第112話・願う未来と約束
「ねえ、シエラお姉ちゃんはアースラお兄ちゃんが好きなんだよね?」
「「えっ!?」」
アースラたちがカルミナ村へやって来てから30日目の昼頃、見張り塔で周辺の監視をしながら、アースラとフルレが昼食を終えて戻って来るのを待っていたシャロとシエラだったが、二人はニアの言葉に思わず監視の目を外してしまった。
「いきなりどうしたのニアちゃん? シエラさんが師匠を好きだなんて」
「えっ? だってシエラお姉ちゃんよくアースラお兄ちゃんを見てニコニコしてるから、好きなんだろうなあって思ったんだけど、違ってた?」
シャロはニアの言葉に対し、まさかね――と言った感じの表情を浮かべながらシエラへ視線を向けた。するとシエラは顔を真っ赤にし、どう答えればいいんだろう――と言った感じでもモジモジし始めた。
「まさか本当に師匠のことが好きなんですか?」
「えっと……うん、そうだよ」
戸惑いでモジモジしていたシエラだったが、最終的にはシャロの質問に頭を頷かせた。
「やっぱり! ニアの思ったとおりだった!」
「まさか本当だったなんて……」
「シエラお姉ちゃんはアースラお兄ちゃんのどんなところが好きなの?」
「どんなところって言われても……」
「私も凄く興味があります、あの師匠のどこを好きになったのか」
「ええっ!? シャロちゃんまで? 困っちゃったなあ……」
興味と好奇心に満ち溢れるキラキラした目で見つめられシエラは困っていたが、そんな二人を無碍にもできなかったシエラは更に顔を赤くしながら口を開いた。
「そうだなあ……沢山あるよ、ベル君の好きなところ。普段は口も悪いし意地悪も言うけど、ちゃんとみんなのことを見てるし、なんだかんだで優しいし、シャロちゃんを強くしようと一生懸命なところも好きだし、独りで居たくない時に側に居てくれたところが一番好きかな」
恥ずかしげにしながらもそう話すシエラを見ていたシャロは、シエラ以上に顔を赤くした。
「アースラお兄ちゃんはシエラお姉ちゃんが好きってことは知らないの?」
「知らないよ、何も言ってないから」
「どうして好きって言わないの?」
「そうですよ、シエラさんに好きって言われたら師匠だって凄く嬉しいと思うんですけど」
「……ベル君には他に好きな人が居るの、だから今はこの気持ちを伝えないって決めてるの」
「えっ!? 師匠って好きな人が居たんですか?」
「うん、ベル君が育った村に住んでた人だけどね」
「でも、かなり前に師匠の住んでた村の人は全員殺されたって聞きましたけど」
「うん、だからベル君は今でも想い続けてるんだよ、亡くなったその人のことを」
「師匠にそこまで大切に思っている人が居たなんてまったく知りませんでした」
「ああ見えてかなり一途なんだよ、ベル君は」
シエラはそう言って微笑んだが、その微笑みに寂しさが入り混じっているのは誰の目にも明らかだった。
「それじゃあシエラお姉ちゃんはずっとアースラお兄ちゃんに好きって言わないの?」
「そんなことないよ、いつかベル君のその人に対する気持ちに整理がついたら、その時はちゃんと伝えるつもりだよ」
「それじゃあアースラお兄ちゃんと結婚する時には絶対に教えてね!」
「えっ!? け、結婚? 結婚かあ……そうだね、今は結婚なんてできるか分からないけど、その時が来たらちゃんと教えるね」
「うん! 二人が結婚したらニア沢山お祝いするから!」
「ありがとう、ニアちゃん」
「おーい! 飯が終わったから交代するぞー!」
「あっ、はーい! シャロちゃん、ニアちゃん、今の話ベル君には絶対に内緒だからね?」
「うん」
「分かりました」
「ありがとう、それじゃあみんなで美味しい昼食を食べに行こう」
「「おーう!」」
こうしてアースラ、フルレと見張りを交代したシエラたちは昼食の間も恋愛話で盛り上がり、明るく楽しいひと時を過ごした。




