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「先代の王のときって?」







 西燕国に異変。


 神子の短い報告を耳にしたと同時、胸騒ぎがした。

 理由なんて分からない。ただ、神子の緊張した声と、やけに慌てた様子は、わたしに胸騒ぎを抱かせるには十分だった。


「西燕国に……?」


 蛍火が呟くように聞き返し、神子が大きく頷く。

 

「異変とは何だ」

「はい。宮殿にて動きがあったようなのですが、詳しくはまだ掴みきれていないようです。ただ、先代の王の折に似ているようで……政変かもしれません」


 決して聞き慣れはしない言葉。記憶の限りでは、遠くに聞いたものばかりで、それらはいつも不穏な雰囲気を纏っていた。

 不穏も不穏。当然のことだった。いつも国の名前と共に耳に入り、よくないことばかり聞いた。

 政変。

 今その言葉が繋げられた国の名は、西燕国。聞きなれたというレベルではない。

 わたしの国、わたしが生まれた国、わたしが育ち、そして──。

 わたしの思考が巡り続ける中、神子が、決定的な言葉を告げた。


「──王が、討たれるやもしれません」


 ────は?


 思考が急停止させられた。断片的な単語に回り続けていた思考が停止し、真っ白になった。

 一瞬。

 それから、遅れて言葉が改めて一気に頭の中に入ってくる。



 何だって?

 西燕国に、政変?

 王が、討たれる?

 王が。

 西燕国の王が。

 今の王は。──雪那だ。


「政変?」


 ようやく動けたわたしは、とっさに蛍火の服を掴んだ。


「王が……」


 ぎこちなく蛍火を見上げた。服を掴んだ手に力がこもり、ぎゅっと握り締め、問いを重ねる。


「先代の王のときって?」


 前の王。

 わたしが死んで百年後、わたしの次に玉座に座った王で、雪那が王になる百年前に死んだ王。

 わたしは会ったこともないが、どんな王だったと聞いていたか。その、最期は。どのような形で治世を終えたと聞いたか。わたしは、蛍火に尋ねただろう。とっさに思い出せなかった。

 わたしの視線と問いを受け、蛍火は少し間を置いて答えてくれる。


「……前に申し上げましたが、西燕国の先代王は数年で崩御しました。臣による反逆によるものです。今、宮殿で実際に動きがあったと西燕国の神子から報告があったのでしょう」


 そして、西燕国の以前を知る神子が、先代王のときと似ていると感じた。

 政変、王が討たれるかもしれない、と。


「どうして──」


 わたしの口からは、勝手に、そんな言葉が出ていった。

 だって、そうじゃないか。


「だって、まだ半年も経ってない。雪那が、そんなことされることしてるはずもない。……どうして……」


 分からない。

 分からないけど、起こすべき行動は分かる。


「蛍火、わたし、雪那のところに行かなくちゃ」

「……神子は、国の代替わりに本来介入が許されていません。その国の臣下であり、民が王を判断する権利を有しているからです」


 ああそうだ。他の国の王が倒れる様を見てきた。

 でも、今!


「雪那が殺されるかもしれないのに、わたしは見過ごせない。雪那は、わたしの守るべき弟」


 行かなければならない。

 押し殺す声で言うと、蛍火は一度、固く目を閉じた。そして、開く。


「ないとは思いますが、決して人を殺められませんよう」


 一言目にそう言った蛍火は、次々と言葉を重ねていく。


「臣下、民、王、政変を起こそうとしている者を損なったならば、確実に介入です。王を逃がすことも一線を越えると判断されるやもしれません。──それ以前の段階なら、政治にも関わる神子です。要は、あるべき運命を()()()()変えたと見なされないようにというのが鉄則と言われています」

「分かってる」

「そして、これは私が守ってほしいことです」

「なに」

「必ずあなた自身が死ぬようなことは避けていただきますよう、よろしくお願いします」


 黒い瞳を見返して、わたしはしっかりと頷いた。













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