第113話・迫る別れ
アースラたちがカルミナ村へ来てから35日目、この村でしか育たない仙草ムーンティアーが収穫の頃合いを迎えようとしていた朝、見張りの交代で村長の家に来て食事を摂っていたアースラのもとへニアが訪れ、浮かない顔で対面にある椅子に座った。
「お兄ちゃんたち、もうすぐ村から居なくなっちゃうんだよね?」
「そうだな、村長の話じゃムーンティアーの収穫は3日後くらいだろうってことだから、ムーンティアーの卸を手伝ったら俺たちの仕事は終わりだ」
「そうだよね、お兄ちゃんたちはお仕事で来てるだけだもんね……」
そう言いながらニアは表情を暗くし、しょんぼりした様子で椅子から下りて外へ出て行った。
――共に過ごせば親しくもなるし、長くつき合えば情もわく、離れるのが寂しいと思うようにもなる。こういう仕事では珍しくないことだが、今回ばかりは色々と考えちまうな。
アースラも魔王を倒しシャロを弟子にするまでは一人旅も多く、訪れた場所の住人と親交を深め、別れが辛くなることも多々あった。だからニアの思っていることにも察しはついていた。
――シャロを弟子にしてから1年くらいになるが、もしシャロがここに残りたいと言ったらそれを認めてやってもいいかもな。アイツは俺の想像を超える早さで強くなってるし、今のシャロなら一人でもこの村を十分に守っていけるだろうからな。
これまでの二人の様子を見てきてニアの思いを察していたアースラは、シャロのこれからのことを思いそんなことを考えていた。そしてそんなことを考えながら用意された食事を全て食べ終えたあと、アースラは村長の家を出て見張り塔の下へと向かった。
「シエラ、ちょっと話があるんだが大丈夫か」
「うん、大丈夫だよ、ちょっと待っててね」
見張り塔の上から下に向かって顔を覗かせたシエラが返答をすると、すぐに顔を引っ込めてから梯子を使って下りて来た。
「どうしたのベル君? もしかしてデートのお誘い?」
「冗談は食べる量だけにしろってんだ」
「もうっ、相変わらず酷いなあ、それで話って何?」
「単刀直入に聞くが、もしシャロがこの村に残りたいと言ったらどうする?」
「えっ!? シャロちゃんこの村に残るつもりなの?」
「だからもしもっつただろうが」
「ああそっか、そうだなあ……うん、私は賛成するよ」
「本当にいいのか? シエラは寂しくなるんじゃないか?」
「確かにシャロちゃんと別れることになったら凄く寂しいけど、それでシャロちゃんが幸せならその方が嬉しいし、何より大切な人と一緒に居られる方がいいだろうから」
「そうか」
「でも、もしもそうなったら私よりもベル君の方が寂しくなるんじゃないの?」
「どうして俺が寂しくなるんだよ」
「だって私よりもベル君の方がシャロちゃんと一緒に居た時間が長いわけだし、そう思うのが当然だと思うけど」
「そうなったらクソ生意気なガキが居なくなるってだけだ、あとは居なかった頃と何も変わらん」
アースラはそう言いながらシエラからスッと視線を逸らした。
「ふふっ、ベル君は相変わらず素直じゃないよね、でもまあ、そんなところも可愛いんだけど」
「年下に可愛いとか言われても嬉しくねえよ。それじゃあ俺は部屋に戻って休むから、何かあったら知らせてくれ」
「うん、分かった」
そう言うとアースラはそそくさとその場を離れ、宿舎の方へ向かって行った。




