第114話・約束を果たすために
アースラたちが村へ来てから38日目の早朝、いよいよ仙草ムーンティアーの収穫を迎えたカルミナ村は、村人総出で賑わいを見せていた。しかしそんな賑わいの中、シャロは厳しい表情でシエラと共に村の周囲を警戒していた。
「シエラさん、今日もモンスターは来ると思いますか?」
「これまでのことを考えれば来るとは思うけど、ここまで頑張ったんだから最後までみんなと村をしっかり守らないとね」
「そうですね、しっかりニアちゃんたちを守らないと」
「シャロちゃんはもうすっかりニアちゃんのお姉さんだね」
「お姉さんだなんて、そんなつもりはないですけどね」
「恥ずかしがらなくてもいいよ、それはとっても良いことで、守りたいものがハッキリしてるのは凄く大事なことだから」
「守りたいもの……」
「今のシャロちゃんにとって、ニアちゃんは何があっても守りたい人じゃない?」
「はい、何があっても守りたいです」
「これからシャロちゃんが成長していく上でその気持ちは凄く大切になると思う、だから大事にしてね」
「はい、大事にします」
こうしてシャロたちの長い日々の活躍によって夕刻にはムーンティアーの収穫も無事に終わり、この村での警護の仕事もいよいよ終わりを迎えようとしていた。そして仕事の終わりを迎えるにあたり、アースラたちは見張り塔の下で最後の仕事の役割決めを行っていた。
「明日のムーンティアーを卸に行く時の護衛はシエラとフルレに任せようと思うが、それでいいか?」
「私は大丈夫だよ」
「フルレもかまわんのだ、久しぶりに町でご飯も食べたいからの」
「よし、それじゃあ明日の町への護衛は二人に任せる、俺とシャロは代わりに雇われた連中が来るまで村の警護だ」
「分かりました」
「それじゃあ話はこれで終わりだ、あとはモンスターの襲撃がない限りは自由にしてくれ」
話が終わってアースラとシャロ以外がその場から離れると、浮かない顔をしたニアがシャロの方へ歩いて来た。
「どうしたのニアちゃん?」
「シャロお姉ちゃん、明日でこの村から居なくなっちゃうんだよね?」
「……そうだね、ここでの仕事も明日で終わっちゃうから」
「また村に来てニアと遊んでくれる?」
「もちろんだよ、また来てニアちゃんと遊ぶ」
「本当?」
「うん、約束するよ」
「良かった、それじゃあニア、みんなのお手伝いをして来るね」
「うん、行ってらっしゃい」
最初に見せていた寂しそうな表情から少しだけ笑顔を見せると、ニアは村人たちがムーンティアーを売るための作業を行っている仕事場へと向かった。そしてシャロは仕事場へ向かって行くニアの後ろ姿を見ながら、ニアよりも寂しそうな表情を浮かべていた。
「シャロ、お前が望むならこの村に残ってもいいんだぞ」
「突然どうしたんですか?」
「お前の顔がここに残りたいって顔だったからな、気を利かせて聞いてやったんだよ」
「私そんな顔をしてましたか?」
「誰が見ても分かるくらいにな」
「……確かにニアちゃんたちとお別れするのは寂しいですけど、私はまだまだ師匠のもとで修業に励まないといけないんです。この世の理不尽から沢山のか弱い人たちを助けるために、ニアちゃんとの約束を果たすために」
「ニアとの約束? 何だそりゃ」
「ニアちゃんが大きくなってお母さんとおじいちゃんの承諾が取れたら、私の弟子にするって約束したんです。だからその時のためにも、私はもっと強くならなきゃいけないんですよ」
「そんな約束してたのか、まあお前がそう決めたなら頑張れ、そして立派な師匠になってニアを強くしてやれ」
「はいっ! 頑張ります!」
――ニアの存在は確実にシャロを成長させている、これからもニアといい関係を築いてくれるといいがな。
シャロの中にある沢山のか弱き人たちを助けるという目標が、ニアという存在のおかげでより明確化したことにより、アースラはシャロが更なる強さと優しさを持つだろうと、柄にもなく期待を膨らませていた。




