135 何がそんなに可笑しいのかな?
「…………はぁぁっ」
長いため息が、まるで泣いている様に聞こえる。
ゲオルグ師団長は、その巨体を小さく小さくしていた。
「………………」
こうなってくると、なんだか可哀想になってはくる。
莉奈も鬼ではないので、考えなくもない。
だが、問題は作る場所だ。この王宮の厨房で作れば、間違いなくギャラリーが50人は超える。
その中で、果たして、ゲオルグ師団長だけので済むか否か。
絶対に無理だろう。だって、ゲオルグ師団長同様、前回食いっぱぐれた人達がいる訳で……。ゲオルグ師団長のだけなんて、どうして作れる。
リック料理長とか、一部の人達が作れる様になったから、作って貰えばいいのに、何故かこぞって莉奈に作って貰いたがるのだ。
技能のおかげか、たまたまかは知らないが "差" が出るみたいだった。
「ゲオルグさん」
「……なんでしょう……リナ君」
「これから "カクテル" という、お酒を混ぜた飲み物を作るんですけど、何かお酒を提供してくれます?」
ションボリしているゲオルグ師団長に若干笑いつつ、莉奈は1つ提案をする事にしてみた。
「…………お酒……提供……? どういう事ですか?」
ションボリしている上に、ナゼか敬語ときたもんだ。
「先程、陛下に献上するにあたって、見ていた他の人達にも、少し作る約束をしたのだけど……まぁ、お酒が足りるか分からないので……」
「分からないので?」
「提供してくれるのなら、お礼という事で……」
それならチーズオムレツについて何か言われた時、酒呑み達は完全に黙らせる事が出来る。いわば保険である。
「持って来ます!!」
ゲオルグ師団長が、目を輝かせて食い気味に言ってきた。そして、扉を開けようとした時、振り返った。
「なんの酒でも、イイのか?」
言葉遣いも戻り、瞳もキラッキラッしていて、ゲオルグ師団長は生き返った様だった。
「まぁ、なんでも……出来ればドライ・ジンとか、ドライ・ベルモットあたりで……」
だって、新しいカクテルなんか作ったら、どうなるのよ?
ただでさえ、争奪戦が怖いのに。
「ドライ・ジンは飲んじまってない。ベルモットは確か……何本かあったな……後は、ウイスキーがあるが……ダメか?」
チーズオムレツを食べたい一心か、他の酒まであると言ってきた。そうだよね? お酒を飲む人なら、他のお酒を持っている可能性は、かなり高いハズだ。
「ウイスキー…………ぁ~」
スモーキー・マティーニが出来ちゃうよ。
莉奈は、なんとも言えない表情をしてしまった。
出来たら出来たで面倒くさいよ。酒呑み達……何気に怖いし。
「……何が出来る?」
莉奈の小さい呟きを、シュゼル皇子ではなく、フェリクス王が拾った。
…………ザ・兄弟!!
「…………ナニモデキマセン」
さすがはシュゼル皇子の御兄様……良くお拾いになられる。酒呑みの "ボス" がココにいたのを、莉奈は完全に忘れていた。
「……ほぉ?」
目を細め、莉奈を意味深に見てきた。
ナゼ、小さい呟きを流してくれないのかな?
バレバレってやつですか。莉奈はイヤな汗を掻き始めていた。
「………………」
「………………」
莉奈は知らぬ存ぜぬで、通そうと思っていたが……フェリクス王の有無を言わせない微笑みに負けた。こういう所、シュゼル皇子に似ていますね? いや、逆なのかな?
「マティーニ………スモーキー・マティーニが出来ますよ」
厳密に云えば、何か他にも出来るけど……余計な事は言わない。莉奈はグッタリとしていた。
簡単に出来るけど、正直次から次は面倒くさい。
好きな時に、好きなだけ作るのがイイのに……と莉奈はボヤいた。
「……ほぉ? さっきのマティーニとは、また違うマティーニか」
興味津々ですね? フェリクス王。
莉奈の要らぬ好奇心が禍して、カクテルに目覚めさせてしまったらしい。王様でなければ、分量教えるから勝手に作れば? って丸投げするのに……莉奈は、そっとため息を吐く。
甘味のシュゼル。
お酒のフェリクス。
エドくんは、特にはなくて可愛い子や。
「お酒なんか、飲まなくても死にませんよ。では、失礼して……」
莉奈は適当に流して、扉を開けようとした。そう、国王陛下の話を適当に流したのだ。
「…………リナ」
国王陛下の話を適当に流して、あの氷の執事様が黙っている訳もなく……。ジロリと絶対零度の視線が、莉奈に突き刺さった。
言われた国王様は……下を向いている。肩が小さく揺れているし、あれは絶対に笑っているに違いない。
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暑かったり寒かったりと、気温の変化も激しい季節ですね。皆様も体調にはお気をつけ下さいませ。




