152 魔王と魔物
ーー数10分後ーー
魔王様が食堂に現れた。
コマンド……どうする?
たたかう
まほう
にげる
→両膝を折る
選ぶ間もなく、皆は両膝を折った。
だが莉奈は……テーブルの下に隠れた。
――――ガガガーッ。
「お前は……何をしている?」
そんな所に隠れてもすぐに見つかり、フェリクス王は呆れた様に、その長い長い脚でテーブルを後ろに引いた。しゃがんでいた莉奈丸見えである。皆が皆両膝を折る中、お前は何故テーブルの下に身を隠す。
「かくれんぼですか?」
同行して来たシュゼル皇子が、首を傾げ楽しげに言った。予想を斜めにいく莉奈の行動が面白い様である。
「…………」
莉奈は、自分でも何故隠れてしまったのか分からない。エギエディルス皇子が、ロックバードも王を見て逃げ出すとか言うものだから、怖くてつい身を隠してしまったのだ。
うん、自分は悪くない……そう思った莉奈は、正直に言う事にした。
「末の弟君、エコロジー殿下が国王陛下を見ると、どんな魔物も裸足で逃げ出すとおっしゃられたので怖くて……つい」
莉奈は、改めて両膝を恭しく折ると、少しだけ尾ひれを付けて事実を言った。
そもそも魔物が靴なんか履いている訳はないから、始めから裸足だけど……ね? と内心笑っていた。
皆は思う……莉奈はナゼ毎回御名をわざと間違えているのだ……と、笑い事ではなくアウトだ。
「……えぇっ!?」
とんだとばっちりを受けた、エギエディルス皇子は目をパチクリさせ、思わず兄王をチラリと見た。
「……ほぉ?」
目を眇め末の弟を見下ろした。陰で兄の事をそんな風に言っているのか……と。
「……いやいやいやいや」
エギエディルス皇子はビクリと一つ肩を震わせると、冷や汗を掻きながら慌てて、首やら手やらを高速で振った。
「……そ……そこまでは言っていない」
「近い事は言った……と?」
言ってないと言えば良かったのに、兄王の圧にウソがつけなかった。
「…………げっ」
失言である。慌てて口を抑えたが、そんなの後の祭りだ。イヤな沈黙、重い空気がエギエディルス皇子と部屋を、押し潰し始めていた。
……クスクス。
そんな空気の中、ほのほのとした笑い声が響く。
「シュゼル」
フェリクス王はもう1人の弟を睨んだ。
「ダメですよ? エコロジーをイジメては」
「…………」
兄はさらに目を眇めた。
苛めた覚えもないが "エコロジー" で通すのか……と。
「そもそもが……本当の事ではないですか?」
とシュゼル皇子がイイ笑顔で言えば、場の空気が一気にピキリと凍った。
フェリクス王の眉間の皺が深くなったせいなのか、シュゼル皇子が放った爆弾発言のせいなのか。フェリクス王が強いのは自国では老若男女、誰もが知っている事実だ。
だが……魔物が逃げ出す程とは聞いてはいない。
……ロックバードだけじゃないのかよ。
莉奈は、ドン引きを通り越し目眩を起こしていた。
「……話を盛るな」
フェリクス王は舌打ち混じりに、低い声で言った。大袈裟だと言いたいらしい。
「では、一つお訊きしますが、スタンピードの時はともかくとして、それ以外で最近外に出られた時、魔物に襲われる事がありましたか?」
「…………」
"外" というのはいわずもがな、王宮を囲む塀の外。
フェリクス王の、眉間の皺がさらに深くなった。"是" と即答しないのが、シュゼル皇子の話がフィクションでない事を物語る。
……と、いう事はフェリクス王に向かって来る魔物は、狂暴、強者な魔物か……知能が低い魔物という事になる訳である。
莉奈は、フェリクス王が魔王だという事を確信に変えた。
「「「…………」」」
皆は絶句、顔面蒼白。カタカタ震えている人もいる。魔物より恐ろしいモノがこの国の頂点にいる……と。
皆は自然と深く深く頭を下げていた。
フェリクス王を良く知っている……と自負していたゲオルグ師団長も、唖然としていた。だが、よくよく考えてみれば不可思議な事は多々あった。
王に随行し魔物討伐に向かった時、やけに魔物が少ないとか、魔物が騒いで逃げ出すとか。自分達がいて小物が畏れをなし逃げ出していた……と勝手に勘違いしていたが、そういう事かとストンと腑に落ちた。
自分達が討伐していた時、確かに少しばかりは小物も逃げ出してはいたが、フェリクス王がいる時とは段違いだった。
ゲオルグ師団長は、ますますフェリクス王に敬服するのであった。
◇◇◇
「……で、リナ……ゲオルグに聞いたのですが、魔物ロックバードが食べられたとか」
魔王様の話はさておき、席に座ったシュゼル皇子が、改めて訊いてきた。ゲオルグ師団長に詳細を聞き【鑑定】をした莉奈に問うために来たのだ。
「食べれましたね。普通むね肉はパサつく事が多いのですが、脂も良くのっていて、美味しかったですよ?」
と莉奈は、事細かに説明をした。
鶏肉のむね肉は、普通に焼けばパサつく事が多いが、ロックバードのむね肉は、ほどよく脂ものっていてジューシーだった。
軟骨は大きいし固いしで論外だが、ボンジリ等も臭みがあったりで食用には向いていない様だ。しかし、これだけの量が取れればもうけものだ。
「……美味しかったのですか」
「美味しかったですね」
「……で?」
「…………で?」
そう問われて首を傾げる莉奈は。"で" とはどういう事だろうか。
「私達には……?」
分かっていない莉奈に、シュゼル皇子はにこやかに微笑んだ。
自分達の分は……? と。
「……」
そういう事かと納得し、残っていたっけ? と莉奈は周りを見る。エギエディルス皇子、ゲオルグ師団長達と自分のを焼いた後の事は知らない。皆に放り投げたからだ。
皆はブンブンと顔を真っ青にさせて振ったり、涙目で手を高速で振ったりしていた。要するに "ナイ" という事らしい。
またしても、王と宰相の存在を忘れ平らげたみたいである。まさかの学習能力ゼロ。
「皆様のお腹の中に消えました」
と皆を指差しニコリと笑った。
……リナ――!?
と心の中で皆は叫んでいた。いや、もはや大絶叫である。
確かに食べてしまったけれども、王や宰相に是も非も言える強靭なメンタルの莉奈に、どうにかして欲しいと願っていたのだ。
なのにサラリと、こちらにブン投げて来た。絶叫が口から出なかっただけでも奇跡だ。気の弱い料理人はブクブクと泡を噴いてぶっ倒れていた。




