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ゴンドールの大陸  作者: 芹沢 まの
第四章
86/88

それぞれの明日へ

その後、国民には公開処刑の中止が言い渡された。

誰もが口々に今日の事件について語り合いながら闘技場を去って行く。徐々に遠ざかる人波と熱気を、キースとアルベルトはしばらくただ黙って見送っていた。


「…どういうことですか?」


 静寂を破り、ふとキースが問いかけた。アルベルトの目がちらりとキースを見遣る。


「なにが?」

「”革命軍”というのは」

「あぁ…」


 アルベルトはふっと笑った。


「嫌だろ。ローランドに政権を取られるなんて知ったら。別に俺は侵略したいわけじゃない」

「…まさか本気でアリステアの政権を取るつもりですか?」

「もちろん」


 はっきりと頷いたアルベルトに、キースは絶句した。


「――キース!!」


 不意に処刑台の下から名を呼ばれ、キースはハッとして振り返った。そこに見付けた懐かしい男の姿に、目を丸くする。


「クレオさん…!ご無沙汰しています」

「”ご無沙汰しています”じゃないだろ!!!どういうことだよ、これ!」


 叫ぶ彼の後ろから次々と騎士達が駆け寄ってくる。その中に近衛騎士隊長カールの姿を見つけ、キースは思わず小さく呟いた。


「隊長…」

「――ん?」


 アルベルトがその言葉に反応する。そして騎士達に目を向けた。


「騎士隊長はどこだ?」

「私だ!」


 カールが声をあげた。全員の視線がカールに集中する。


「皇太后を連れて来い」


 アルベルトの指示に、カールは束の間逡巡した。けれども反論は無く、傍に立つ騎士に目を向ける。


「…連れて来い」

「――は!」


 騎士が走って行った。その背中を目で追うキースの耳に、クレオの感嘆が聞こえてくる。


「革命軍を、組織していたなんてなぁ…。いやぁ、つくづく怖い男だな…」


 お互い頷き合う騎士達を見ながら、キースはかなり複雑な気分だった。


 やがて騎士に連れられて、皇太后が姿を見せた。彼女の手はアーロンと同じように、まだ拘束されていた。

 髪は乱れ、その憔悴しきった顔は生気を失い、皇太后という地位に立つ者とは思えない程みすぼらしく映る。騎士の誘導に従いただ淡々と歩を進める彼女の後ろには中年の男が付き添って歩いていた。

 アルベルトは、それを認め処刑台を降りた。キースも彼に続く。騎士達が囲む中、アルベルトは皇太后の前に立った。

 皇太后の瞳は何も映していない。ただぼんやりとその目は宙を彷徨っていた。


「皇太后、初めてお会いする。私の名前は、フレデリック・アルベルト・フォン・ローランド」


 アルベルトが一旦、言葉を切る。

 突然出てきたローランドという響きに、騎士達が”ん?”と全員反応した。


「――ローランドの国王だ」


 凛と響き渡る声に、キースの目が大きく見開かれた。


―――ローランド…国王?!?!


