119 プロポーズ……?
「んじゃ、私は出来た物を届けに行ってくるから」
シャーベットを3種類。カクテルも3種類。
それを魔法鞄に入れた莉奈は、出入り口に向かった。そういえば、ツマミがないけど、まっいっか。
「お……俺達の分の、カクテルは……?」
莉奈が、扉に向かっていると、背中にそんな声が聞こえた。
いつもなら、大概何人分かは用意しているのに、ないからだろう。
「…………はい? 勤務中でしょ?」
ジンライムのシャーベットは……少量だから、大目にみるけど。
勤務中に、お酒は不味いでしょう?
「「「………………………………」」」
正論を言われた酒呑み達の、無言で悲しそうな目が莉奈に集まった。なんだか、捨てられた仔犬みたいだった。
「…………はぁぁぁ~~っ」
莉奈は、深くて長いため息を吐いた。
可愛くはないが、しゅんとしていて、耳が垂れて見えたのだ。
「……国王様に献上してから……戻って、なんか作ってあげるよ」
今、作る訳にはいかない。
あれば飲みたくなるのだろうから。
「「「やった~~~っ!!!」」」
酒呑み組が、元気よくハイタッチをしていた。
現金な人達だな……と、莉奈は笑った。
……簡単なんだから、勝手に作ればいいのに……。
ご丁寧に、自分に作ってもらおうとする、皆に呆れていた。
あっ……でも、分量教えてないや。
だが……莉奈は、気付いていない。
莉奈の作る、食べ物、飲み物はすべて "技量" のおかげで、黄金比になっている事に……。
「……じゃ……あとでね」
どっと疲れた莉奈は、今度こそ厨房から出ようとした……が。
「……えっと……残りは……食べていいのかな……?」
誰とは言わないが、背後からそんな声が聞こえた。
シャーベットの事だろう。
フェリクス王、シュゼル皇子、エギエディルス皇子、莉奈の4人分を取っても、まだ余っている。
お酒のシャーベットは、初めからそんなに分量はない。レモンシャーベットは多めには作ってあるけど……食堂にも、人がいたから……どうなるのかは知らない。
ククベリーのシャーベットはあっても、5人分?
まっ、なんとかなる……様な、ならない様な……。
「…………ケンカしない様に、分けなよ?」
イイ大人に言うのも変だけど、一応は言っておく。
譲り合いの精神があれば……まぁ平気な訳だけど。たぶん、そんな精神は弾け飛ぶに違いない。
「「「わかった!!」」」
とあてにはならない返事を聞きながら、莉奈は厨房を後にした。
「俺、ジンのシャーベットが食いたい!!」
「私は、ククベリーのシャーベットがいい!!」
「お前らは、いつも良いもの食ってんだから、たまにはこっちに回せ!!」
「「「食ってねぇよ!!」」」
「嘘つけよ! リナちゃんから、多めにもらって食ってんだろ!?」
「「「そんなの言いがかりだし!!」」」
莉奈がいなくなった途端に、騒ぎ始めた声がした。
料理人VS衛兵 (警備、警護兵)な感じかな……?
結局、譲り合わないんだよね~。
莉奈は、笑うしかなかった。
◇◇◇
「……エド。なんだか、元気ないね?」
さっきから少し、元気のないエギエディルス皇子に、優しく話しかけた。
カクテルなんか作っていたから、お酒の匂いに酔ってしまったのだろうか?
「………………」
声をかけても、なんだか俯いたままだ。
「……エド?」
「……ん……な」
「……え?」
「ごめんな」
か細い声で、エギエディルス皇子は急に謝ってきた。
「……どうしたの? エド?」
謝られる様な事を、された覚えはない。
莉奈は、エギエディルス皇子の顔を覗き込んだ。
「お前から……家族……奪って……ごめん」
エギエディルス皇子は、泣きそうな顔をしていた。
「…………エド……」
先程、家族の話をしてしまった事で、ずっと胸に押し込めていた思いを、さらに強く胸に抱いた様だった。
莉奈を【召喚】してしまった罪悪感……を。
「もう、謝る必要はないよ?」
莉奈は、エギエディルス皇子の頭を、優しく優しく撫でた。
召喚した事はもう、終わった事だ。これ以上謝ってもらう必要はない。彼も十分過ぎる程、反省しているのだから……。
「……だけど!!」
「エ~~ド。大丈夫。私は、エドを恨んでないから」
莉奈は、笑ってみせる。
これは、本心だ。
エドが、家族を奪った訳じゃない。
むしろ、死のうとしていた "命" を、救ってもらったのだ。
……エドに逢えて良かったと、今は思っている。
「……でも……」
「……エド……戻っ…………」
戻っても……家族……いないから……。
……と、口には出来なかった。
まだ、頭の中ではわかっていても、心がそれを否定する。
口にした瞬間……いなくなった事を認める様で……言えなかったのだ。
「…………リナ?」
それが、エギエディルス皇子をさらに、辛い思いにさせていたとしても、まだ口にはしたくなかった。
「……戻れなくても、エドがいるなら大丈夫」
と莉奈は、泣いている様なエギエディルス皇子の頬を、優しく撫でた。私の代わりに泣いている様だったから。
「俺は……ずっと側にいる」
その手を外し、莉奈の手をギュッと握り締めると……目を真っ直ぐ見た。
決意を秘めた、エギエディルス皇子の瞳は、立派な男の人の様だった。
「うん……側にいて」
そう言うと、さらに、力強く莉奈の手を握り締めてきた。
そして……莉奈の瞳を離さず見つめると……こう言った。
「…………して……やるから」
「…………え?」
「俺が、お前を……必ず "幸せ" にしてやるから」
………………え……?
………………えぇ?
…………えぇ~~~!?
……プロポーズきたーーー!!
エギエディルス皇子が、そんなつもりで言った訳ではないのは、百も承知だが、莉奈にはプロポーズに聞こえた。
だって、プロポーズでしょ、コレ!!
……ダメ……。
…………キュン死、しそう……。
莉奈は、顔が紅くなるのを抑えられなかった。
萌え死にするよ……エド。
「…………おい……?」
莉奈が、顔を赤らめているのを不審に思ったらしい。
自分が真剣に言ったのに、ナゼ顔を紅くするのだと……。
「エド……それ……ちょっと……プロポーズみたいだから……」
萌えに堪えながら、フニャリと笑った。
ものスゴく、ものスゴ~~く、テレるんですけど……。
「……………………は?」
エギエディルス皇子は、目を見開いたまま一瞬時を止めた。
莉奈がナゼ、そんなバカな事を言っているのか、わからないのだ。
だが徐々に、頭が冷静になり……自分がさっき言ったセリフを、思い出して反芻してみる。
"お前を……必ず、幸せにしてやるから"
……お前を…………。
「……プ……プロポーズじゃねぇし!!」
やっとわかったのか、顔を真っ赤にして大否定した。
そんなつもりがなかったのだが、よくよく考えてみたら、プロポーズみたいだと、わかったのだ。
なんで、そんなセリフを言ったのか?
……自分でも恥ずかしくなってきた。
もっと他のセリフもあったハズなのに、なぜそれを選んだのだと、考えれば考える程、顔が火照ってくる。
「……プロポーズ、ありがとう」
悪いお姉さんは、からかってあげる。
プロポーズじゃなくても、嬉しかったしね。
「違う!! お前なんか……お前なんか、嫁に貰うかーー!!」
と少し離れて、莉奈を指差し叫んでいた。
顔は紅いが、全力否定の姿勢だ。
……うん?
……エドくんや?
……そこまでの否定は、失礼だぞ?




