の外なんて、見た事がなかったから知らなかった。皆も誰かしらから、聞いていると思っていたみたいで、エギエディルス皇子達含め改めて言わなかったそうだ。
「リナ……竜に会わせる前に注意しておく」
優しく笑っていたのが嘘の様に、平常運転のフェリクス王。軍部に向かうのかと思ったら、まだ向かわないらしい。
「なんでしょう?」
「竜は甲高い声を嫌う。見ても叫ぶなよ?」
怯えた表情を出せば舐められ、その人は騎士に選ばれる事もないらしい……が、莉奈は竜騎士になる訳ではないので、そこはどうでもいいとか。
とにかく女性の叫び声がキライで、不機嫌になるから、そこだけは注意しろ……と言われた。
「笑い声は?」
「あれの前で笑えるなら、笑ってみろよ」
変な事を平然と言う莉奈に、フェリクス王は笑っていた。
「さて、エディ……お前はどうする?」
「行くに決まってるだろ!! 俺を認めてくれる竜を探す」
エギエディルス皇子は、鼻息荒く意気込んでいた。
どうやら契約していない竜も、たまに気まぐれに遊びに来るそうだ。危険過ぎて崖っぷちにある竜の "ネグラ" に行けない彼は、今日こそは自分の番の竜を見つけてやると、気合いを入れていたのであった。




