147 リナ、魔物ロックバードを食す
「お……おま……」
「リ……ナ!?」
「……魔……物を……食べる!?」
皆は驚愕し過ぎて、言葉が出ない。パクパクと鯉の様にしているだけだった。信じられないのだろう。もはや……狂気、脅威、凶行としか言えない行動だ。
「食べるよ?」
莉奈は、もう一度言った。だって絶品と表記されてるんだもん。食べるでしょ?
「マ……ジで?」
「マジマジ、大マジ」
エギエディルス皇子が、確認する様に訊いてきたので、当然の様に返した。
「「「「「…………」」」」」
改めて聞いたその言葉に、一同唖然呆然である。かつてそんな強者がいたであろうか……。
「い……いや……だけど【瘴気】の触れた魔物を食べるのは……」
男の近衛師団兵の一人が、少し放心状態に似たか細い声で言った。長時間【瘴気】に触れ育った生き物……ましてや魔物を食べるなど、絶対にあり得ないのだ。
「ん、でも【鑑定】で食用って出てるし食べるよ?」
しかも "絶品"……それに、魔物を食べるいい機会だ。日本にいたら絶対に食べれない。
「「「マジで!?」」」
エギエディルス皇子だけではなく、全員がさらに驚愕していた。
莉奈の技能が【鑑定】だと聞いてはいたが、そんな詳しく表記されているのには驚きだった。
鑑定士がまず稀少。基本はそれが何か……後はその人の能力により何が特化しているかが変わる。要はオプションだ。
それが "何なのか" のみの【鑑定】もあれば、ラナ女官長みたいにスリーサイズが測れるオプションもある。
莉奈は、その物が食べられるか否かが、オプションになっていたのだ。
「「「「「………………」」」」」
唖然呆然とはこの事みたいだった。何をどうツッコんでいいのか……皆はただただ、顔を見合わせたりしているだけだった。
◇◇◇
――――小1時間後。
ロックバードは "お肉" になった。
莉奈の言う通りに、モモ肉とむね肉を捌いてくれた。厨房のテーブルにドカーンと載っている。身はプリプリっとした、キレイなピンク色のデカイ鶏肉である。
近衛師団兵は魔物の解体も教わるらしくて、肉の断面はとてもキレイだった。
「……で?」
エギエディルス皇子が、どうするのだと訊いてきた。こいつマジで食べるのかよ……って顔をしている。
「まぁ……味をみない事には分からないから、味見用に少し焼く」
莉奈は、普通の鶏肉の何百倍もデカイ"モモ肉"を、まず味見だと手のひらサイズの大きさにナイフで切り取った。ナイフがよく切れて分かりづらいが、肉質としては結構な弾力がある。
そして、そのモモ肉をさらに一口大に切り分けると、温めておいた小さなフライパンに並べた。
――――ジュッ。
肉が焼ける心地いい音がする。そして音と共に、鶏肉の焼けるいい匂いが厨房を駆け巡り始めた。焼いている肉からは、鶏の脂がジュワリと染みだしている。
いい具合に脂がのっている証拠だ。フツフツとそれがまた、堪らない匂いを出していた。この脂で野菜を炒めたら、それだけでご馳走になるだろう。
「すげぇ……いい匂い」
エギエディルス皇子が呟いた。
魔物を焼くのも初めてなら、誰かが食べるのも初めてなのだ。まさかこんなイイ匂いを放つとは、想像もしていなかったのだろう。
―――ゴクリ。
皆もあれだけ、散々な事を言っていたのに、この匂いを嗅ぐと自然と生唾が出るから不思議だ。
莉奈は、両面をしっかり焼くとパラパラと塩を振った。味見だからただの塩焼きである。キレイなきつね色にこんがりと焼けた。
「……完璧」
莉奈は、ポソリと言った。小皿に盛ったロックバードのモモ肉は、普通の鶏肉と寸分の違いもない。匂いも見た目も完全に鶏肉だった。
「……では……いただきます」
不安、怪訝そう……いや、若干ヨダレを垂らしている者もいるが、莉奈は皆が見守る中、それを一口で頬張った。
―――モグ。
口に入れた瞬間莉奈は、目を見張った。まず、鶏肉の脂が美味しいのだ。しつこくない味……そして噛むと、ものスゴい弾力が歯に伝わった。
モグモグモグモグ。
ロックバードのモモ肉を、今度はしっかりと噛み味わった。噛めば噛む程、溢れる程の美味しい肉汁が口いっぱいに広がる。
「……う……」
莉奈は、口を押さえプルプルと震えていた。
「……お……おい……リナ!?」
表情が見えないが、微かに震える莉奈をエギエディルス皇子が、心配そうに覗き込んだ。やはり魔物を食べさせるべきではなかったかと……。
「うんっっっまぁ~~い!!」
そんな心配をよそに莉奈は、あまりの美味しさに声を上げた。
地鶏なんかより味が濃く、弾力のある肉からは溢れんばかりの旨味……肉汁が出てきていたのだ。歓喜に震えるとはまさにこの事だった。
「「「……えぇェェェっ!?」」」
皆が驚愕して叫ぶ様な声を出した。まさに絶叫と言ってもいい。
「うっま~~マジでうっま~」
莉奈は叫ぶ皆を無視して、もう1つ口に放り込んだ。
地鶏よりこっちの方が美味しいくらいだ。スープに入れたら鶏コンソメとはまた違った、簡単で美味しい鶏出汁が出て最高に違いない。
「……う……まい……のかよ!?」
エギエディルス皇子が目を丸くしていた。不味いと言うのかと想像していたらしい。
「マジでうまい、超最高!!」
と、さらに莉奈はもう1つ口に頬張った。病み付きになる味だ。正直こっちの方が鶏の味が濃いので、個人的にはロックバード派だ。
……アハハ……"ロックバード派"。
自分で言ってなんだけど、鶏は何派? ロックバード派……そんな事を言う日が来るとは思わなかった。おかし過ぎる。
「「「…………」」」
信じられないという皆の表情。確かに匂いは美味しそうだが……あの魔物 "ロックバード" だぞ?……と。だが、表情とは裏はらに喉がゴクリと動いていた。
「……1つちょうだい」
皆が今までの常識と現実に葛藤していると、莉奈の言葉と匂いに負けた者がいた……リリアンである。
「はい」
莉奈は、こんがりと焼けたロックバードを、リリアンに差し出した。論より証拠、食べたが勝ちである。
リリアンは皆が注目する中、躊躇する事なくその小皿にのったロックバードを1つ頬張った。
「んん!?」
リリアンもその脂の味にまず驚いている様だった。そして咀嚼すると肉汁が溢れんばかりに出てくる。堪らない美味しさだ。
「アハハハハ!!」
あまりの美味しさに、リリアンは壊れた。
ブックマーク・評価して下さり、ありがとうございます!!
励みになります ヾ(≧∀≦*)ノ〃




