136 王家の秘酒
やっと執務室から出れた莉奈は、厨房に向かっていた。
氷の執事様こと、イベールの説教は免れたけど……色々作らなければならない物が、増えたという……。
ちなみに、ゲオルグ師団長が付いて来ようとして、フェリクス王に睨まれていた。
何故なら、そもそも、フェリクス王に召喚されて、執務室に来たというのに、スッカリ忘れてたからね。念願のチーズオムレツで頭が一杯だったらしい。
何故、ゲオルグ師団長が呼ばれていたか……。
エギエディルス皇子、今日は外で魔物相手に討伐の実地訓練なのだそう。だから、近衛師団の師団長が呼ばれ、彼と数名がチームを組んで行くのだとか。
その大事な話をガッツリ忘れて、ウキウキ莉奈と一緒に、厨房に向かおうとすれば、叱責も当然な話だ。
エド……大丈夫なのかな……?
フェリクス王達曰く、エドもそれなりに強いらしいけど……。
……心配だよね。
戻って来た時に、何か美味しい物でも沢山食べさせてあげようかな。そんな事を考えながら、莉奈はのんびりと厨房に向かっていた。
◇◇◇
ゲオルグ師団長に提供してもらったのは、ドライ・ベルモットとウイスキーを5本ずつ。
ウイスキーはさっき【鑑定】したら、厳密にはハーリス・ウイスキーといって、ハーリス地方で造られたウイスキーだとか。
ピート香、いわゆる "泥炭" の香りが特徴のウイスキー。
日本でいうとこの、スコッチ・ウイスキーと同等みたい。
スモーキー・マティーニを作るには、もちろん適している訳で……酒呑みが再びギラつくに違いない。
「……リ~~ナ」
もうすぐ、厨房に着きそうだという時、背後から執務室で別れたハズの、シュゼル皇子が追って来ていた。
大分先に出たハズなのに、追い付くとか……脚のリーチの差か。
「…………はい?」
何か忘れてた事とか、あったかな?
莉奈は何事かと……不安になる。
「これも使えたら……使って欲しいのですけど……ダメですか?」
そう言ってシュゼル皇子は、手に持っていた酒ビンを見せた。どうやら、マイお酒をどこかしらから、持って来た様である。
"使え" と御自らお持ち頂いて、さすがの莉奈もノーとは言えない。
「なんでしょう?」
鑑定すればわかるけど、訊いて済むならそっちの方が早い。見た感じは潰れたフラスコのビンっぽい。だが、お酒のビンを見ただけでは、まったく分からない。
「 "ドランブイ" というお酒です」
御存知ですか? と首を傾げるシュゼル皇子。
……うっわ!! マジか!?
莉奈は驚愕していた。
"ドランブイ"……現代の日本なら、簡単に酒屋で買えるけど……この異世界は、絶対に酒屋では買えないだろう。
だって、中世と同じ感覚でいいのなら、このお酒……
………別名 "王家の秘酒" って呼ばれる、大層なお酒なハズだ。
スゴいお酒を、持ってきたな。
「その表情、御存知の様ですね?」
シュゼル皇子は、満面の笑み。
銘柄で、この価値がわかった莉奈が、至極満足の様だった。
「……混ぜて……いいの……ですか?」
ドランブイのビンを受け取りつつ、恐る恐る訊いた。
だって、簡単に手に入る日本と違って、価値が雲泥の差だ。そんな大層な物を混ぜていいのか、贅沢の極みだ。
「良いから、持って来たのですよ?」
シュゼル皇子は、ほのほのと言った。
そうなのでしょうけど……"王家の秘酒" を混ぜていいの!? 凄すぎなんですけど……。
「まだ、何本かありますからね? たった1本で申し訳ないですが、良かったら皆さんにも分けてあげて下さい」
シュゼル皇子は、さらに笑みを深めた。
王家の秘酒を分けてもいいという、その懐の広さに莉奈は、驚いていた。
だって1本何百万もするお酒……あげる?
私はあげ……その前に買わない。
酒呑みが……騒ぎ出す……騒ぎ出すな、絶対……。
莉奈は、まだ始まってもいない、カクテル争奪戦を想像して、ブルブルと怯えていたのであった。




