第43話・嬉し恥ずかし秘密の共有
アースラに背を向けて戸惑いの表情を浮かべていたシエラは、意を決した様にして口を開いた。
「えっと、今から証拠の紋章を見せるけど、恥ずかしいから早く見てね?」
「分かった」
シエラは更に顔を赤らめながらそう言うと、返事を聞いてからアースラの方へ振り返って一歩近づき、指で摘まんだ胸元部分の服を下げてその豊満な胸元を見せた。
「ちゃ、ちゃんと見た?」
「お、おう、だがこれが本当に紋章なのかただの刺青なのか、俺には判断がつかんのだが」
「ベル君は本当に疑り深いなあ、それじゃあどっちの手でもいいから革手袋を外して、私の紋章にベル君の紋章を触れさせてみて。私の紋章が本物なら、ベル君の紋章と共鳴を起こすはずだから」
「そうなのか? 分かった」
普段は女性の色香に惑わされないアースラだが、旧知の仲であるシエラの成長した胸元を見て流石に照れたらしく、少し焦った様子を見せながら右手の革手袋を外し、シエラの胸元へ手を伸ばして紋章を触れ合わせた。
「んっ」
アースラの紋章がシエラの紋章に触れた瞬間、シエラは恥ずかしげに小さな声を上げた。すると触れ合った紋章が淡い光を放ち始めた。
――力強い魔力と言い知れない力を感じる、そういえば俺が紋章を宿した時もこんな感覚があったな。
「これが紋章の共鳴ってやつか?」
「うん、これで信じてもらえたかな?」
「ああ」
短い返答をすると、アースラはシエラに触れていた手を素早く引っ込めた。
「ふうっ、凄く恥ずかしかったけど、これでちゃんとベル君の役に立てるって証明できた気がするよ」
「俺の力になりたいって気持ちは嬉しいが無茶はするなよ、俺はお前やシャロを失ってまで目的を果たしたいとは思わないからな」
「えっ!? う、うん、分かった、無茶はしないようにする、ありがとう」
シエラはちょっと恥ずかしそうにしながらも、ニヤケた笑顔を浮かべた。
「何でお前が礼を言うんだ?」
「なんとなくだよ。ねえベル君、せっかく外に出たんだからどこかへ飲みに行こうよ」
「それは構わんが、今回は奢らねえぞ」
「えー、ベル君が連れ出したのに奢ってくれないの?」
「別に飲みに行くつもりで連れ出したわけじゃないしな、それに人の何倍も飲み食いするお前に奢り続けてたら、金がいくらあっても足りねえよ」
「相変わらず酷い言い草だなあ、それじゃあ今日は私が奢ってあげるから、二人で楽しく飲もうよ」
「そういうことなら遠慮なく猫飯亭で奢ってもらうか」
シエラの提案に対しアースラは何かを企んでいるような怪しげな笑みを浮かべ、猫飯亭がある方へ歩き始めた。
「あっ! 私の奢りだからって高いのを注文しちゃダメだからね!」
「それは俺とシャロの二人で五千グランもかからないのに、一人で五万グラン分も食べた奴が言えるセリフじゃねえな」
「あれはベル君が『好きな物を食べていいぞ』って言ったからそうしただけで、私は悪くないもん」
「普通はそう言われても少しは遠慮するもんだろうが」
「ええーっ、そんなのないよぉ」
暗い裏路地から明るい表通りへ出た二人は、お互いの主張を言い合いながら猫飯亭へ向かって行った。




