100 焼きリンゴは好きではない
「紅茶に、ククベリーのジャム入れると旨いよな~」
最近のお気に入りになったのか、ククベリージャムを入れた紅茶を、エギエディルス皇子が食後に楽しんでいた。
「リンゴとククベリーどっちが好き?」
「う~~~~ん」
どっちかなんて選べないのか、腕を組んで悩んでいる。生で食べるリンゴは苦手でも、ジャムにすると別らしい。
なんだか、真剣に悩むエギエディルス皇子は、妙に可愛いらしかった。
「エドさ、リンゴのコンポートが好きなら、焼きリンゴ作ってあげようか?」
自分は焼いたリンゴは好きではないが、エギエディルス皇子はリンゴジャムが好きなら、たぶん好きな味だと思ったのだ。
「「「焼きリンゴーー!?」」」
エギエディルス皇子に混じって、ラナ、モニカまで反応した。
もう、莉奈が作る=美味しい=食べたい……に直結している様である。
「なんで、ラナ、モニカまで反応するかな……」
厨房で作る限り、食べられる確率なんて100%ではないのに。
「だって……」
「……ねぇ?」
ラナ、モニカは顔を見合わせると、首を可愛らしく傾げていた。
なんだか、この2人、最近は特に仲が良さそうだ。
「焼きリンゴって、リンゴを焼くのか?」
莉奈の作る物ならなんでも、興味があるのか目がキラッキラッして眩しいくらいだ。
「そうだよ。バターと砂糖をリンゴに、ブッ込んで焼くの」
そして、超簡単。だからキライだけど、作り方を知っているのだ。じゃなければ、キライな物に興味はない。
「ブッ込ん……リナ、他に言い方はないの?」
ラナが苦笑いしつつ、莉奈のあまりの言い様に注意した。仮にも淑女なのだから……と言いたいのだろう。
「おリンゴに、おバターとお砂糖を、グリグリとおブチ込んで焼くのでこざいますよ? オホホ」
と莉奈は、わざとらしく口許を隠して言ってみる。
「なんでも、"お" を付ければイイって話じゃないのよ……リナ」
ラナはさらに呆れた。なんでもかんでも "お" を付けた処で、上品という訳ではない。根本的な問題が何も改善されていないのだから。
モニカは吹き出していた。そんな言葉遣いを初めて聞いたのだ。
「ですってよ、おエギーラ殿下」
オホホ、と莉奈は、エギエディルス皇子に話を振った。
「ブッ……っ……」
エギエディルス皇子は、紅茶を吹き出した。
そして……。
「お前っ、人の名前にまで "お" を付けるなよ!!」
と呆れた様に言った。
「「「…………」」」
いやいや……あなた、そもそも "エギーラ" じゃないでしょう?