「なにぃ!!??」


 騎士の中から驚きの声が上がった。

 自国で結成された革命軍だとばかり思っていた騎士達は思いも寄らぬ国の名前にただ狼狽した。

 けれども皇太后はまるで反応しない。まるで全ての感情を失ってしまったかのように。


「この国を今後、私に預けてもらいたい。ローランドではなく、”アリステア王国”として」


 アリステア王国として。

 その言葉は、この政権交代が”侵略”ではないということを示していた。

 その場はしばらく静寂に包まれた。誰もが皇太后の言葉を待っていた。


「好きに…すれば…?」


 沈黙をやぶり、皇太后が小さく呟いた。


「私はもう、疲れたわ…」


 心の底からこぼれるような言葉だった。

 皇太后の黒い髪が風に揺れる。晴れた青空も、暖かい風も、彼女の凍りついた心を癒しはしなかった。


「休まれるといい」


 アルベルトが穏やかに言った。


「今後は何も考えず、一国民として、アリステアを見守って欲しい。そのまま一生を終えてもよし。いつか城に戻るのもよし。あなたの、自由だ」


 皇太后は何も言わなかった。ただ目を伏せてアルベルトの言葉を聞いている。

 不意にその隣に立つ中年の男が、一歩前に進み出た。


「私は、この国の宰相の任にある者です」


 アルベルトの目が彼を見る。彼は”あっ”というような顔をして、「…あった、者です」と言いなおした。

 アルベルトはふっと笑んだ。


「今後も、引き続きその役目を果たしてもらえるかな」


 宰相は驚いたように目を見開く。アルベルトは辺りを見回すと「将軍、近衛騎士隊長、そして騎士諸君に関しても同様だ」と声を張った。


「私の望みは侵略ではない。この国を、ヨーゼフ王が作り上げたアリステアの形に戻し、更なる発展を遂げるための道を示したい。そして願わくば、お互い独立国として長く続いてきた我がローランド王国との国交を開き、お互いの力を分け合い高めあっていきたい。どうか、アリステア再興のため、諸君の力を私に貸してもらえないだろうか」


 誰もが圧倒されていた。隣国の王としての彼の言葉に。

 隣に立つキースも、暫く言葉も無くアルベルトを見つめていた。


 不意に、キースがゆっくりと膝を折った。

 その場に屈み、アルベルトの足元に跪く。それに合わせるように、宰相も膝をついて礼をした。

 誰もが同じ想いであった。

 自ずと1人、また1人と騎士が跪く。アルベルトを中央に、やがて騎士達は全員膝をついていた。

 アルベルトが頭を掻きながら極まり悪そうに辺りを見回す。ふとその目が、離れた所で自分を見るグレイスと出会った。

 グレイスは穏やかな微笑みを浮かべて父親を見ていた。

 アルベルトがグレイスを手招きする。彼女は一瞬虚を突かれたような顔になったが、それに従い騎士の間を縫ってアルベルトのもとへ歩いて来た。

 キースがそんな彼女に気付いて顔を上げる。

 騎士達を見回しながら、アルベルトはグレイスの肩をぽんと叩いた。


「俺の娘だ!ま、つまり、王女だな」


―――む、すめ…。


 キースはその言葉を、頭の中で繰り返した。

 なんだか全身から力が抜ける。顔を伏せると、思わず苦笑を洩らした。


「今後、娘にも国政に手を貸してもらおうと思う。…それから」


 アルベルトの目が跪くキースに向く。


「キース、立て」


 指示を受け、キースは立ち上がった。その目を見て、アルベルトはニッと笑みを浮かべた。


「お前もだ。今回の武勲に対し、アリステア、そしてローランドの騎士の称号を授与する。今後、俺の片腕として両国を繋ぐ役目を担ってくれ」


 そう言ってふと遠くに目を向ける。もう1人の功労者は、まだ恋人と愛を語らっていた。


「…あいつもな」


 目を細めて呟くアルベルトの横顔を、キースはただ茫然と見詰めていた。

 騎士の、称号。

 まさか再び、それを手にする日がくるとは思ってもみなかった。

 国を去った、あの時には――。

 アルベルトはまるで悪戯っ子のような笑みを浮かべ、キースに問いかける。


「いいだろ?君主としての俺に仕えたいって言ってたじゃねぇか」

「あ…」


 そう言われ、つい先ほど自分が言った言葉が甦る。


 ”自分もできることなら、ローランドの騎士になりたかったです”


