第64話・遠い昔に見た表情
テーブル上に広げられた紙にはアストリア周辺の地図が描かれていて、所々に〇印と×印が記されていた。
「女王様、この地図にある印は何でしょうか?」
「これはこちらで調べたアストリア領内にあるストリクスの拠点です」
「ストリクスって確か、ベル君が言ってた魔王崇拝者集団のことだよね」
「ああ」
「私たちは以前からストリクスの動向を調べていましたが、最近になってその活動が活発化し、各地で問題を引き起こしています。ですからストリクス壊滅のために各拠点を叩いていたのですが、私たちでは対処しきれない問題が発生して困っていたのです」
「その問題ってのは?」
「ストリクスはこちらの行動に脅威を感じたらしく、魔界から悪魔を召喚したんだけど、その悪魔の力がとてつもなくて、こちらの戦力ではとても対処しきれない状況なの」
「なるほど、昨日の兵士たちの負傷はその悪魔にやられたってことか」
「ええ、そのとおりよ」
アースラの言葉を聞いたエミリーは、苦虫を噛んだような苦々しい表情を見せた。
「つまりエミリーの頼みってのは、俺にその悪魔をどうにかしてくれってことか」
「ええ、本来はストリクスの壊滅を手伝ってほしくて呼んだんだけど、召喚された悪魔と渡り合える力を持つのは、私の知る限りではアースラしか居ない。だから協力してほしいの」
「もし断ったら?」
「多くの民の命が消えてなくなる、それだけはどうあっても防ぎたいの、この国の女王として、だからお願い」
エミリーは思い詰めたような表情で今にも泣き出してしまいそうだったが、そんな弱気な自分を振るい出すかのようにして頭を左右に振り、毅然とした表情を見せた。
「しばらく見ない間に女王様らしくなったな、切羽詰まった時に辛気臭い顔をするのは変わらないがな」
「余計なお世話よ……」
「わーったよ、だからそんな顔すんな」
「それじゃあ」
「ああ、その依頼受けてやるよ、ただし報酬金は覚悟しとけよ」
「そこは昔馴染み割り引きはしてくれないの?」
「一国の女王様が依頼料を値切ったりするなよ」
「あら、お金はとても大切よ、値切れるものなら値切らないと損じゃない」
「どこかで聞いた覚えがあるセリフだが、どこのどいつがそんなセリフを吹き込みやがったんだ?」
「はあっ……あなたよ、あなた」
「あー、師匠ならそんなことを言いそうですね」
「うん、ベル君なら言うだろうね」
「……まあそれはそれとしてだ、とりあえず詳しい話を聞かせろ」
「あ、誤魔化そうとしてますね?」
「うるせえ、無駄話は依頼が終わってからだ、エミリー、さっさと依頼の話を始めろ」
「ふふっ、ええ、分かったわ」
こうしてエミリーの願いを聞き入れたアースラは、そこからいつものように詳しい依頼内容を聞き始めた。




