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第26話・師匠も頑張ってます(前編)

 時はさかのぼり、シャロがゴブリン退治のためにラニーと出発してすぐ、アースラは冒険者組合に居るガリアのところへやって来た。


「よおアースラ、あの嬢ちゃんならついさっき出発したぞ」

「ああ、それは知ってる。それよりも俺の言ったとおりにやってくれたか?」

「おう、お前の注文どおり嬢ちゃんには聞かれたこと以外には答えないようにしてたし、ラニーにはお前が言った偽情報を伝えておいた」

「そっか、サンキューな」

「まあそれはいいんだけどよ、あの嬢ちゃん、詳しい仕事の内容や敵の戦力なんかは何も聞いて行かなかったぞ」

「はあっ!? 何も聞いて行かなかっただと?」

「ああ」

「あの馬鹿、いったい何やってんだ」

「師匠が優秀だと敵の情報なんて必要ないってことじゃねえのか」

「アホ抜かせ、ったく、しっかりしてるようでどこか抜けてんだよなアイツは」

「弟子は師匠に似るって言うしな」

「うるせえよ」


 仏頂面ぶっちょうづらでそう言うと、アースラはやれやれと言った感じできびすを返した。


「行くのか?」

「黙って待ってる訳にはいかんだろ、ったく、本当ならのんびりと待つつもりだったのによ」


 アースラは振り向くことなくそう言うと、足早にシャロのあとを追って行った。


「相変わらず嘘をつくのが下手だな、アイツは」


× × × ×


 円形城塞都市リーヤを出て間もなく、アースラはシャロとラニーの姿を遠目にとらえていた。

 元々この依頼を受ける予定だったアースラは、ここ数日シャロとの修行後に今回の件について色々と調査をし、その結果、見分役のラニーが黒幕であることを突き止めた。

 そして今日、ラニーはアースラによって捕らえられるはずだったが、アースラはその役目をシャロに任せたのだった。


「さてと、ラニーはともかくとして、これ以上近づくとシャロには気づかれるかもな、アイツ妙に勘はいいから。サイレントフィールド、インビジブル」


 アースラは音遮断と透明化の魔法を使い、二人との距離を縮めた。


「改めてよろしくお願いします、ラニーさん」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ガリアから一人での仕事は初めてと聞いていますので、分からないことがあればなんでも聞いてください」

「えーっと、それじゃあさっそくなんですけど、いくつか質問をしても大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですよ」

「今更こんなことを聞くのはどうかと思うんですけど、ゴブリンの戦力はどれくらいなんでしょうか?」

「えっと、ガリアから何も聞いていないんですか?」


 ――そりゃあ驚くよな、そんなことも聞いてなけりゃ。まあこの展開はラニーの目をあざむくにはいい感じだが、それにしてもマヌケだな。


 驚きの声を上げるラニーを見ながらアースラは呆れ顔を浮かべ、二人の会話を聞き続けながら歩いた。


 ――それにしてもコイツ、嘘の中にもしっかりと真実を混ぜ込んで話してやがる。嘘をつき慣れてるって感じだな、あとはシャロがその嘘に気づけるかどうかだが。


 二人のやり取りを見聞きしながら歩き、しばらくしてポックル平原へ着くと、アースラは一人で森の近くへ向かったシャロをラニーのすぐ近くで見ていた。


 ――今のところラニーが動く気配はなしか。まあシャロが駆け出しだってのはガリアから伝わってるはずだし、さっきまでの会話を考えれば駆け出しよりも酷いから、自分が動く必要はないってところか。


 そんなことを思いながら様子を見ていると、シャロは突然森から出て来たゴブリンの群れに前後から挟まれたが、瞬時に空いている方へ素早く動いて挟撃きょうげきを回避した。


 ――素早くいい判断だ、あとは範囲魔法で一気に叩け。


 アースラがそう思って見ていると、シャロは魔力を収束させたファイアストームを放った。


 ――攻撃後も敵の反撃や伏兵に備えているな、それでいい。


「ちっ、ガリアから聞いてた情報よりも戦える奴みたいね。仕事の情報もまともに聞いてないマヌケだからゴブリンたちだけで充分だと思ったけど、ちょっと予想外だったわね……ゴブリンマジックエンチャンターも倒されちゃってるし。仕方ない、なんとかあの洞窟までおびき出してレッドキャップに始末させるしかないわね」


 ラニーは苦々しい表情を浮かべてそう言うと、急いでシャロの方へ向かい始めた。


「シャロがマヌケだったのは間違いないが、お前も相当のマヌケだよ」


 ラニーの背中を見ながら不敵な笑みを浮かべ、アースラも同じくシャロの方へ向かい始めた。

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