 まさか国王を前にして言っているつもりはなかった。

 アルベルトはキースのそんな動揺に、楽しそうに笑みを浮かべた。


 ふとアルベルトはグレイスの背中に手を添えると、その体をキースの方へと押し出した。とっさに抱き止め、グレイスの体がキースの胸におさまる。

 突然のことに戸惑い、2人とも目を丸くした。

 アルベルトは腕を組むと、苦虫を噛み潰したような顔で言った。


「生涯、命をかけて護ると誓え」


 渋々という様子で叩きつけた命令は、束の間キースの声を奪った。その意味を理解し、息が止まる。

 とっさに腕の中のグレイスと目を見合わせていた。

 紫色の瞳がキースを見返す。

 確かに、腕の中に居る。


―――生涯……。


 キースは顔を上げ、真っ直ぐに国王に向き直った。


「――誓います」


 力強い宣言に、アルベルトは不愉快そうに顔をしかめた。そしてがしがしと頭を掻く。


「言っとくけどな!!結婚は国が安定してからだからな!まだしばらくはグレイスには王女として手を貸してもらうんだ。――分かったな?!」

「はい」


 キースの落ち着いた返事に、アルベルトはやれやれとため息をついた。

 そして辺りを見渡す。

 騎士達は相変わらず、自分に跪いていた。


「はい、全員解散!!――処刑台を片付けて、城に戻るぞ!!」



 処刑台が解体され、片付けはちゃくちゃくと進められた。

 アルベルトはその間、宰相、将軍、そして各大臣達と顔合わせをしながら何かを話している。キースはそんな新国王の背中をただ眺めていた。


「お母様が驚いてしまうわ…」


 グレイスが呟く。キースは隣に立つ美しい姫に目を向けた。その瞳はいつものように澄んだ綺麗な紫色だった。


「恋人同士だったんだと、思っていたんだ」


 突然そう言ったキースの言葉に、グレイスは不思議そうに目を瞬いた。

 そしてその意味を理解し「あぁ…!」と声を上げる。


「そうよね。お父様がそんな嘘を言っていたから…。全く、無理がある話だったけど」

「いや、無理は無かったよ」


 キースが即座にそう返す。グレイスは驚いたように瞬きを繰り返した。


「そう??」

「きみが選ぶ相手として、全く無理が無かった」


 グレイスは少しの間キースを見ていたが、やがてぷっと吹き出した。

 キースは思わず顔をしかめる。


「笑い事じゃない」

「ごめんなさい、でも。それを聞いたら父が喜ぶわ」


 楽しそうに笑顔になるグレイスに、キースは小さく息をついた。

 そしてその肩に腕を廻して強く抱き寄せる。グレイスは驚いたように小さく悲鳴を上げた。


「笑い事じゃないんだよ。昨夜、きみと隊長が一緒に部屋に居るのを見た時、ただでさえ追い詰められていたのに…。本当に、おかしくなりそうだったんだ…」


 キースの腕がグレイスをきつく抱きしめる。グレイスは目を丸くして言った。


「…嘘でしょう?」

「嘘じゃない」

「だって…あなたそんな素振りは全然…」


 そう言ってキースを振り仰いだ瞬間、唇を塞がれた。

 グレイスは驚きに目を見張る。

 一瞬父親の存在を気にしてキースの胸を押したが、その腕が緩む気配は無かった。

 やがてグレイスも目を閉じ、その身を彼に委ねた。

 唇が離れると、改めてキースの腕がグレイスを抱きしめる。


「やっと本当に、俺のものになった…」


 耳元で優しい声が囁く。それを聞きながらグレイスは穏やかに微笑んだ。

 周りで遠巻きに騎士達がそんな2人を呆気にとられて眺めている。


「色々食い尽くして、最終的に王女か。ほんと怖い男だな」


 クレオは真顔で腕を組み、しみじみと呟いていた。



「――キース…!!」


 自分を呼ぶ声に、キースは我に返って顔を上げた。

 そして振り返った先には、観客席から降りて来たらしいリンの姿があった。ドレスの裾を持ち上げ、こちらへ駆けてくる。

 やがて、キースの胸へと勢い良く飛び込んできた。


「キース…!」


 キースが穏やかに微笑む。そして可愛い姪っ子を優しく抱き返した。


「ありがとう…ありがとう、キース…」

「何が…?」

「全部だよ…。アーロンから聞いたの…」


 キースがふと目を上げる。

 アーロンが遅れてゆっくりとこちらに歩いてくるのが見える。

 両手の拘束は解かれ、その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

