154 ひっそり作るラスティ・ネイル
シュゼル皇子はからあげを揚げている間、それはそれは楽しそうにお行儀良く待っていた。
そんな弟とは対照的にフェリクス王は "帰りてぇ" ……と大層不機嫌気味に態度もガラも悪く、イラつく様に待っていた。
料理人、ゲオルグ師団長、近衛兵は王、宰相の許可が得ないため、全員顔面蒼白で正座のまま固まっていた。
……起立の許可はないのかよ。
小窓をふと見た莉奈はからあげを揚げながら、顔がひきつっていた。からあげ……失敗したら命がない気がする。
「……エド……あっちで待ってたら?」
彼が行けば少しは和むかもしれないし、なんだったら起立の許可くらい取ってあげて欲しい。
「え?」
と同じく小窓からチラリと見た。
小窓の前に作業台があるし、背が低いから多分良くは見えていないハズだが、ただならぬ雰囲気は読み取れたみたいだ。エギエディルス皇子は、しばらく固まっていた。
「……えっと……コッチでいいや」
自分ではどうにもならないし、あの空間にお邪魔するには勇気がいるからだ。莉奈は苦笑いをした。
「なぁ、カクテルも作るのか?」
莉奈が魔法鞄からお酒を取り出したので訊いてきた。
「シュゼル殿下にお酒を貰ったから……それでね?」
鼻先に人指し指をあて、声のトーンを少し落とした。例の "王家の秘酒" を使うからだ。バレたら後がコワイ。
「……あぁ」
勘のイイ皇子は、それですべてを察したのか小窓をチラリと見た。どうなるのか想像出来た様だ。
莉奈は、からあげを傍らで揚げ、その合間に王家の秘酒を使ったカクテルを作り始めた。皆がいたら作りづらいので、ある意味ちょうど良かった。
いつもはお洒落に氷を使って混ぜるところだが、カラカラと余計な音を立てて、皆の余計な注目は浴びたくないので、グラスの中で直接混ぜる事にした。
今回はワイングラスではなく、オールド・ファッションド・グラスで作る事にする。このグラスは 別名"ロック・グラス" といって、ウイスキーを入れて飲む時に、良く使われるグラスだ。
少し横幅があり、背の低い円柱の形をしている。
そこに「どうせ氷だろ?」と苦笑いしているエギエディルス皇子に、少し大きめの氷を1つ入れて貰った。
そのグラスにハーリス・ウイスキーと王家の秘酒ドランブイを、2対1で注いで混ぜれば出来上がり。
"ラスティ・ネイル" というカクテルだ。グラスがグラスなので、見た目は渋いオジサマに似合いそう。だが味は蜂蜜の入ったドランブイが入っているのでかなりの甘口。
このカクテル40種類のハーリス・ウイスキーが入った甘口のドランブイを、キリリとした辛口のハーリス・ウイスキーが締めて "至高の味" になるらしい。
何が "至高" で何が "究極" なのか……莉奈にはサッパリである。
フェリクス王は……飲まなそうだが、一応は用意しておく。皆にバレたらマズイから、2人には後でこっそりと渡そう。
ちなみにこれ、アルコール度数40もあるから、シュゼル皇子も兄王に負けず劣らず酒豪という事になる。しかし、あの方の酒癖は気になるところだ。
厨房には誰もいないが、一応辺りをキョロキョロと確認した莉奈はさらに声を潜ませた。
「ねぇ、エド……シュゼル殿下の酒癖って?」
気になって仕方がないし、誰もいない事だしコッソリと訊いてみる事にした。
「あ~~。それな」
エギエディルス皇子も、同じ様に辺りをキョロキョロする。あまり聞かれたくないらしい。莉奈に顔を近くに寄せろと、手でチョイチョイとした。どうやら教えてくれるみたいだ。
「シュゼ兄……酒を飲むと」
「酒を飲むと?」
「艶っぽくなるんだよ」
「へ?」
莉奈は目をパチクリさせた。艶っぽく……?
――――艶っぽくってなんだ?
……そして、想像してみてみた。
あの超人気アイドルも真っ青の、超絶な美貌のシュゼル皇子が艶っぽくなる姿を……。
ナゼか、はだけた浴衣を想像してしまったが……その瞬間、あ~~と納得した。
ただでさえ、見つめられたらドキドキするあの美貌に、艶っぽさが加わるのだ。まともに見られたら腰が砕けるだろう。
「だから人前で酒は禁止になってる。酔ったシュゼ兄に、正気を失う人間がいるから」
エギエディルス皇子が、苦々しく笑いつつさらに詳しく教えてくれた。お酒を飲んだシュゼル皇子は、傾国の美女ならず傾国の美男なんだそうだ。それも、男も女も関係なく虜になる程の艶っぽさだとか。
「あ~そう」
なら、見ないに越した事はない。多少怖いもの見たさはあるものの、遊び半分であの方にお酒を飲ませるのはやめようと、莉奈は心に刻んでおいた。
◇◇◇
ちなみにエギエディルス皇子は、まだカクテルを口に出来ないから、作っている間、少し口を尖らせていて可愛いかった。
莉奈はそんな姿を見て、いつか彼のために、カクテルを作ってあげようと小さく笑った。
さて……からあげもイイ感じに揚げ終わったので、莉奈は持って行く準備に取り掛かったのだった。




