少年、疲れたら寝相悪くなる人だった
「……ふぅ。おわったぁ。……えいっ」
夜。再び私たちの部屋に戻るなり、少年は敷かれた布団にダイブする。
そして仰向けに大の字になりごろごろしはじめた。
今日は簡単な夕食メニューを数品教えて終わる……はずだったのだが、なぜか一品目のレクチャーが終わったときに教会の関係者が参加を希望してきて、2品目が作り終わるころには他のホテルの食品担当も参加し始め、3品目が終わるころにはテレビ中継が始まる始末。
少年が作ったお手本を食べる要人(私たちの部屋に凸ってきた奴らとは別の政府要人)が食事を食べ終わるころには、アンコールの嵐。
結局時間を空けつつ夜になるまで料理講習は続くことになった。
私も少し少年の手伝いはしたが、準備不足の中でやり切った少年は疲労困憊。
その結果、私たちの部屋に戻ってきた瞬間、この電池切れモードに。
「あー……眠いかも」
「あら、もう寝るの少年?」
少年のそばに座って頭をなでる。
ぐったりモードも可愛い。
「うん……もう無理。おやすみエルフさん……」
そう言ってすぐに寝息を立て始める少年。
割と本気で限界だったようだ。
寝落ちという表現がぴったりな状態に私は苦笑する。
その無防備な寝顔を見下ろしながら、私は思わず頬が緩むのを抑えきれない。
こうしてみると年相応にしか見えない。
起きてる時の小悪魔的な言動が嘘の様だ。
まあ、ちょくちょく年相応の反応はしてくれるものの、特に今日は何を考えているのか、やたら私のクリティカルに来る言動ばかりしてこの少年は本当にもう……。
そんな愚痴も、少年の天使のような寝顔の前には霧散していく。
そうだ、この顔を肴にちょっと飲もうかな。
そう思い立った私は、少年を起こさないようにキッチンで日本酒と酒のつまみを漁り、そっと障子を閉め広縁の椅子に腰かける。
サイドテーブルには日本酒の地酒と少年が作った小松菜のお浸し。
月明かりに照らされた急ピッチで改装中のトンチキジャパンな街並みを眺めながら、一人静かに晩酌としゃれこむ。
こんなゆったりとした時間は久しぶりかもしれない。
そう言えば少年が騒動を起こして以降、なんだかんだで少年と一緒にいることが多かったが、一人で晩酌をするのは久しぶりかもしれない。
「思い返してみると完全に少年に餌付けをされているなぁ私の生活」
まあ料理が上手い少年が悪い。
私は悪くない。
……。
静かな部屋。
少年を見ながら、今日少年が言った単語を思いだす。
「……婚約者、か」
昼間、彼が口にした言葉を反芻する。
口の中にお酒の甘さと胸の奥に甘酸っぱい何かが広がる。
……まあ数年後にはそういう関係になるのだろう。
今と彼の立場を考えるに、彼にとっては私を選ぶことが一番メリットがあるからだ。
私としても見出した偉人の人生を最前線で見れる。
それに満足感がないといえば嘘になる。
それと同時に、より深い欲も芽生えてきてしまう。
彼の心がもっと欲しいという欲望。
そして最もやってはいけない禁忌も欲望として頭をよぎる。
この禁忌に比べれば、肉体関係なんて誤差だ誤差。
今は彼が子供なことで抑えれているこの欲望。
果たしていつまで我慢できるだろうか。
もやもやとしたまとまらない思考をお酒で流す。
ふわふわとした感覚が私の頭から悩みを流していく。
良い飲み方ではないとはわかっているが、今日くらいは許してほしい。
そんなに飲み過ぎるわけじゃないから。
飲み始めてからどれだけ時間が経ったろうか?
時計を見ると、少年が寝息を立て始めてから大体30分ほど経過していた。
「……飲みすぎちゃう前に寝ましょうか」
理性が残っている間に、私は晩酌を切り上げる。
明日は朝から再度温泉街を散策する予定だ。
二日酔いでデートを台無しにするわけにはいかない。
私はグラスに残ったお酒を飲み干し、明かりを常夜灯だけにして少年の隣に敷かれた自分の布団に潜り込む。
隣からは規則正しい寝息。
手を伸ばせば届く距離に大好きな人がいるのはなんという幸せだろう。
うーん。抱きしめたい。いや、我慢我慢。
自分に言い聞かせ、目を閉じる。
すぐに心地よい眠気が訪れ――
さわ……。
「えっ!?」
太ももに温かい感触。
え?
なにごと?
混乱しつつ布団をはぐと、そこには隣で寝ていたはずの少年が、私の布団に対して90度の角度で侵入してきていた。
そしてその手が私の太ももをまさぐっている。
「う……うぅん……」
「しょ、少年?」
「枕……」
どうやら枕を探してるようだ。
ちょっとまって私の太ももは枕じゃないわよ???
「ちょっ」
「んぅー……僕の……」
私が声をかける間もなく、少年はむにゃむにゃと言いながらもぞもぞと布団の中を上ってくる。
そして、ぎゅっと抱き着いてくる少年。
「えっ、ちょっ、まっ」
近い近い近い! 顔が近いです少年!
というかけっこう力も強い!?
薄暗い中でもわかる長いまつげ。
子供特有のすべすべお肌。
私の心拍数は一気に跳ね上がり警報を鳴らす。
これは……ご褒美?
いや手を出せないなら拷問では???
寝……いやドキドキして寝れるわけがない!
「……んむぅ……エルフさん……」
顔が良い。
ハスキーボイスもかわいい!好き!
ガンッ!
「んー……」
「あ痛っ!」
堪能しだした私への世界からの制裁か、今度は裏拳が私の顎にクリーンヒット。
「……ふにゃ?」
少年は一瞬動きを止めたもののすぐにまた体勢を変え、今度は私の胸に顔をうずくめるような形でぐりぐりし始めた。
「ちょっ待……!」
なんか敏感な部分をぐりぐりされるとちょっとこう、ねえ少年??ちょっと加減してくれないかしら少年???
ご褒美のような拷問のような時間。
さっきまでのほろ酔いが嘘のように今のは私は覚醒状態。
でも、このままだと私が寝れない。
いつの間にか関節技を決められているような体勢。こんな状態で朝まで?それはもはや修行では?
「……うぅ……ん……」
少年が身じろぎするたびに、私の体に手足が絡みつく。
私は必死に暴れる心臓と緩急繰り返す少年の攻撃(意味深)に耐えながら天井の木目を数え続けるしかなかった。
………………。
…………。
……。
翌朝まで耐えた私を褒めて欲しい。
そして昨夜の様子を少年にありのままを伝えたら「じゃあ布団離して寝ようか?」と言われた。
朝食中ずっと悩みに悩んだ結果、隔日で布団を話すことにした。
あれはご褒美でもあると思うの。
それをやめるなんでとんでもない。




