第97話・防衛戦
冒険者組合からの特別要請でカルミナ村を訪れていたアースラたちは、さっそく村を襲撃に来たモンスターたちと戦っていた。
「シャロ! そっち行ったぞ!」
「ウインドアロー!」
素早い動きで迫るレッサーウルフに魔法を撃ち込んだシャロは、続けて迫って来るモンスターたちに向けて両手を突き出した。
「ファイヤーストーム!」
シャロから放たれた凄まじい炎の嵐がモンスターたちを包み込むと、紅蓮の炎の中から幾重にも重なる叫び声が木霊のように聞こえ周囲に響いた。
「フルレも負けておられんのだ!」
シャロの見事な戦いを見たフルレはにこやかな笑みを浮かべ、右手の平を天に向けて突き上げた。
「ダークネスアビス」
突き上げた右手の平に自身の拳ほどの大きさをした漆黒の球体を出すと、フルレはそれを別方向から迫るモンスターの群れに向かって投げた。すると投げ放たれた漆黒の球体は群れの中心部の地面に落ちて急速に広がり、一瞬でモンスターの群れをその漆黒の闇に飲み込んだ。
「さすがは魔界の大悪魔だな」
「おかげでモンスターの数もだいぶ減ったね」
「ああ、ここは一気に畳み掛けるぞ!」
「うん!」
フルレの魔法に驚きを見せていたアースラとシエラは、それぞれに気合を入れて残りのモンスターたちを見据えた。
「ギガファイヤー!」
「ギガウインド!」
二人が放った魔法が途中で混ざり合って強烈な熱の嵐となり、残りのモンスター全てを飲み込んでその息の根を止めた。
「二人とも凄いです!」
「うむ、見事だったのだ」
「ありがとう、シャロちゃん、フルレちゃん」
「とりあえず最初の襲撃は防いだ、さっさと村へ戻って今後の対策を考えるぞ」
「はい!」
モンスターの群れを倒しきったシャロたちは嬉々としながら村へ戻り始めたが、その中でアースラだけが浮かない表情を浮かべていた。
「――皆さんお怪我はございませんでしたかな?」
アースラたちがカルミナ村へ戻ると、心配げな表情をした村長がすぐに出迎えてくれた。
「大丈夫です」
「うむ、フルレたちがあの程度のモンスターにやられるはずがないのだ」
「それは良かったですじゃ。さあ、昼食を用意しておりますので皆さん我が家へどうぞ」
「お楽しみのご飯なのだー!」
「どんな料理か楽しみですね、シエラさん」
「うん、凄く楽しみだよ」
三人が嬉しそうに村長の家へ向かう中、アースラはゆっくりと歩く村長へ近づいた。
「村長、少し聞きたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
「この村は毎年あんな数のモンスターに狙われているのか?」
「いえ、去年までは多くても1日に五回、数十匹程度の襲撃があるくらいで、先ほどのような凄まじい数の襲撃は記憶にありません」
「そうか」
「師匠ー! 何やってるんですかー?」
「早く来ないとベル君の分も食べちゃうよー」
「シエラはそんなに太りたいのか?」
「もうっ! ベル君てば意地悪なんだからっ!」
「俺の分も食べるなんて言う奴に意地悪なんて言われたくねえよ」
「まったく、師匠は本当に口が悪いですよね」
「シャロちゃんの言うとおりだよ」
「わーったわーった、俺が悪かったから早く中へ入れ」
こうして心の中にある疑問が晴れないまま、アースラは村長の家に入って昼食を摂り始めた。




