151 魔物より怖いモノ
「……殿下、まだお酒を嗜むのは……」
食事を終えたエギエディルス皇子が、優雅にワイングラスを傾けていた。それを見たゲオルグ師団長が、至極恐縮そうに注意する。
エギエディルス皇子と莉奈は、顔を見合わせてクスリと笑った。赤いククベリージュースは、ワイングラスに入っているせいか狙い通り赤ワインに見えた様だ。
「ゲオルグ……一口飲んでみろ」
面白そうにワイングラスを、ゲオルグ師団長に差し出した。
「いや……しかし、職務中ですので……」
「俺が許す」
とエギエディルス皇子がさらに勧めれば、ゲオルグ師団長は渋々それに口を付けた。
―――ゴクリ。
「……え……?……甘い」
ゲオルグ師団長は口にした瞬間、瞠目していた。
"ワイン" だと頭ごなしに考えていた。だが、甘く一切酒精を感じない "コレ" に今度は眉をひそめる。
「それ、酒じゃねぇよ。酒モドキってやつ」
騙せた事に大満足なのか、意地悪そうに口端を上げた。
「酒……モドキ」
「ただのジュースだよ。コイツが作ってくれたんだ」
と顎で差すように莉奈を見た。それにならってゲオルグ師団長も莉奈を見る。
「お酒を飲めない人用に……と作ってみたんですよ」
人を顎で差す皇子に呆れながら、驚いているゲオルグ師団長に言った。
そこまで驚かせたのなら、このジュース "カクテルもどき" の意図として大成功である。
「……なるほど」
ゲオルグ師団長はワイングラスを傾け、ククベリージュースを見ると感心した様に頷く。確かにお酒を嗜めない人には、こういうのも有りだと感心していたのだ。
◇◇◇
「はぁ~腹一杯」
エギエディルス皇子は、満足そうにお腹をさする。美味しい上に、少しだけ大人の気分を味わえて、気分がイイ。
魔法鞄からミルクセーキを取り出し、食後のデザート代わりに飲もうとしていた。
「しかし、ロックバードがこんなにも美味しいとは……今まで勿体ない事をしてましたな」
王宮や宮を囲む塀を出れば、そこかしこに魔物はいる。ロックバードも、少し離れた場所になるとはいえ、何処にでもいる魔物だ。それを今までに、何百と倒して破棄していたかと考える。
「だよな~」
「とにもかくにも、まずは陛下にお伝えして判断を仰ぎましょう」
ゲオルグ師団長はガタリと席を立つ。
そう、美味しいと分かったからといって、近衛師団の自分がホイホイと勝手に討伐する訳にはいかない。
「……だな」
とエギエディルス皇子が、自分が報告に行くと立ち上がれば、ゲオルグ師団長は「殿下はどうぞ、そのままで」と足早に食堂から出て行った。
「……食べれる様になるといいね?」
莉奈は、もはやシェイクだかミルクアイスだか、なんだか分からなくなってしまった物を口にする。だが、味は美味しい。
「食べれるんじゃね? 鶏肉だってそんなに量はないし、安定供給出来てる訳じゃねぇ。ロックバードの許可が下りれば……末端の市民にも届く程の量が確保出来るしな……まぁ、危険は伴うけど」
食後のミルクセーキを飲みながら、エギエディルス皇子が言った。これまたグラスを傾けながら、楽しんでいた。
「罠とかで、簡単に捕まえられないの?」
猪とか熊とか捕まえるみたいに? と莉奈は考えてみる。
「あー……"ロックバード" は闘争心が強いんだけど、その分警戒心も強いから、罠とかあんま引っ掛からねぇんだよ。それにアイツ等フェル兄をチラッと見ただけで、ギャーギャー言ってすげぇ勢いで逃げてくんだぜ? 臆病なんじゃね?」
……絶対違う!!
「…………」
莉奈は、ドン引きした。絶対臆病とかじゃない気がする。
―――魔物が逃げてく "王様" ってナニ?
……こっわ……やっぱ魔王じゃん!!
みなさ~~ん、この国 "魔王" が治めていますよーー!!
ここは王宮は王宮でも……"魔王城" だった。




