102 のんび~り
「……ぷっ……焼きおリンゴ……旨いな」
エギエディルス皇子が、食堂で焼きリンゴを食べつつ、笑いを堪えていた。どうやら、ツボに入ったらしい。
「そう……ですね……焼きおリンゴ様……美味しいですね」
朝食後に、1つは多いので、皇子と分けて食べるモニカが言った。同じく、笑いを堪えている。
「焼き……おリンゴ……ぷっ……作り方、簡単なのね……?」
ラナ女官長も、もれなく笑いながら言った。
あれから、もう一度、作り方を説明した訳だけど、簡単過ぎて皆が驚いていたぐらいだ。
だって、芯をくりぬいて、そこにバターと砂糖を混ぜて入れる。焼く。それだけなのだ。後は、好みでシナモンを入れたり、レーズンを入れたりすればいいだけ。ムズカシイ事など、何一つない。
「リナは、食べないの?」
ラナが訊いてきた。皆が食べているのに、一口も食べていないからだろう。
「焼きリンゴ、好きじゃないし」
どうも、火の通ったリンゴが苦手だった。
アップルパイの方が、まだ食べられる。リンゴだけは無理。
「好きじゃないのに、作れるの!?」
とモニカが、びっくりした様に言った。キライなのに作れるのが不思議らしい。
「そうだよ? だって、スゴい簡単なんだもん」
なんだったら、エギエディルス皇子より小さい弟でも作れるくらいだった。
「まぁ、確かに簡単だったけど」
「キライな物作れるって、スゴいわよね」
モニカ、ラナが感心した様に言った。作らない側からしたら、余計にそうなのかもしれない。
「……シュゼル殿下には、どうしようか? 一応作って持ってく?」
好みが分かれる所だからだ。料理人の中でも、苦手な人がチラホラいたし。甘いから好き……とは限らない。
「……あっ!」
莉奈が訊くと、エギエディルス皇子は何かを思い出したのか、食べる手を止め声を上げた。
「シュゼ兄達が、呼んでたんだ」
「……誰を?」
「……リナ」
「……………………」
「……………………」
……呼んでたんだ……じゃねぇよ!!
エドは、どうして、毎回そう大事な事を忘れるかな?
……頭、叩いていいかな?
「……えっと……ゴメン?」
莉奈達の、冷たい視線に堪えきれなかった、エギエディルス皇子は謝った。
「……エギエディルス殿下……そういう大事な事は、お忘れにならないで下さいませ!!」
ラナは、建前上だけ注意をした。本気では怒ってはいないが、焦ってはいた。
だって、シュゼ兄 "達" だ。フェリクス王も呼んでいるのだろう。
「……ゴメンって!!」
少し焦り、もう一度謝ったエギエディルス皇子。モニカも慌てた様に立ち上がっていた。
「王様が呼ぶのってなんて言うの? しゅっかん? しょうとう?」
暢気な莉奈は、首を傾げたままで立ち上がらない。
王様に呼ばれる事って、なんか違う言い方があるんだよね?
使った事がないから、知らないけど。
「「……召喚!!」」
ラナ、モニカがハモって教え……ツッコんできた。
「あー召喚か。召喚っていろんな使い方があるんだね~」
莉奈は、のんびり紅茶を飲みながら言った。
【聖女】を喚ぶのも【召喚】。裁判とかで証人を呼ぶのも【召喚】……言葉ってムズカシイな……と莉奈は、暢気だった。
国王陛下が呼んでいるのに……だ。
「リナ!! 暢気に紅茶なんか飲んでないで、早く行きなさい!!」
ラナがもれなく、出入り口を指差し強めに言った。
莉奈があまりにも、のんびりとしているからだろう。
「今さら、焦って行ってもねぇ?」
いつから呼んでいるのか知らないけど、今さら、1分焦った所でどうしようもない。
「リナ!!」
フェリクス王達が呼んでいるのに、莉奈がまだ紅茶を暢気に飲んでいるのだから、今度は皆が冷や汗を掻き始めていた。
普通だったら、バタバタと何もかも放り出して行くのが、常識的だ。なのに、のんび~り、まった~り、としているのだ。皆の方が自分の事の様に焦っていた。
「リナ!! 早く行って来いよ!!」
「国王陛下が、呼んでらっしゃるんだぞ!?」
副料理長のマテウス達が、叫ぶ様に言った。
「……ねぇ~?」
なんで、呼ぶのかね?
でも、焦らない。行きたくないからだ。
むしろ、用があるなら来ればいいのに……アハハ。
「「「……リナ!!」」」
暢気過ぎる莉奈に、気付けば全員が叫んでいた。
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