101 素敵な、焼きリンゴ様
「あっ、リナだ。おはよう!!」
「おっはよう~リナ」
厨房に行くと、誰とは云わず挨拶をしてくれる。
もう、料理人の人達には溶け込めたのかな……と嬉しくなる。
「今日は、何作るの~?」
まぁ、もれなく次の言葉はそうくる訳だけど。何も作らない場合は、皆の反応がどうなるのか、逆に気になる。
「焼きリンゴ、作るよ」
と莉奈が言えば、皆が一旦作業を止めて注目するのも、恒例になっている。もう、注目も慣れてしまったから、慣れって怖い。
「リンゴを焼くのかい?」
リック料理長が1番に訊いてきた。焼きリンゴと云うから、焼くのはわかるのだろう。
「そう、リンゴにバターと砂糖をブッ……おブッ込んで焼きます」
ラナの目が険しくなったので、途中から言い方を変えた。たいしてどころか、何も変わった感じはしないが……。
「……ぷっ……おブッ込んで……って、なんだよ、リナ」
副料理長のマテウスが、笑いを堪えながら言った。そんな言葉を聞いた事がないからだ。
「だって、ブッ込んでって言ったら怒るんだもん」
「当たり前でしょ。あなた女性なのよ?」
莉奈が、ブツブツ文句を言えば、ラナ女官長が呆れた様に言った。口が悪すぎると。
「オンナ……面倒くさい……」
「「「……リナ……」」」
ため息混じりに、そんな事を言う莉奈に、皆はこめかみをつまんでいた。女が面倒くさいって……。
「では、"焼きおリンゴ様" を作ります」
「……へ?」
「……は?」
「……ぷっ……」
一瞬目を丸くすると、どこに "お" や "様" を付けるんだ……と皆は吹き出していた。
だが莉奈は、そんな皆をよそに、お構いなしに焼きリンゴの説明をしながら、作り始める。
「まずは、キラキラと素敵な、おボウル様にお砂糖とおバターを入れさせて頂きます。大変失礼だとは思いますが、それをグリグリとお混ぜになって下さい」
「……ぷっ……おボウル……様って……」
「……ブフッ…………グリグリは……いいのかよ」
「次に、丁寧に丁寧に芯をくり抜かせて頂いた "おリンゴ様" に、先程 混ぜさせて頂いた、お砂糖とおバターを失礼ながらこの様に、お入れになって下さい」
「…………ぷっ……おリンゴ……様」
「……お……バター……って……」
どんな説明だ……と、皆は口許を必死に押さえていた。
丁寧過ぎるにも程がある。色々気になって、説明がまったく耳に入ってこない。腹を押さえたり、口許を押さえたり、そっちの方が大変だ。
「そして、お腹におバター等を入れさせて頂いた、おリンゴ様達には大変恐縮にございますが、鉄板に整列して頂いてもらいましょう」
「ぷっ……お腹に……」
「恐縮……って……何に……ぷはっ」
「整列……って……」
「最後は、逞しく立派なオーブン様に、これまた忙しいとは思いますが、20分程貴重なお時間をさいて頂き、焼いて貰いましたら出来上がりにございます」
と、莉奈がリンゴをオーブンに入れた瞬間
「「「……アハハハハッ……!!」」」
どんな説明なんだよ!! 大爆笑だった。
「逞しい……オーブン様……!!」
「ブッ……貴重な時間を……さいてって!!」
「……確かに……忙しいけど……忙しいけど!!」
「何に……配慮してるんだっつーの!!……アハハ!」
皆は、もう我慢が出来ず、腹を抱えて爆笑していた。莉奈の変な説明に堪えきれなかったのだ。そんな、料理の説明なんて、聞いた事がない。一体何に、敬意を払っているのだ。
面白すぎて、腹がよじれ、痛いぐらいだった。涙が出てくる。
……そして。
まったく、焼きリンゴの作り方が分からない!!