 リンはそっと顔をあげると、キースの隣に立つグレイスと目を合わせた。

 にっこり微笑むグレイスに、思わず頬を赤らめる。


「あの…初めまして。リンティアです」


 挨拶もそこそこに抱きついてしまったことに気付き、慌てて離れて頭を下げる。


「私はグレイスよ。よろしくね」


 グレイスも綺麗な微笑みを返してくれた。

 アーロンが3人のもとへと辿り着く。リンはキースとグレイスを交互に見ながら、期待に満ちた瞳をきらきらと輝かせた。


「キース、えっと、こちらは…」


 キースがふっと微笑んだ。


「――俺の、婚約者」

「きゃぁぁ~!!」

「えぇぇぇ!!??」


 喜ぶリンの後ろで、話の見えないアーロンは素っ頓狂な声を上げていた。


 ◆

 

 その後、しばらくはアリステアでの慌しい日々が続いた。

 今後アリステアを管理するにあたり、アルベルトは現在の財政、領土の配分、そして領主についてなどの様々な情報を受け取った。

 臣下達は連日の議会で彼の求めるがままに報告を行い、アルベルトはキースとグレイスを巻き込んでそれを吸収していく。

 増税を言い出しただけあって、国家予算はかなり浪費されていたが、ジークフリードの後宮に住んでいた姫達は全員家に戻されることになるため、これ以上悪化することはないだろう。当面落ち着くまではローランドの国家予算から補填して凌いでいくことを決め、予定されていた増税は撤回されることとなった。


「いずれはアリステアにも公共の馬車を通したいな。馬が無秩序に走ってるから、街中糞だらけで汚なかったぞ。それに道もまるで整備されてなかった。港町から山道を歩かないと王都に辿り着けないようでは都市が活性化しない」


 未来を見ながら理想を語るアルベルトに、宰相達は大きく頷きながら賛同した。


「あぁ、そういえば」


 アルベルトが思い出したように付け足す。


「リンティア姫は、結婚のためアリステア王家を離れる。ローランドの騎士が相手なので、姫もローランドへ移住することになる。特に異議は無いな?」


 その場の全員が頷いて応えた。


 リンティア王女が王族を離れることに関しては、本人の希望でもありアルベルトの希望でもあった。実際の結婚はまだ先なのだが、理由は一応”結婚”ということにしてある。”ローランドの騎士”というのは受勲式を終えていないが、当然アーロンのことである。


 ゴンドール遣いの血について、アルベルトはその後王女と1対1で話す機会を設けていた。

 彼女は種族の伝説と自分の血のことを全て承知していた。けれどもその力をこの先何かに使いたいという意志は持っていなかった。できれば王族から離れ、その血のことを忘れて暮らしたいというのが、彼女の願いだった。そしてそれを受け入れることで、アルベルトも王家の血筋からゴンドール遣いの血を消すという当初の目的を違う形で果たすことが出来た。

 迷いが無いわけでは無い。本来はこの世から絶やすべき血なのかもしれないとも思う。彼女にいつか子供が産まれた時、その子に同じ血が受け継がれる可能性は充分にある。それが遠い未来にまた、争いの種にならないとも限らないのだから。

 それでもアリステアとローランドが統一された今、その血を絶やすのも惜しくなるのは、施政者の性というものか。

 そんな己をも諫めるように、アルベルトは王女に忠告した。


”きみの力は使う者の気持ち次第で、神の力にも悪魔の力にも成り得るものだということを忘れないで欲しい。そしてきみ達の子孫にも、その想いを受け継いでいって欲しい。悲しい歴史が二度と繰り返されないように”


 王女は真摯な瞳で”約束いたします”と応えてくれた。

 ゴンドール遣いが生まれた意味、それが消えた意味、そしてまた再び蘇った意味…。全てのことに答えは出せていない。

 けれども両国が平和である限り、人々の心が豊かである限り、間違いは繰り返されないであろう。

 そしてその平和を護り続けることが、今出来る自分の”最善”なのだとアルベルトは思っていた。


「――よし、次」


 アルベルトは言いながら、目の前の書類を勢い良くめくった。



 議会続きの日々が落ち着いてきたある日、キースとリンはアイリスの墓地を訪ねていた。

 その墓は当時の国王や皇太后ではなく、臣下達によって造られたものだった。ヨーゼフ王の大きな墓の隣に、ごく小さく、けれども一番近くに建てられ、墓の周りにはアイリスが好きだった花達が咲き誇っている。それも臣下達の想いによるものだった。

