150 美味しければいいんじゃない?
「何を……食っている?」
ひっそりと戻って来たゲオルグ師団長が、低い声で訊いた。
部下である近衛師団兵が、美味しそうに食べている物をゲオルグ師団長が、静かに見下ろしている。
自分がフェリクス王に、無事の帰還と報告をしている間に、コイツらは何を美味しそうに食べているのだ……と。
「「「……えっと……肉?」」」
上司が1人報告に行っているなか、先に食べていたのはマズかったと、今さらながら戸惑っていた近衛師団兵。
「…………」
ゲオルグ師団長のこめかみがピクリと動いた。そういう話ではない!! と言っているのだろう。
気まずいというか、イヤな空気が流れた。
「あっ、ゲオルグさんおかえりなさい……ゲオルグさんのもありますから、こちらにどうぞお座り下さい」
と莉奈は、自分の隣の席を勧めた。
ピリピリとした空気の中、皆が恐々していると、莉奈は、そんな空気をものともしないのか、何事もない様にしていた。
「……」
莉奈の声に振り向きつつ、まだ部下の態度に不機嫌気味。
「チーズオムレツとロッ……チキンソテーがありますよ?」
莉奈はグッと飲み込んだ。ヤバイヤバイ……あやうくロックバードと、口を滑らすところだった。先に言っては面白くないよね。
「リナに免じて……よしとする」
ゲオルグ師団長がそう言えば、やっと近衛師団兵はホッと息を吐いた。本来なら報告を待つべきだったからだ。
◇◇◇
「……っん!!」
ゲオルグ師団長は、念願のチーズオムレツを一口頬張ると、フニャリと頬が緩んだ。その瞬間、先程までのピリピリした空気が和らいだ。
「はぁ~っ……ふわふわでウマイなぁ」
とニコニコと笑いながら、お皿に盛ってあったチーズオムレツを3口で平らげていた。
……一口デカっ!!
莉奈は、あまりの速さと一口の大きさに、ビックリしていた。
ゲオルグは手のひらサイズはあったであろう、チーズオムレツをたった3口で食べたのだ。普通のサイズでは足りない様だった。
「……足りなければ……どうぞ?」
絶対に足りないと感じ取った莉奈は、自分の分に作っておいたチーズオムレツを魔法鞄から取り出してあげた。
「おぉ!! 悪いなリナ……お礼にポーションをあげよう」
と魔法鞄から取り出し、莉奈の前にコトリと置いた。
……ナゼ?
莉奈は予想外、斜め上の行動に言葉が出なかった。
まぁ……くれるなら貰いますけど。莉奈は、お礼を言うと魔法鞄にしまった。
「はぁぁ~~っ。チーズオムレツは旨かった~。さて……チキンソテーを」
チーズオムレツの余韻も堪能しながら、チキン……ロックバードのソテーにナイフを入れた。誰も何も言わないので、ただの鶏肉だと思っているに違いない。
「……!? うんっまっ!! なんだこの鶏肉……スゴいウマイ!」
ゲオルグはこれまた大きな口で、頬張るとその美味しさに目を見張っていた。
「……だろ? それ……ロックバードの肉なんだぜ?」
エギエディルス皇子は、チーズオムレツを頬張りつつ、ニヤついていた。知らないで食べてる姿が面白い様だ。
「……ぐ?」
聞き間違いかとゲオルグ師団長は、咀嚼を止めた。エギエディルス皇子はさらに、人の悪い笑みを溢した。
「ロックバード」
「ブフッ!!」
ゲオルグ師団長は吹き出した。
「きったねぇな~」
斜め向かいにいたエギエディルス皇子は、危うくゲオルグ師団長が吹き出したモノが、掛かるところであった。
「ロ……ロ、ロック……バードーー!?」
あまりの衝撃にゲオルグ師団長が叫んだ。あの魔物ロックバードと言われ、目を見張っていた。
「いやいやいや……冗談ですよね?」
自分の声に少し冷静になったのか、もう一度考え冗談だと思ったみたいだった。
「いや? マジでロックバード」
なっ? と皆を見る。皆は苦笑いしつつ何度も頷いた。
「は? いや……だって……魔物ですよ!?」
その様子に皆が騙しているとは思えなかった。……が、それでも信じきれないのか、皿と皇子を見た後エギエディルス皇子にもう一度確認する。
「だよな~。俺も一部始終見てなきゃ信じられねぇし」
と自分のロックバードをパクリ。その美味しさに舌鼓を打ちつつも、ただ出されただけでは、信じられないだろうと思った。
「……い……いや……でもナゼ食べようとなど……」
そうなのだ。今まで誰も食べようとしなかった"魔物"を、何故急に食べようとしたのかが疑問だった。ロックバードの皿を見ながら、まだ呆然としながらも投げ掛けた。
「あ~……コイツが【鑑定】したら"食える"って、表記されてな? 食ってみたって訳」
と小さく笑うエギエディルス皇子。
莉奈が【鑑定】を使える事も、そんなオプションがある事も今初めて知った、ゲオルグ師団長は隣に座る莉奈をマジマジ見る。
「 "美味しいは正義" ですよね~?」
そんなゲオルグ師団長に苦笑いを返し、莉奈はゲオルグ師団長が汚したテーブルを布巾で拭いていた。そんな目で見られても何も返しようがない。
「確かに……美味しいは正義だが……」
何か腑に落ちなくもない……と小首を傾げながらも、美味しければいいかと、ロックバードに舌鼓打っていたのであった。




