141 アンナの幼馴染み、リリアン
「なぁ、リナ」
……あんぎゃあ~~!!
莉奈はふいに声を掛けられ、後ろめたさから、危うくそう叫びそうだった。
「……ん゛っ……なに?」
だが莉奈は、いたって平静を保ち、首を傾げてみせた。
ヤバイヤバイ……叫んだら怪しまれるよ。
「その、カクテルも冷やしてグラスに?」
マテウス副料理長が、スモーキー・マティーニの入った寸胴を指差した。他のは注ぎ終えたらしい。
「あ~うん、おねがい」
と少し横に退いた。良かった良かった……バレてない、莉奈はホッとした。
しかし圧巻だ。トレイに乗った何百とあるグラス。そのすべてにカクテルが注ぎ込まれてある。さながらパーティーでもあるのかと、錯覚する。だが、あっという間になくなるに違いない。
以前ポタージュスープを作った時、実は足りなかったらしく……魔法省の人達には、配れなかったそうだ。後から聞いて、苦笑いした。
軍部、魔法省、そして各宮……総勢500人以上は勤務しているこの王城に、あれだけのスープでは足りないよね? 知らなかったとはいえ、悪い事をしてしまった。
魔法省の長官タールとも、あれから全然会ってないし、近いうちに何か作って会いに行こう。軍部は……まだ行った事がないので、1度は行ってみたいなと思う莉奈だった。
◇◇◇
「なぁ、さっきからチョイチョイ"カクテル"パクってるけどリナ飲まないだろ?」
若い料理人が不審そうに声を掛けた。
莉奈が先程から、出来上がったカクテルを数ヶずつ、魔法鞄にしまっていたのだ。酒を飲めないのにどうするつもりなのか。
「私は飲まないけど、陛下とか殿下とか……なんだったら説教魔神に持って行かなきゃいけないでしょ?」
と言いながらも、ホイホイ魔法鞄にしまった。
「説教魔神……って」
莉奈の言い方に一同苦笑いしていた。"あの" イベールを説教魔神なんて呼ぶのは莉奈だけだ。
大体莉奈が、何かをやらかすから "説教" に繋がる訳で……イベールもしたくて、している訳ではないのでは? と口から出かかっていた。
「でも……結構な数、鞄に入れてたよね?」
数少ない女の料理人が言った。陛下達だけにしては、数が合わないからだろう。そんなにどうするのか気になった。
「今後の賄賂」
「「「「「…………」」」」」
お前は何をやらかす気だ。そして、賄賂とか言っちゃうのか……と皆は言葉が出なかった。
「あっ、エドのミルクセーキ作らなきゃ」
莉奈は肝心な事を思いだし、冷蔵庫から牛乳、卵、砂糖を取り出した。お酒の入っていないカクテル。それはミルクセーキであった。
「何? ミルクセーキって」
近くにいた女の料理人がワクワクしていた。エギエディルス皇子に作る物なら、お酒ではないと予想出来たからだ。
ちなみに、この女の料理人。リリアンといって警備兵アンナの幼馴染みらしい。何か美味しい食べ物にありつけるかも……という理由だけで、料理人を目指し今に至る。顔は可愛いのだが、アンナに性格が似ているのがたまにキズ。
「エド専用カクテル」
「そんなのいつ決まったの?」
リリアンは眉を寄せた。そもそも "カクテル" 自体が今までなかったのに、ナゼ専用なのか。
「今」
「…………」
リリアンは納得がいかないのか、莉奈の顔をジッと見ていた。莉奈はそれを無視。
小鍋に水を少し入れ、温めて砂糖を溶かす。シュガーシロップがあればそれを使いたいのだが……ない。代わりに水に砂糖を溶かして代用する事にしたのだ。
「…………」
リリアンは莉奈の作業中も、ジッと顔を見ていた……見続けていた……そう、手元ではなく顔をだ。正直……ウザい。
生卵をそのまま使うので、アイスクリームの時には忘れた "浄化" 魔法を誰かに掛けてもらう事にする。
「…………」
誰に頼もうか……とキョロキョロしたが、リリアンがまだジッと見ていた。背格好がほぼ一緒なので、目線も目の前。マジでウザい。
――――ガツン!!
「いったぁぁ~~い!!」
リリアンが涙目でしゃがみ込んだ。莉奈が頭突きをかましたからだ。
ただでさえ注目されてやりづらいのに、目線が同じ高さのリリアンに、やる事なす事見られウザかったのだ。皆はやられたリリアン側に同情したのか、痛さに顔を背けている。
「アンナ並みにウザい!!」
正直頭突きした莉奈も、痛み分けだがイラッとしていたので、痛さは気にならなかった。
「アンナと一緒にしないでよ~~!」
額を押さえたリリアンは、涙目ながらも訴える。
「なら、おとなしくせい!!」
莉奈はそう言うと "浄化魔法" を使える人に、生卵の浄化を頼んだのだった。
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
作者はタイトルを付けるのが苦手です。そのうち……タイトルがなくなるかもしれません。
なくなった時は、あっ……こいつ諦めたな……と思って下さい(笑)