 墓標には『ヨーゼフ王最愛の妃 アイリス姫』と記されていた。

 暖かい光がその場を包む。リンは墓石に語りかけるようにしゃがみこみ、キースはその隣で立ったまま、黙って見下ろしていた。

 そんな2人の背中を、少し離れた所でアーロンとグレイスが見守っていた。


「アーロン…」


 不意にグレイスに名前を呼ばれ、アーロンは「なに?」と応えた。


「ローランドで暮らすんですってね」

「うん」

「いいの?キースと離れてしまって」


 グレイスの問いかけに、アーロンはちょっと笑った。


「リンの学校がローランドだしさ。ちょっと休んじゃったけど、卒業させてやりたいし。あいつ教師になりたいって夢もあるから、ローランドでちゃんと勉強させてやりたい。それが終わってまた必要があれば、アリステアに住むのもいいね。先のことはまだ分からないけど」

「教師…素敵ね」


 グレイスは穏やかに微笑んだ。


「ローランドをお願いね。あなたは近衛騎士隊に入るみたいだから、兄も弟も、お世話になると思うわ」

「…お兄さんが、次期国王に?」

「えぇ。正式に王位を譲るんですって。まぁ、今更だけど。ここ数年はずっと兄が主で政務を執り行ってきたんだもの」

「へぇ…」


 近衛騎士隊…。そんな響きがなんだか未だにピンとこない。


「俺、やっていけるのかな。騎士なんかになって…」


 アーロンは思わず呟いた。


「大丈夫よ」


 グレイスが微笑む。


「地位が人を育てるもの。あなたアリステアでは一般の兵士だったんでしょ?でもローランドで立派に上級兵士として役目を果たしてくれていたじゃない」


 穏やかな風が吹く。心地よく頬を撫でる。3年前の自分が、遠い記憶に甦った。

 本当に、信じられない…。


「でもちょっと残念。あなたとキースの組み合わせは最強だったもの」


 グレイスの言葉に、アーロンはふっと微笑んだ。


「別に…永遠に離れるわけじゃないし。どうせ、俺とあいつは――」




「…キース」


 座っているリンがキースを振り仰ぐ。キースは彼女を見下ろしながら「ん?」と返した。


「私、ローランドで暮らしていいのかな…」

「…なんで?」

「お父様とお母様が、悲しむかな…」


 その言葉にキースは穏やかに微笑んだ。


「リンティアが幸せなのが一番だよ。ローランドには沢山友達が居るんだろ?学校だって、実際あっちの方が質がいいようだし。第一アリステアから永遠に離れるってわけじゃない。またいつでも遊びに来るといいよ」


 そう言ってまた墓石を見る。


「その時は、また一緒にここに来よう」

「うん…」


 リンが微笑む。幸せそうな笑顔だった。


「結婚式には、来てくれるでしょ…?」

「もちろん」

「キースの時も、よんでくれるでしょ?」

「当然だろ」

「アーロンも一緒にね」

「…それは、どうしようかな」


 冗談混じりのキースの言葉に、リンはクスッと笑った。


「本当は寂しいくせにっ」

「なにが?」

「離れ離れになっちゃうこと」


 そう言いながらリンは立ち上がった。キースは目を丸くしている。


「キース、アーロンのこと好きだもんね」


 断定され、キースは思わず苦笑した。そして自分を真っ直ぐ見つめる姪っ子の翡翠色の瞳に、穏やかに微笑みを返した。


「離れるという気がしないんだけどな。またすぐ会うことになるよ。そういう運命な気がする。俺とあいつはね――」




 ――切っても切れない、縁なんだよ。




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