137 なんで、揉めるのかな?
【王家の秘酒】ドランブイ。
40種類ものハーリス・ウイスキーに、ハーブや蜂蜜を混ぜた、至極贅沢なリキュール。
ウイスキーなのにリキュール?
って、お酒を飲まない人は思うかもだけど、そもそも "リキュール" って、ラテン語で "溶け込ませる" って意味する言葉が語源とか。
ハーブや蜂蜜はもちろん、果実、ナッツ、クリームなどの材料を、蒸留酒に加えて、香りや風味を溶かし込んだもの。
だから、ラム酒をベースにココナッツの香りを引き出した、リキュールもあれば、コニャックをベースにしたリキュールもある。
"液体の宝石" って呼ばれ、リキュールはカクテルのベースになる事が多い。
……お母さんに、飲ませてあげたかったな………。
このお酒、ハーブと蜂蜜を加えて作ってあるから、すごい甘口のお酒。お母さん好みのリキュールなのだ。
甘党のシュゼル皇子らしいお酒だなと思う。
そういえば、スパイス、ハーブ系のリキュールって、薬の代わりに飲まれてた……って聞いた事がある。
まさか………シュゼル皇子……ポーションとこのお酒だけで………。
アハハ……そんな事…………ある!!
う~ん……しかし……。
王家の秘酒ですか。
莉奈は厨房に行く足取りが、次第に重くなっていた。これは、酒呑みの様子を見てから、出すかを決めよう。あの人達が分ける……絶対にムリだから。
◇◇◇
半ばイヤイヤ厨房に着くと、中はやけに静かだった。
そう………嵐の前のなんとやらである。
「あっ!!」
「リナが、戻って来た!!」
「リナ!!」
莉奈の姿が見えると、パッと顔が明るくなり、にわかに厨房に活気が戻ってきた。
しかし、先程までの静けさは一体?
「なんかあったの?」
イヤな予感しかしないから訊きたくはないけど、そうも言ってはいられない。無視は出来ないし。
莉奈は、原因が何か訊いてみた。
「俺達にも、ジンライムのシャーベットくれたっていいよな?」
「あたし達も、シャーベット食べたいんだけど?」
食堂に繋がる小窓から、警備兵達が顔を出した。
先程までいなかった警備兵達が、食事休憩に集まっている様だった。
話を聞く限りだと、シャーベットを誰が食べるか、どうやってそれを決めるか揉めていたら、警備兵達の休憩時間になって、さらに分け方で揉めていたそうだ。
「……………………」
だ~か~ら、さっさと、決めないからそうなるんだよ。
食堂には、軽く100人はいるでしょ、これ。
「リナ! どうすればイイ!?」
リック料理長が、半ば涙目で訴えてきた。
揉めに揉めて、収拾がつかなくなってき始めた頃に、莉奈が丁度戻ってきた様だ。
「なんで、揉めるのかな~~?」
莉奈は呆れながらも、冷蔵庫から卵や牛乳、チーズ、バターを取り出した。ゲオルグ団長のチーズオムレツを忘れる前に、作っておかないとね。
「だって……!! 人の数と物の数が合わないか……って、リナ何を作るんだい?」
話半分で、莉奈が何かを作り始めたので、皆は黙り始めていた。
「あ~。ちょっとチーズオムレツを、ね?」
面倒くさいから、黙っていたいけど、この人数相手には無理でしょ。
「「「チーズオムレツ」」」
誰ともなく呟く。一体誰のために?
揉めに揉めて昼食も、儘ならないままでいるので、皆の目がギラつき始めたけど……無視する事にした。良い子は見たらいけませんって状態だし。
莉奈はパカパカと卵を割って溶くと、そこに牛乳を少し入れて軽く混ぜていた。
今、気づいたけど、菜箸があるんだよね。なんだったら、この間なかった、調理器具とか色々と増えている。泡立て器なんてなかったから、話し半分で言った事を誰かが聞いて作ったのかな?
端には給食室とかで見た事のある、100人分以上のスープ類が、一遍に作れる大鍋まであった。あれ、朝にあったっけ?
「先程、搬入したばかりなんだよ」
莉奈がマジマジ見ていたら、リック料理長が答えてくれた。だから、さっき来た時はなかったのかと納得する。
「スゴいね?」
あんなのTVか、給食室でしか見た事ないよ。大きいヘラで、グリグリするのは、スゴい面白そうだ。
「あれば便利だから、軍用のを1つ頼んどいたんだ」
「あ~、軍用」
なんだ……芋煮の会とかの、大鍋ではなかった。
「しかし、何度見てもその技……スゴいよな~」
見習いの料理人がため息混じりに呟いた。リック料理長、マテウス副料理長等の一部の人達は、出来る様になっているみたいだが、まだまだ出来ない人も多いみたいだ。
莉奈が、フライパンに卵液を入れた途端、空気を含ませながら、菜箸で手早くかき混ぜ始めた。そして、半熟になるとチーズを乗せる。
トントンとフライパンの柄を叩き、あっという間にふっくらと包んでしまった。それを見てさらに、ほぅとため息が聞こえた。
「慣れだと思うよ? 失敗したら、スクランブルエッグにしちゃえばイイんだし、どんどん作っちゃいなよ」
莉奈だって、初めから上手く出来た訳ではない。焦がさなきゃ多少崩れた所で、別に味には大差はないだろう。
これだけの人数分を作っていけば、あっという間に習得出来るに違いない。失敗を恐れ過ぎてあれからあまり、練習が出来ていないとか。
「そうだな……朝食の時に、やってみるか」
莉奈の強い後押しに、見習いの料理人達は、再びヤル気を出した様だった。




