11 漆黒の王 降臨
明らかに、今まで見た扉とは違う荘厳なそれに、莉奈はゾワリとした。
扉の両脇に立つ警備兵も、離宮の人達とは雰囲気からして全く違う。冗談でも言おうものなら、斬り殺されそうだ。
ーーーコンコン。
……とかノックするのかと、思ったら全然違った。
「失礼致します!! フェリクス陛下!! シュゼル宰相 及び リナ・ノハラ嬢が御見えになられました!!」
右に立っていた警備兵が、持っていた槍の柄を一回床に突き、"ガシャン" と音を立て、中にいる王に知らせると高々と声を上げた。
……なにそれ、超カッコいいんですけど………。
莉奈は、思わず見惚れるトコだった。
いかん、場所をわきまえなければ………。
「…………通せ」
中から、低いが良く通る声が聞こえた。莉奈はその瞬間、感じた事のない緊張が身体を走った。
受験でも、習っていた空手の試合でも、こんなに緊張した事はない。
許される事なら、回れ右したい……。
回れ右など、出来る訳もなく……左右の警備兵が重低音を立てながら、扉を開けた。
……おわ~っ!!
100m近くある部屋の先、正面に王座があり、そこに国王様が座ってらっしゃる。
「お忙しいところ、失礼致します。リナ・ノハラをお連れ致しました」
シュゼル皇子は、左胸に右手を添え深々と頭を下げた。
莉奈は、どうしたらいいのか分からないけど、深々と頭を下げた。
ここで、平伏は違う気がしたのだ。
「………挨拶はいい。さっさと近くに来い」
フェリクス王は、肘掛けに肘をのせ、面倒くさそうに言う。
組んでいる足の長いこと長いこと。モデル真っ青なぐらい、この方も美形だ。
超絶美形。なにその美貌。どうしたら産まれるの?
……しかし、怖い。
何が怖いって、雰囲気? 纏うオーラ? 威圧的高圧的な態度? 姿? 貌?
……うん。全部だよ、全部。
足がすくむって、こういう事ですか。勉強になりました。
「大丈夫ですよ? リナ」
足がすくみ、止まっていた莉奈の肩に、シュゼル皇子が軽く手をのせ微笑む。
そして、前に進める様に促してくれた。
しかし、マジで怖いんですけど……。
王座に、ドカリと座ってらっしゃるフェリクス王は、とにかく怖い!!
そして、黒い!!………まさに漆黒!!
着てる洋服も黒い、髪も黒い、瞳も黒い、オーラも黒い、漆黒が良く似合ってらっしゃる。
末弟のエギエディルス皇子が "太陽" なら、
次兄のシュゼル皇子は "月"。
長兄フェリクス王は………まさに "闇夜"。
仮にも王に "闇夜" って……と思うんだけど
……闇夜が良く合う。
………魔王様って感じ?
………魔王なんて知らんけど。
「………陛下……そんなに睨まないで下さい……彼女が怯えています」
王の前で、フリーズしている莉奈を気遣う様に、苦笑しつつシュゼル皇子が言った。
「……チッ……俺は元々こういう顔だ」
舌打ちしたフェリクス王は、更に不機嫌そうだ。
……えっ? 王が、舌打ちしましたよ?
「お初にお目にかかります………野原 莉奈と申します」
あれ? "リナ ノハラ" って言うべきだったかな? と思いつつ………莉奈は、少し慌てた様に両膝を折る。
確か、本で見た目上の人に対する最上礼は、こんなだった……と、うろおぼえだったが多分……大丈夫なハズ。
その脇で、その様子を見ていたシュゼル皇子は、小さく微笑んだ。
礼儀を知らないバカ者ではない……と思ったのか、違う意味で微笑んだのか、下を見ていた莉奈にはわからない。
「……顔をあげろ。……面倒くさい公の場以外は、無理に礼をとる必要はない。第一、お前はバカ共に無理矢理拐われて来たに過ぎん。そのバカ筆頭の兄であるこの俺に、頭を下げる謂れはない」
「………陛下………」
シュゼル皇子は、王を窘める様に呟いた。
いくら王が良いと言っても、それでは困るのだ。
それを本気にされ、礼儀を欠かれては沽券にも関わる。
「………恐れながら申し上げさせていただきます……」
莉奈が、声を上げると……。
二人がなんだ…とこちらを見る。
「……それはそれ、これはこれだと思います」
莉奈は更に続ける。
「いくら王の弟が、私を拐った主犯だとしても、陛下に対し無礼を働いていい理由にはなりません。……ですが……私はこの国、この世界とは全く違う所からやって来た、新参者にございます。……ですので、知らず知らず無礼を働く事も、あるやもしれませんが、そこは国王陛下、宰相様の広いお心で、流していただければ幸いでございます」
莉奈もそこまでバカじゃない。
いくらフェリクス王が礼を欠いてもいい……って言ったからって、本気にしたらいけない事くらいは分かる。
……ちっ、ホント面倒くさいな……。
内心、莉奈はボヤく。
…………え?
心臓をバクバクさせながらも、口にした莉奈の頭に妙な感覚がしたのだ。
…………はい?
その感覚が、どこからキテルのか莉奈はふと、上を見た。
……うん? どゆこと?
まるで「大変良くできました」……とでも言ってる様な、優しい皇子スマイルを浮かべたシュゼル皇子が、莉奈の頭をそれはそれは優しく撫でていたのだ。
……うん。これはこれで怖い。
この状況、この年齢で、頭を撫でられるとは思わなかった莉奈は、なぜか背中がゾワリとするのを感じていた。




