第69話・悪魔は人をあざ笑う
魔法を放ったアースラは氷結結界が砕ける確かな手応えを感じていたが、爆炎が晴れたあとの結界には傷一つ無かった。
――第10序列魔法でも穴すら空いてないのか? いや、そんなことはない、確かに結界が砕ける音はしたし手応えもあった。
「わずかな間とはいえ我の結界に穴を開けるとは、そち、なかなかやるようなのだ。だが我の結界を消し去るには足りなかったようなのだ」
「もしかして挑戦の機会は一度だけか?」
「ほお、まだ我の結界を消し去れるつもりでいるのか? 面白いのだ、さきほど我の結界に穴を開けたその力に免じて、特別に続行を認めてやるのだ。せいぜい無駄な足掻きを続けて絶望するといいのだ」
「そりゃあどーもっ!」
アースラは連続で魔法を放ったが、結界に穴こそ空くものの、その穴はすぐに塞がってしまった。
そしてその状況を見たアースラは一旦魔法を撃つのを止め、しばし熟考したあとで氷結結界をぐるりと一周しながら様々な魔法を放ち始めた。
「――どうした、もう終わりか?」
魔法を放ちながら時間をかけて氷結結界を一周したあと、魔法を撃つのを止めたアースラに対し、フルレティは挑発するようにそう言い放った。
「さすがにこの結界を消すのは難しいな」
「フフフ、当然なのだ、しかし矮小な人の身でありながら、よくやったと誉めてやるのだ」
「高名な悪魔様にお褒めいただき光栄だが、俺はまだ結界を消せないとは言ってないぜ」
「まだ挑戦するつもりなのか? 我は構わぬぞ、いくらでも無駄な足掻きをするがいいのだ」
「いいのか? 次に俺が結界に攻撃を仕掛ける時は、間違いなくその結界は消え去るぞ」
「面白いのだ、出来るものならやってみるがいいのだ」
「分かった、だがその結界を消すにはちょいと準備がいるから、その間は少し待ってもらっても構わないか?」
「よかろう、そちがいかにしてこの結界を破ろうとするのか興味が湧いたのだ。どれくらい待てばその準備は整うのだ?」
「そうだな……陽が沈みきる前には戻って来れるとは思うがね」
「いいのだ、ならばあの太陽が沈むまでは待ってやるから、十分に準備を整えて来るがいいのだ」
「さすが高名な悪魔様は寛大だな、それじゃあ、ありがたくそうさせてもらおう」
「もし陽が沈んでもそちが戻って来なかったら、その時はこの地の全てを氷漬けにしてやるのだ」
「そんな脅しをかけなくても、準備が終わったらすぐに戻って来るさ」
「フフフ、久々の面白い遊び相手なのだ、楽しみに待っていてやるのだ」
「ありがとよ」
アースラは待機させていたウーマに近づいて素早く乗り、フルレティの氷結結界を消し去るため、急ぎアストリア帝国へ戻り始めた。




