第59話・平和な日常
永劫の氷花で作られた特製ポーションによりメグルは体力と精力をある程度回復し、すぐさまアースラの手で解呪が行われたことで呪いから解放された。
「あっ、皆さんいらっしゃい!」
「いらっしゃいませ」
メグルが呪いから解放されて5日後の朝、アースラたちが訪れた猫飯亭には元気に働くメグルとカリンの姿があった。
「調子はどうですか? メグルさん」
「おかげさまで、あれから凄く体調がいいです」
「それは良かったです」
「はい、それもこれも皆さんのおかげです。しかもこうしてお仕事まで紹介してもらって、本当にどう感謝していいか……」
「俺はここの女将が人手を欲しがっていたから紹介しただけだ」
「相変わらず素直じゃないね、ベル君は」
「うるせえよ、まあそう言うわけだから仕事紹介のことは気にしなくていい、俺はメグルとカリンがしっかり働いて報酬金を支払ってくれればそれでいいからな」
「うん、お姉ちゃんと一緒に頑張って、必ず報酬金を渡すね」
「ああ、頑張ってくれ」
「はいっ! それでご注文は何にしますか?」
「そうだな、俺は女将のお勧めセットにする」
「私は野菜サンドとグープレジュースをお願いします」
「それじゃあ私は……シャロちゃんと同じもので」
「どうしたシエラ、そんなんで足りるのか?」
「うん」
「もしかして具合でも悪いんですか?」
「そんなんじゃないけど……」
シエラは横に居るカリンへチラチラと視線を向け、何やらばつが悪そうな表情を浮かべていた。
「アースラさん、沢山食べる女性って嫌いですか?」
「いや、そんなことはないが」
「ですよね、それじゃあ私は洗い物をして来ますから、お姉ちゃんは注文を聞いて来て」
「うん、分かった」
カリンはシエラに向けてニコッと微笑み、軽やかな足取りで厨房の方へ向かって行った。
「何だ今のは?」
「さあ?」
「ふふっ、さあ、ご注文はどうしますか? シエラさん」
カリンの意図を読み取ったメグルは優しく微笑みながらメニュー表を持ち、それをシエラに手渡した。
「……それじゃあポックルの姿揚げに、季節の野菜を使った盛り盛りサラダ、スクローファ饅を十個、ラットゥのスープにペリュンコのソーセージ十本、スクローファのステーキ四枚に、ダッチョの卵で包んだ味つきライスをメチャ盛でお願いします!」
「はい、ご注文を承りました、しばらくお待ちください」
にこやかに注文票へ料理名を書き込むと、メグルは明るい笑顔を見せながら厨房へ向かった。
「調子でも悪いのかと思ったが、大丈夫みたいだな」
「ですね、私も安心しました」
「ああ、飯を食いまくらないシエラなんて不気味だからな」
「もうっ、相変わらずベル君はデリカシーないなあ」
「そんなセリフはシャロと同じくらいの食事量になってから言え」
「師匠、食は生活の基本なんですよ、そんなことを言ったらシエラさんが注文し辛くなるじゃないですか」
「どうせ最初に頼んだのを食い終わったら追加注文するんだろ、だったら少しくらい控えてくれるようになった方が、シエラもオークみたいに太らずに済むんじゃねえか?」
「もうっ、ベル君の意地悪っ!!」
こうしてアースラたちの活躍により、魔王崇拝者集団ストリクスによる、メグルの魂回収事件は無事に幕を下ろした。




