138 地響き
「ちなみに、それ誰のために作っているんだ?」
リック料理長の脇にいた、マテウス副料理長が訊いてきた。
自分自身のためにもあり得るが、3個目を作り始めていたから、おかしいと思ったみたいだ。
「討伐訓練に行ってる、エドとゲオルグさんの」
後は自分の……と莉奈は、最後の言葉は飲み込んだ。言わなくても分かってる様な気がしたからだ。
「ゲオルグって……あの近衛師団のゲオルグ=ガーネット?」
リック料理長は少し驚く。近衛師団は宿舎もあり、軍部の食堂で主に食べる。兼任している警護兵なら分かるが、師団長はここに食べに来る事もほとんどない。
「そう」
「え? どうやって知り合ったんだ?」
リック料理長は、やはりゲオルグ師団長の事だと知り、さらに驚いていた。なんなら何故、名前で呼ぶ仲なのかが知りたい。呼べる人間なんて数える程しかいないのだ。
「さっき、エドと討伐訓練に行くって」
「あぁ……そういう……って、師団長とすげぇ親密じゃね?」
今度は小窓から覗いていた、警備兵の1人が驚いて言った。知り合った経緯は分かったものの、そこまでの親密度はいつ上げたのか疑問である。
「親密……? ん? さん呼びが?」
莉奈は、首を傾げた。さっき会ったばかりの師団長と親密も何もない。
「ちげぇよ。あの人を名前で呼ぶ人なんて、そうそういないぜ?」
「え? みんなは、なんて呼んでるの?」
「ガーネットさんか、ガーネット師団長」
「あ~~」
莉奈はなんとも言えない表情をした。良く良く考えたら普通はそうだ。
初めから、何故か呼び捨てでイイなんて言うから、気にもしなかったけど……おかしな話である。呼び捨てで呼んでたら、余計に皆に怪訝な顔をされていたに違いない。
「リナ、余程気に入られたんだな」
リック料理長が感嘆していた。あの師団長を名前で呼ぶなんて、余程の人しかいない。
「…………アハハ」
莉奈は、なんとも言えない表情をした。だって、気に入られたのは私自身ではないと、断言出来るからだ。
作る物が気に入られているだけであって私ではない。それが複雑ではなくて、何が複雑なのだ。
「な~。それ、俺も食いたい」
3個目のチーズオムレツを作り終え、魔法鞄にしまった時、小窓から覗く警備兵が挙手して言った。
案の定と云うか、予想通りと云うか。
「カクテルとどっちがイイ?」
莉奈はニコリと笑った。もちろん両方なんて却下だ。
「…………っ」
莉奈の、予想外の返答に押し黙った。どうせダメだと言われると覚悟の上だったからだ。
「カ……カクテル……って言ったら作ってくれるのか!?」
カクテルとは、お酒を混ぜて作る至高の飲み物と、リック料理長達に聞いていた警備兵達は、さらにざわめき始めた。
どっちかを選ばせてくれるのなら、そういう事なのだろうと解釈した警備兵。皆は期待の眼差しで、莉奈の次の言葉を待っていた。
「う~ん。お酒が飲める人は、ジンライムのシャーベットかカクテル。飲めない人は、ククベリーかレモンのシャーベット? 甘い物もダメなら、チーズオムレツを少し……なんてどう?」
どうせ作るつもりだったし、カクテルは混ぜるだけだから別に自分が作る必要はない……と莉奈は思っていた。
「「「うぉぉぉ~~~っ!!」」」
莉奈がそう提案すれば、厨房、食堂にいたすべての人間が大歓声を上げた。何かしらは必ず、全員の口に入ると分かったからだ。
ゴゴゴ……とその歓声の大きさで、まるで地震の様な地響きが広がる。
まだ交代時間ではない人達が、何事だと覗きに来たのは、それからしばらく経った頃だった。もちろん、その人達の分もあると約束させるまで、出てはいけなかったのは……いうまでもない。
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