第98話・カルミナ村の少女
カルミナ村でのモンスターとの初戦後、アースラたちが村長の家で昼食を食べていると、小さな女の子が別の部屋から出て来て食卓の空いている席に座った。
「お姉ちゃんたちがさっきのモンスターを倒したの?」
「うん、そうだよ」
その問いにシャロがにこやかに答えると、少女は明るく表情を綻ばせた。
「すごーい! 今までは怖い顔のおじさんたちが戦ってたけど、これからはお姉ちゃんたちがこの村を守ってくれるんでしょ?」
「うん、でも私たちがこの村に居るのはムーンティアーの収穫を終えてそれを売るまでの間だけなの」
「そうなの? でも村に居る間に少しは遊べるよね?」
「皆さんはお仕事で来てくださってるんだから、ニアと遊んでる暇はないんじゃよ」
「そんなのやだっ! ニアはお姉ちゃんたちと遊びたいの!」
村長の言葉にニアは子供らしく駄々をこねだし、椅子に座ったまま手足をバタつかせた。するとその様子を見ていたシャロは、困った表情を浮かべてあたふたし始めた。
「ニア、我がままを言って皆さんを困らせてはいけないよ」
「いやっ! ニアはお姉ちゃんたちと遊ぶの!」
村長が少し厳しい口調でそう言うと、ニアはさっきよりも語気を強めながら更に手足をバタつかせて泣き始めた。
「し、師匠、こういう時はどうしたらいいんでしょうか?」
「遊んでやればいいじゃねえか」
ニアはアースラの言葉にピタリと泣き止むと、すぐに明るい表情を見せた。
「でも私たちは依頼でここに来てるわけですし」
「別に四六時中モンスターと戦うわけじゃねえだろうし、暇な時間で遊んでやればいいだろ」
「いいんですか?」
「役目さえキッチリ果たすなら何の問題もない」
「やった! それじゃあご飯を食べたら遊ぼうよ!」
「あ、ごめんねニアちゃん、私たち食事が終わったらお仕事の話をしなきゃいけないの」
「ええー、そうなのぉ……」
ニアは食卓の上に両手を伸ばして突っ伏し、ぷくっとほほを膨らませた。
「シャロ、とりあえず仕事の段取りは俺とシエラと村長で話すから、フルレとモコも連れて遊んでやれ」
「フルレもよいのか?」
「ああ、仕事の話はあとで伝えるから三人で遊んで来い、だがモンスターが現れたら村の中心にある見張り塔の鐘が鳴るから、その時は急いで村の出入口まで来いよ」
「分かりました」
「分かったのだ」
「シャロお姉ちゃん、フルレお姉ちゃん、お外に行こう!」
「えっ!? う、うん」
「行って来るのだ」
嬉しそうに外へ出て行ったニアをシャロが追い、モコを抱いたフルレも外へ出て行った。
「孫が我がままを言って申し訳ないですじゃ」
「いや、仕事に支障が出るわけじゃないから気にする必要はない」
「そうですよ、それに子供は子供らしく遊んでいいと思いますから」
「さあ、俺たちはこれからのことを色々と話しておかないとな」
「そうだね」
昼を少し過ぎた頃、アースラとシエラは村長を交えて今後のことを話しあった。そして夜を迎えるまでの間に八回モンスターの襲撃があったが、その全てを見事に防ぎきった。




